石川幸宏コラム 『My POV』 vol.13|画質評価に繋がった4K Fineモードの優位性
公開日:2026年10月30日

今回は、少々手前味噌な話になってしまうが、私が昨年プロデュースした短編映画『空白のタイトル』(岡島龍介監督、出演:本島純政、中島もも)が、このたび、さまざまな映画祭で賞を頂くことになった。とはいえカンヌやヴェネチアといった大きな国際映画祭ではないのだが、昨年夏の完成以降、岡島龍介監督作品として世界の映画祭に出品しており、これまでも海外の小さな映画祭ではいくつかの賞を受賞している。
そしてこの度、国内の映画祭で2つの賞を頂いた。
一つはGolden Harvest Film Festival 2026(黄金収穫映画祭)で最優秀短編映画賞(Best Short Film Award)を受賞。そしてもう一つは、つんく♂さん総指揮の「TOKYO 青春映画祭 2026」では、なんとグランプリを獲得してしまった。
10月初旬に都内某所で行われた上映会と表彰式にも参加させて頂き、初めて賞レースのトップに立つという経験までさせて頂いた。ここで改めてこれらの映画祭の関係者に感謝とお礼の言葉を述べておきたい。
自身が関わった作品が評価されるというのは、もちろん嬉しいことだ。しかし、審査員や観客から寄せられた評価のなかで、特に印象的だったのが、実は多くの感想の中で、その『映像が美しい』という声が非常に多かったことだ。
映画の映像美というのは、撮影監督の技術や照明、レンズの選択、ロケーション、そして作品全体の美術設計など、さまざまな要素が思い浮かぶ。そしてカメラは、その表現を実現するための重要な道具のひとつだ。本作は全編EOS R5 Mark IIで撮影されている。
では、今回の作品で多くの方々に評価された「映像が美しい」という印象が、どこから生まれたのだろうか?これを今一度技術的にも探求してみたい。

「美しい映像」を裏付けるもの
TOKYO 青春映画祭 2026のグランプリ受賞に至った理由として、総指揮のつんく♂さんから寄せられた表彰時のメッセージをそのまま記すと、
「時代に媚びていないスタンダードで力強い展開。スタンダードという言葉を使いましたが、決してありきたりな王道ということではなく、基礎がしっかりしていてオリジナリティがある、という意味です。そしてとにかく映像が美しい!短編映画なのに時間の経過も慌ただしくない。ここからは撮影現場を見たわけではないので想像ですが、役者だけでもなく、脚本だけでもなく、ワンマン監督でもない、まさに全てのバランスの良さがこの映画の魅力で、チームみんなで支え合って力強い作品が生まれたんじゃないかと思います。グランプリにふさわしい素晴らしい作品です。」というお言葉を頂いた。
ご指摘のとおり、この作品はなんのギミックも、社会問題提起も、私的な主張もなく、純粋に青春純愛作品として作った非常にスタンダードな作品だ。そこは映画祭のテーマとも合致したところで評価されたのだと思う。また総評でも語られていたが、AI全盛になりつつあるこの時代において、全編カメラで実写撮影した丁寧に作られた映画という点や、もちろんキャスト、スタッフ、ボランティアを交えたチームで作ったというところに触れて頂いたことは、私自身とても嬉しかったところだが、このメッセージの中にも『映像が美しい』というコメントあった。また会場で感想を頂いた方々からも、映像の美しさを評価して頂く声が多数頂いたのは事実だ。
今回のこの「映像が美しい」というキーワードを技術的に紐解くに、やはりEOS R5 Mark IIの8Kセンサーからオーバーサンプリングされた、『4K Fine』を記録モードとして選択したことが大きく寄与していると考えている。
オーバーサンプリングによるメリット
近年、デジタルカメラの性能は大きく進化している。高解像度化はもちろん、色や階調の再現、暗い場所での撮影性能など、映像を記録する技術そのものが向上してきた。
EOS R5 Mark IIは、2026年秋現在でもキヤノンカメラの中で最も大きな8K記録に対応する高解像度センサーを備え、さらに4K動画ではオーバーサンプリングを利用した高精細な記録が可能だ。EOS R5 Mark IIには『4K Fine』という8Kからのオーバーサンプリングによる高精細な4K記録モードが搭載されている。
オーバーサンプリングとは、簡単にいえば、最終的に必要な解像度よりも多くの画像情報を利用して映像を生成する技術である。たとえば、EOS R5 Mark IIであれば8Kセンサーという、より多くの画素情報から4K映像を作ることで、細部の描写をより自然にし、精細感の高い映像を得ることが期待できる。
実はこの作品を撮る前に、8Kを最大に活かす8K RAW記録と4K Fine記録の比較テストを行った。当然ながら8Kセンサーの恩恵を最大限に活かすには、8K RAW収録が最も適切だろうと考えたからだ。しかし実際のテストを行ってみると、8K RAWはセンサーそのままのデータなのでノイズもそのままの状態だ。動画制作では後工程のポストプロダクション作業において、カラーグレーディング等と共に、ノイズリダクションも作業工程として入れるので、そこの問題はないのだが、短編映画という低予算での制作となった場合、一番大きいのはそのデータ容量だ。
これはプロデューサー的にも最も大きな問題なのだ。実数値で比較してみると図表のようになる。

