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石川幸宏コラム 『My POV』 vol.5|映像編集の基本と、編集の可能性

映像における「編集」の意味とは?

2026年今年の正月休みに久しぶりに連続モノのネット配信ドラマに夢中になっていた。2020年のコロナ禍中ではネット配信ドラマの視聴が日課だった時期もあったが、ここ数年はさすがにそんな時間が取れる暇もなく、TVドラマや映画も、仕事で関係するような作品についてのみ視聴するくらいしか出来なかった。
今回様々な作品を観る中で、ふと「映像の編集」について改めて考えるようになった。有名映画監督が撮ったある作品で、話題の役者が出演している作品だったが、冒頭からなぜかストーリーも設定も全く頭に入って来ない。正直言って面白くないのだ。しかも最初から意味不明なカットが並び、観ている側がどんどん置いていかれる感覚に陥った。結局この作品は最初の1話を見終わることなく、観るのを止めてしまった。以前からよく語られていることだが、特に日本の作品は正直言ってそのストーリーを伝える力が非常に弱いと感じざるを得ない作品もまだ多く存在する。
その原因は何か? 単に映像の編集を知らないからなのではないか? そんな疑問が久々に色々と頭に思い浮かんだ。
最近はスマホ視聴による、YouTubeやTikTokなどのショートドラマが多く見られていて、短い作品はそれなりに面白いものも多々ある。
しかし1時間を超える映画やドラマといった物語を伝える映像作品が廃れてしまったかといえばそういうわけでもない。現に昨年大ヒットした映画『国宝』は175分という大作だが、22年ぶりに邦画実写映画の興行収入記録を塗り換えたのは記憶に新しい。だがそういう作品を作る際には基本的な映像編集の「基本的なお作法」というものが存在する。そしてそれがある程度守られていなければ観客の心は掴めないのだ。どうにも心に響かない作品を目にする度に、ひょっとして今はそうした基礎教育を受けたことがない人がプロとして映像編集をしているか? という疑問すらよぎった。
私自身は、特に映画の専門学校でちゃんとした教育を受けたわけではないが、多くの取材を通じて得た経験から、回数を積み重ねるうちに、自ずと私自身も映画/映像の編集というものがどうあるべきで、面白い作品、面白くない作品というのは何がどう違うのか? というロジックもわかってきた。その理由として昨年は私自身がプロデュースした映画作品の編集にも多く関わり、よりストーリーの伝わりやすさを真剣に考えるようになったからかもしれない。
そこで今回は映像作品、とりわけ映画やドラマなどストーリーを伝える映像編集の基本について少し語ってみたい。
ただし、ここで書いたものが映像編集の全てではないし、若くて斬新な編集感覚を持ちこんで、面白いと思わせる新たな作品も多々存在する。私がここで語れるのは、まずその基本の「キ」に当たるものでしかないことを前提としておきたい。

映画を作る目的と、海外と日本作品の根本的な違い

ロサンゼルスの南、トーランス市にあった、ISMPの当時の様子

かつて米国ロサンゼルスに、ハリウッドで活躍することを目指す日本人のための実務的な映画制作技術を教える専門学校が存在した。それがISMP(International School of Motion Pictures)である。この映画学校の学長は、日本人のハリウッド映画編集者で、リドリー・スコット監督の『グラディエーター』『ハンニバル』『ブラックホーク・ダウン』『アメリカン・ギャングスター』、ベルナルド・ベルトリッチ監督の『リトル・ブッダ』、ガス・ヴァン・サント監督の名作『グッド・ウィル・ハンティング』など、数々のハリウッド映画作品の編集で、1stアシスタントエディターとして第一線で活躍されてきた横山智佐子さんだ。
私はかつて毎年のようにLAを訪れる度にその学校へも立ち寄り、横山さんを中心にハリウッドで活躍する多くのクリエイターと交流することができた。そして私自身も取材を通じて映画編集について多くを学ぶことができたのだ。最初に断っておくが、ここでお話しする内容のほとんどは、ISMPでの講義から得た知識であることを最初に断っておきたい。
さて本題に移るとして、まず映画(映像)編集とは何か、映画編集者とは何か? さらにその前に、まず映画を作るというのはそもそも何なのか? を考えてみたい。
まず海外の多くの映画学校で最初に教えられるのは、映画を作ることの究極のゴールとは何か? ということ。それは「観ている観客をその映画の世界に引き入れ、感情を伝えること」にある。そして映像で観客の心を捉え、さらに一度つかんだ観客の心を離さないようにするためには、編集者が「第3者の客観的な視点」を持つことが重要だ。
撮影素材を切って貼るだけが編集ではないことは当然だが、ハリウッド映画を含む海外作品と日本作品の大きな違いとは何だろうか? よく語られるのは「バジェット(予算)」「制作スケール(規模)」「スタッフ・キャストの質」だ。もちろん予算があれば何でもできるという話は全てにおいて通じるかもしれないが、特に作品の質を左右する根本的な違いとして大きいのは、「監督の位置付けと編集者の役割」である。

