石川幸宏コラム『My POV』vol.0
公開日:2025年9月19日


My POV スタートに寄せて


新たに始まるこの連載コラム「My POV」を担当します、映像プロデューサー/ジャーナリストの石川幸宏です。
映像撮影における『カメラと登場人物の視点が同一となる、一人称視点の撮影方法』として、今はすでに映像用語としても認知され、またSNSやゲームの世界でも頻繁に使われる、POV(ピー・オー・ブイ)。『Point of View』の略であるこの『POV』をキーワードに、業界取材歴約30年のキャリアを持つ私、映像プロデューサー/ジャーナリストである石川幸宏がこれからの新製品や新技術、また映像制作に関わる様々なテーマについて、私なりの『視点』を綴りながら解説していくコラムを、ここから毎回発信していきます。
またキヤノンから今後発表される新製品や新技術、またその時の技術的なトレンドや映像世界の専門的な用事用語の解説、その他注目ポイントなども紹介していく予定です。
私は、映画やミュージックビデオ、放送、ネット動画など、まだ一部のプロフェッショナルだけが映像制作を行っていた時代から、この世界に関わってきましたが、今や優れた動画撮影機能を有した小型ミラーレスカメラが溢れ、またスマートフォン等のカメラ機能と、スマホやPCでの映像編集アプリの普及によって映像制作の工程がシンプルになったことで、誰でもが映像コンテンツ制作に参入できるようになりました。
ですからこのコラムの内容についても、プロだけではなく広く映像制作入門者や映像初心者でもわかるような汎用性の広い視点とレベルで解説して行こうと思います。
またプロ視点の紹介記事として、カメラマンや監督・演出家、その他映像業界に関わる方々へのインタビューや、業界関連イベントなどについても触れて行こうと思います。
ナレーションコピーから始まった執筆業

さて、このコーナーを担当することになった私ですが、少し自己紹介をさせて頂きましょう。
現在、映像プロデューサー/ジャーナリストの肩書きで活動しておりますが、ざっくり言うとこの映像業界を俯瞰する立場で約30年間ウロウロしながら、基本的にはカメラやレンズなどの新製品を取材して記事を書く、映像技術系のジャーナリストとして活動してきました。
また、現在は下記の団体にも所属しております。
JSC 日本映画撮影監督協会 賛助会員(2020〜)
PMAJ 一般財団法人 プロジェクションマッピング協会 理事/広報アドバイザー(2011〜)
私の映像制作に関わるキャリアですが、最初に入社した空間BGMの企画制作とサウンドCM、TVCM、ラジオCMや番組制作などを手掛ける制作プロダクションでの経験から始まります。映像製作に関わった記憶として今でも鮮明に覚えているのは、新入社員時代の最初、5月の暑い日にその年末の初詣のCM撮影のロケ現場の助手として手伝いに行った時のことです。営業も担当する新入社員だったので当然ながらいつも通りスーツを着て現場に行ったところ、いきなりプロデューサーに「お前、なんでそんな格好してきたんだ!」と怒鳴られたところから始まりました。制作ADとして現場を手伝うために呼ばれたのに、スーツ姿ですから「クライアント様か、お前は?」と怒られたのが最初の現場でした(笑)。そりゃそうですよね、最年少の若造が現場でスーツ姿って新人のくせにエラそうに!ってことになります。今の時代では現場で怒鳴られることも少ないと思いますが、あの時代はまだそういう風潮でもありました。
その後いくつか撮影現場を手伝うこともありましたが、仕事でサウンド広告の制作を体験したことが、自身のライター活動の起点にもなっています。よくショッピングモールやスーパーの店内などで流れている、BGM音楽に載せたナレーション告知ってわかりますか?簡単に言えばあれがサウンド広告で、BGMに載せてナレーションでその時の特売品やセール情報、キャンペーンの告知などをするものです。あのナレーションの原稿作成が私にとって初めてのプロの現場でのライター稼業となりました。
最初の原稿は、忘れもしない某大手スーパーの生鮮売り場の、天津甘栗のセール告知案内でした。数百店舗を構える大手スーパーチェーンで、各売り場に置かれたカセットテープレコーダー(まだその時代!)でエンドレスに流すものでした。しかしあまりに制作期間も予算もなかったので、コピーライターを雇う予算もなく、仕方なく営業担当の自分がナレーションコピーを書いたのですが、実際にナレーションを録音する時になってディレクターにすぐそれが自分が書いた素人原稿だとバレてしまいました(笑)しかしまた怒られるかと思いきや、そこからこういう時にはこう書くんだと毎回色々と添削して教えて頂き、次第にナレーション原稿と連動するチラシのコピーも自分自身で書くことが増えたのです。営業担当としては当然範囲外の仕事でしたが、当時、勝手に制作営業というスタンスをとったことで、結果的にコピーライティングの費用も減りますから、会社には喜ばれました。そしてそのやり方が次第に自分流の営業制作スタイルになりました。いま考えると、この時代の経験と修行がコピーライターとして、さらにこうした執筆業の修行となって今の自分の礎になっていたのだと思います。
映像業界のマトリックスを知る
この会社を離職した後、すぐに友人とIT企業を起業してしまったため、映像制作の現場とは少し無縁になりますが、その時はパソコンの普及期でパソコン関連のHOW TO本や専門雑誌の連載記事の執筆・編集も多くに関与し、編集のノウハウを覚えることができました。その中で偶然にも映像業界の全てを閲覧できるデータ資料書籍の制作依頼をきっかけに、その数年後、映像ジャーナリストとして独立したのです。
この時放送局から始まり、ビデオ制作、映画製作会社、プロダクション、機材レンタル会社、業界関連団体など、映像業界にこんなにたくさんの業種があり、様々に複雑な仕事を経て映像コンテンツが出来上がっている仕組み、つまりこの国の映像業界全体のマトリックス(組織形態)を知ることができたのは後に大きな財産になりました。
そこを起点に、日本より進んでいたデジタル映像技術の取材を海外にも例年敢行するようになり、そこで知ったアメリカの雑誌『Digital Video Magazine』と業務提携したことで、1999年に映像制作者のための雑誌『DV Japan(デジタルビデオマガジン・ジャパン)』を創刊し、編集長に就任。時代はフィルムからデジタルビデオへ移行して10年ほど経った、ある意味デジタル化の全盛期で、ここから現在の映画、TV、業務用ビデオ、Web映像など、様々な幅広いジャンルの映像制作の現場取材を通じて多くの知見を得ることができました。
その後、映像制作関連の多様なイベントやワークショップも主宰、2008年ごろには当時先駆けだったUstreamを使ったネット配信のライブイベントなどもこの黎明期から手がけてきました。
2016年、フリーペーパーとWebのハイブリッドメディアブランド「HOTSHOT」を立ち上げ。2020年からはYouTube番組「HOTSHOT DX jam」を配信開始。100本以上の業界関係者インタビューやレポート映像をアップロードして、これまでに約15万回以上のPVを記録しています。
また昨年、2024年からは、国内最大の映像機器展、InterBEEにて、映画製作に特化したINTER BEE CINEMAエリアの総合コーディネーターに就任させて頂きました。
このように私自身の経歴は、特に名だたる会社や作品に関わった制作者でもありませんし、有名な映画作品やTVドラマの現場に関わったわけではありませんが、この30年間で、この映像業界、そしてその技術の推移をずっと幅広く俯瞰して見続けてきました。そのちょっと変わった独自の「視点」から、このコラムを書き進めてみたいと思います。
動画機能の技術解説ページ公開
さて今回はこのコラムのプロローグであるVol.0ですが、まずはここ最近関わらせて頂いたコンテンツについてご紹介したいと思います。
今年7月末から、キヤノンの「動画機能の技術解説」というWebページがオープンになりました。