センサーそのままの生データを収録できる8K RAW(標準)モードだと、4K Fineモードに比べて約18.6倍、8K RAW(軽量)モードであっても約9.6倍の容量になる。また4K Normalモードについては、今回の撮影では考えなかった。
もちろん、8K RAWはポストプロダクションの自由度という点で言えば一番良い画質が得られるが、バジェットが大きな劇場映画などとは違って、低予算のインディペンデント作品では、このデータ容量の差はプロダクションを成立させるためにはかなり大きい影響がある。撮影収録時にそのデータ量が記録されるわけだが、その後ポストプロダクションの工程では加工の工程を経る中でさらにデータ量は増えていくわけで、そこでのストレージ確保とやりくりの問題は制作工程に大きく響いてくる。
8K RAWと4K Fineの画質を比べた際に見た目の画質はほぼ変わらない。むしろ撮った素材のデータだけ見れば、S/N比は4K Fineの方が優れていることがわかった。
S/N比(エスエヌ比)とは、「Signal to Noise Ratio」の略で、日本語では信号対雑音比という。簡単にいうと、必要な映像情報(信号)に対して、不要なノイズがどれくらいかを表す指標このことで、通常単位はdB(デシベル)で表される。その数値が大きいほど、信号に対してノイズが少なく、小さいほどノイズが多い。映像の場合、特に暗い部分や、明るさがあまり変化しない部分でノイズの影響が見えやすくなる。
オーバーサンプリングの場合、最終的な4K映像よりも多い情報を利用して、複数の画像情報をまとめて出力映像を生成するため、ランダムなノイズが平均化され、細部の描写とノイズの見え方が改善され、結果的にノイズ低減が期待できるわけだ。
実際にこのカメラテストのデータ結果を見て、4K fineモードで収録することに決定したが、これによりロケ現場に持っていくストレージが8K RAW(標準)であれば20~30TBが必要だったが、4K Fineモード収録になったことで、2TBでも十分足りる計算になったことは、制作予算としてもとても大きかった。
ましてや今年に入ってからのメモリーカードやSSDストレージの急激な高騰の状況にあっては、撮影データをどう収録するかは、制作予算に大きく関わってくるだろう。
「画質がきれい」とは、どういうことなのか
もちろん、解像度が高いだけで美しい映画が撮れるわけではない。レンズの選択、照明、露出、色彩設計、そして撮影する人の感性や技術が、映像の印象を大きく左右する。
しかし、撮影現場で捉えた光や色、被写体の細かな表情を、カメラがどれだけ豊かな情報として記録できるか。それは、映画の映像表現を支える重要な要素だと思う。
そして映像を見て「きれいだ」と感じる理由は、必ずしもひとつではない。
細部まで鮮明に見えること。肌や風景の色が自然に感じられること。明るい部分から暗い部分まで、豊かな階調が保たれていること。あるいは、画面全体から受ける印象そのものかもしれない。
こうした要素は、解像度などの数値だけでは説明できない。カメラのスペックを比較することは大切だが、その性能が最終的な映像のなかでどのように活かされるかは、実際の作品を通して考える必要がある。
『空白のタイトル』に対して、映像の画質がきれいだという評価を頂いたことは、カメラの性能が単なる数値ではなく、観客が作品を体験するうえでの価値につながり得ることを、改めて意識させてくれた。

映画制作では、長い歴史のなかで、作品や撮影条件に応じたさまざまなカメラが使われてきた。映画専用に設計されたカメラには、それぞれの現場で培われた機能や運用上の利点がある。
一方で、近年のミラーレスカメラの進化によって、映画制作に活用できる機材の選択肢も広がっている。最新のEOS R6 Vにも、7Kセンサーからのオーバーサンプリングモード搭載や、オープンゲート機能も搭載されており、上位機種に引けを取らない映像が得られるだろう。
ただ大切なのは、カメラのカテゴリーや価格だけで判断するのではなく、作品に必要な表現を実現できるかどうかを見極めることではないだろうか。
もちろん『空白のタイトル』の受賞をカメラの性能だけに帰するつもりはなく、映像作品というのは、監督や出演者、撮影スタッフをはじめ、多くの人たちの仕事が結びついて完成するものだ。カメラは、その創造的な仕事を支える道具のひとつである。
それでも、初めてプロデュースした作品が最優秀作品やグランプリを受賞し、映像の美しさについても評価をいただけたことは、私にとって大きな経験になった。
機材の機能進化を知ること。そして、それを作品のなかでどう生かすかを考えること。今回の経験を、次の映画づくりにもつなげていきたいと思う。
本コラムについて
本コラムは、映像制作や上映方式に関する一般的な技術背景や歴史的な事例を紹介することを目的とした解説記事です。
本文中で言及しているフォーマット名、上映方式、配信サービスなどは説明上の例示であり、特定の企業・製品・サービスとの提携、認証、推奨、または公式的な見解を示すものではありません。
PROFILE
石川 幸宏(いしかわ ゆきひろ)
映像プロデューサー/ジャーナリスト
日本映画撮影監督協会 機関誌「映画撮影」編集長
映像関係専門のジャーナリストとして約30年に渡って活動。国内外で映像制作機材、技術、制作ワークフローなど取材し、記事執筆も多数。
DV Japan誌、HOTSHOTなどの専門誌の編集長を歴任。映像関連のアドバイザー/コンサルタント/スーパーバイザーや、近年は映像プロデューサーとして作品制作にも参画。日本映画撮影監督協会 賛助会員、(一財)プロジェクションマッピング協会 理事/広報アドバイザー。