編集が意味すること、編集者の責任

ハリウッドにおける映画編集で、昔から語られている言葉がある。
“Film editing is where re-directing and re-writing happen.”
(映画編集とは、再演出および脚本の書き直しが行われる場である。)
つまり、ロケ撮影が上手くいかなかったり(例えば悪天候や想定と違う撮りこぼし)、脚本がつまらないもので現場での役者の演技や演出がうまく行かなかったりしたとしても、その後の編集を頑張れば、作品自体を書き直せるチャンス、つまり最終的に作品がもっと良くなるチャンスがある、という意味だ。

ハリウッド式映画編集の3つの基本

ハリウッド式(あえてそう呼ぶが!)の映画編集には大きく3つのポイントがある。特に映画編集において何より「わかりやすさ」というのが重要なポイントであることは揺るぎない。下記の3つの「わかりやすさ」をどう具現化するかが映画編集の最も重要なポイントとなる。
<1>物理的な「わかりやすさ」
これは編集テクニック的な部分だが、王道と言われるカットを選別することでストーリーの基本を形成する。
これは、ハリウッド映画が世界のどこで上映されてもヒットするためのテクニック的なわかりやすさを表すための、物語の核となるストーリーの継続性を示すための編集技法だ。いわゆる「Continuity Editing(コンティニュイティ・エディティング)」と呼ばれるもので、時間や場所が異なる複数のショットを繋ぎ合わせた時に、観客(視聴者)に矛盾なく連続した一つの流れ(継続性)として感じさせることが重要になる。これは映画やドラマの物語に没入させるために最も重要で不可欠なことであり、これはどの国のどんな映画学校に行っても、最初に基本の「キ」として習うところでもある。ちなみに「絵コンテ」の「コンテ」とは、この「Continuity(連続性)」に由来する。
さらに重要なのは、作品を観ている観客には、これが意図的に編集されたことを気づかれないことが重要で、ストーリーをシームレスに進めることが一番の目的になる。それを実現するために必要な様々な撮影方法が存在することも、まず最初に理解するべきところだ。
例えば、
・エスタブリッシュ・ショット
・ショットリバースショット
・180度線ルール
・30度ルール
・カットアウェイ
などなど
上記のようなカットや技法が多々存在するが、これはどれも「Continuity(連続性)」を重視するが故に必要なものでもある。これらの撮影技法やルールについては、また別の機会に詳しく紹介したいと思う。

©2025 空白のタイトル/DVJexpress
昨年、私がプロデュースした、EOS R5 Mark IIで全編撮影したショートフィルム作品『空白のタイトル』では、ラストカットでもこのコンティニュイティ・エディティングの手法を用いている。このシーンは、本作品のクライマックスを迎える場所がどんな場所であるかを観客に説明するための、海岸の堤防の引きの映像から始まる。これが状況説明のための「エスタブリッシュ・ショット」になる
ロケ現場_美しい夕景の限られた時間内に、必要なカット数を得るため、4台のカメラで撮影した。
©2025 空白のタイトル/DVJexpress
この中ではショットリバースショット=日本では「切り返し」と言われる撮影技法を一度にマルチカメラで収録。
©2025 空白のタイトル/DVJexpress
さらに180度線ルールによる切り返し撮影。2人の登場人物が向き合っている際に、その2人を結ぶ仮想の直線(イマジナリーライン)を引き、カメラはそのラインの片側180度の範囲内に留まらなければならないというルール。この目的は登場人物の「左右の立ち位置」と「視線の方向」を固定するためで、このイマジナリーラインを越えて反対側から撮影(180度を超える)してしまうと、画面上の左右が入れ替わり、観客には「今まで右を見ていた人が急に左を向いた」ように見え、空間把握ができなくなるからである。

<2>物語の「わかりやすさ」
いわゆるストーリーテリングと呼ばれる、物語構成の基本部分だ。これはストーリー構成の基本を設計することであり、長くハリウッドで親しまれてきた脚本論に由来する。
この脚本の組み立て方として、「The Six Stage Plot Structure(6段階のプロット脚本構成)」という基本設計図がある。
例として、仮に100分の映画作品があったとして、これを時間のタイムラインで区切って、6つのブロックに分けて構成する。これも多くの映画学校では最初の基本として学ぶことだが、これが観客側に一番ストーリーを伝えやすい最大公約数的なロジックとしてハリウッドが構築してきた手法だ。脚本コンサルタントのマイケル・ハウグが提唱した、物語の感情的な起伏と構造を同期させる理論で、全体のタイムラインからストーリーを5つの「ターニングポイント」で区切り、以下の6つのステージで構成したものだ。

6段階プロット構成図

各々の部分を解説してみよう。
1.セットアップ(Setup)
主に主人公の日常を示し、どのような世界で生きているかを表す。時間軸として最初の0%〜約10%を占める。
2.新たな状況(New Situation)
【ターニングポイント1:チャンス】が発生し、主人公が新しい目的や状況が訪れる。10%〜25%で展開。
3.進展(Progress)
【ターニングポイント2:事態の変化・変更】を経て、主人公が目標に向かって本格的に動き出す。この時点では事態は一見順調に進んでいるように見える。進行は25%〜50%あたりで展開する。
4.複雑化(Complications)
【ターニングポイント3:ポイント・オブ・ノーリターン(引き返し不能点)】を境に、敵対勢力の妨害や状況悪化が激しくなり、リスクが高まる。この辺でストーリーの中間部、50%〜75%部分で展開。
5.最終的な追い込み(Final Push)
【ターニングポイント4:最大の危機】が訪れ、主人公はすべてを失ったかのような絶望や、人生最大の壁、または引き返せない最悪な状況に陥る。そこから最後の力を振り絞り、葛藤しつつ解決へ向かう。ここが物語のクライマックスとなり、全体の75%〜90%で展開される。
6.完結(Aftermath)
【ターニングポイント5:クライマックス】で葛藤や困難を乗り越え、目的を達成(または失敗)した後の結末が描かれる。主人公がどのように変化したかを示して物語はエンディングへ。これが最後の90%〜100%で展開されてエンディングに向かう。
演劇の芝居構成にも通じるが、元々ハリウッド式脚本術における「アクト(幕)」というのが存在し、物語全体を大きく3つに分割した構成単位のことで、一般に三幕構成(Three-Act Structure)と呼ばれる。マイケル・ハウグが提唱した、この「6段階プロット構成」は、この三幕構成をさらに詳細なステージ(段階)とターニングポイントに分解したもの。
アクト1:設定(Setup)
物語の導入部で、全体の約25%。主人公の日常、性格、抱えている問題、そして物語の最終目標となる「きっかけ」が描かれる。
アクト2:対立・葛藤(Confrontation)
物語の中盤で、全体の約50%を占める最も長いパート。主人公が目標達成のために行動を開始し、さまざまな障害や敵対勢力とぶつかりながら葛藤する様子が描かれる。
アクト3:解決(Resolution)
物語の完結部で最後の約25%。最大の危機を乗り越え、クライマックスで最終的な決着と、事件を経て変化した主人公の新しい姿(後日談など)を示す。
このように、アクト(幕)という大きな枠組みの中に、より具体的なアクションや心理変化を伴う「6つのステージ」が配置されている。
5分のショート作品でも、3時間の大作でも、基本はこのような構成で展開することで、ストーリーはより伝わりやすくなる。ここが編集テクニックの基礎として、感覚的に身についている=意識しているかどうかが、ある意味で映像編集の基本の「キ」の軸の部分なのかもしれない。

<3>感情の「わかりやすさ」
ここは編集者の腕の見せ所といった最も高度な編集テクニック、というかセンスが試される部分だろう。上記の2つの物理的・物語のわかりやすさを実現した後に、カットごとの尺やフッテージ(撮影素材)を選び直して、今度は役者の演技のどの部分を引き出すか? 素材のカットからどの方向からどのくらいの尺(時間)を見せるか? を選別し、観客の視線がこの時どこを見ているか、どこに注目が行くのかを想像し、それを展開で誘導することで感情移入させる、という極めて熟練の技と素材選びのセンスが問われる部分だからだ。これを習熟するには多くの映画作品を何度も見て研究するしかないのではないかと思われる。映画学校で多くの過去作品を鑑賞することを勧められるのは、より感情のわかりやすさのパターンを発見し、そのセンスを磨くことが重要だからと考えられる。
この3つのポイントを踏まえた上で、編集者の判断と監督との協議から、追加作業として、脚本の変更や書き足し、追撮、ナレーションの付加、テロップ付けなどが行われ、更なる「わかりやすさ」が追加される。

©2025 空白のタイトル/DVJexpress
感情を表すシーンではどの角度からのショットが良いかを選ぶセンスが求められる。「空白のタイトル」より

時代に即した新たな編集アプローチ

映画制作の現場では、2026年現在もこの「6段階プロット構成」のような古典的な枠組みは依然として重要視されている。しかし配信サービスの普及や、どれも同じ作品に見えてしまう視聴者の「型」への慣れに伴い、その基本をあえて崩す、あるいは補完するような新しい手法やアプローチも一般化しつつあるようだ。
1.8シーケンス手法(ミニ・ムービー形式)
6段階構成よりもさらに細かく、物語を約10〜15分ごとの「8つの小さな映画(シーケンス)」の集合体として捉える手法。
特徴:各シーケンス自体に「導入・葛藤・解決」を持たせる。
メリット:長いアクト2(中盤)での中だるみを防ぎ、視聴者の関心を短期間で惹きつけ続けることができる。
2.非線形(ノンリニア)構造の多様化
時系列をバラバラにして配置する手法で、『パルプ・フィクション』(1994:クエンティン・タランティーノ監督)で最初に試されたが、現代では標準的な演出へと進化している。
アンチ・クロノロジカル:物語の結末を最初に提示して、なぜそうなったかを過去に遡って解き明かす形式。
タッチストーン構造:緊迫した決定的な瞬間(タッチストーン)から開始し、後からその文脈を埋めていく。
3.キャラクター・ドリブン(内面重視)へのシフト
プロット(出来事)の起伏よりも、キャラクターの「感情の揺れ」や「心理的な変化」を構造の主軸に置く手法。
ストーリー・シェイプ:登場人物の「感情のグラフ」を元に、幸福と不幸の波を設計する。
ヒロインズ・ジャーニー:従来の「英雄(男性)の旅」のような外的な勝利ではなく、内的な統合や家族・コミュニティとの繋がりを重視した構成。
4.複数主人公・マルチプロット(アンサンブル形式)
一人の主人公が目的を達成するのではなく、複数のキャラクターの物語が並行し、特定の「テーマ」や「事件」で交差する構造で、誰か一人の成功がゴールではなく、全体として一つの真実や状況が浮かび上がるようなストーリー設計。
また最近ではデジタル・ストリーミング向け最適化のトレンドとしては、TikTokやYouTubeなどの短尺動画に慣れた視聴者向けに、「アクト1を極端に短くする(開始数分で最大の事件を起こす)」、あるいは「アクト2の山場を連続させる」といった、よりスピード感を重視した変則的な構成が増えている。
ただこれらの手法は先の「6段階プロット構成」を否定するものではない。視聴者を飽きさせないためのアレンジや解体・再構築として活用されているのが特徴だ。
こうした編集技法の基礎や最新の編集技法が、現代の映像クリエイターたちにどのくらい浸透しているのかはわからないが、基本の「キ」を知っておくことは悪いことではないし、それを知ることでそこから自分なりの研究で新たな展開を考えることで、時代に合った面白い作品作りに繋がることに期待したい。

PROFILE

石川 幸宏(いしかわ ゆきひろ)

映像プロデューサー/ジャーナリスト
映像関係専門のジャーナリストとして約30年に渡って活動。国内外で映像制作機材、技術、制作ワークフローなど取材し、記事執筆も多数。
DV Japan誌、HOTSHOTなどの専門誌の編集長を歴任。映像関連のアドバイザー/コンサルタント/スーパーバイザーや、近年は映像プロデューサーとして作品制作にも参画。日本映画撮影監督協会 賛助会員、(一財)プロジェクションマッピング協会 理事/広報アドバイザー。

関連リンク

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My POV vol.5
https://personal.canon.jp/articles/tips/movie-tech/mypov-05
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https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/tips/movie-tech/mypov-05/image/mypov-vo5-720x444.jpg?sc_lang=ja-JP&hash=0903C2FC7B0F3BDB1C38C30332E31FCF
2026-02-03