このページは、EOS/CINEMA EOS SYSTEMの動画機能のなかで、特にEOSシリーズで動画作成をする際にポイントとなる、カラーマネジメントなどについて解説されているページになりますが、とりわけCanon Logに代表される、キヤノンさんの動画技術ですが、実は2011年にキヤノンのシネマカメラシリーズである、CINEMA EOS SYSTEMが立ち上がった際にも、Canon Logのページを制作させて頂きました。その頃まだ動画カメラ=ビデオカメラの時代であり、Log(ログ)撮影機能もついていなかった頃で、映画の世界から来たLogの概念と、その頃まだ一般的でなかった、カラーグレーディングという新たな境地を知らせる必要がありました。
この辺についてはまた別の回で詳しくお話しするとして、今回は最新のキヤノンカメラを使った作品をモチーフに、キヤノンの動画機能の最新技術を要所に解説するページが立ち上がりましたので、ぜひ参考にしてみてください。
ショートフィルム作品「空白のタイトル」

この最新の動画機能を詳しく解説するにあたり、キヤノンの最新機能をふんだんに活用した作品として、今回「空白のタイトル」というショートフィルム作品を制作しました。
この作品は、いまや世界の映画界への登竜門としても有名なフィルムフェスティバル、SXSWなどへのノミネート経験もある、岡島龍介監督の脚本・演出・編集による作品で、主演に2024年の仮面ライダーシリーズ「仮面ライダーガッチャード」の主役を務めた、本島純政くんと、多くのドラマなどでも活躍し始めている中島ももさんのダブル主演による純恋愛作品です。




いま市場では多くのカメラが発売されそれぞれの特徴を活かして競業している中で、キヤノンカメラの特徴としていまだに世界的に根強い人気なのは、ポートレートに代表される人物写真の魅力です。とりわけその中でも人物のフェイストーンは世界の名だたるカメラマンたちをいまだに魅了している現実があります。
今回の「空白のタイトル」では、キヤノンEOS 5シリーズの最新機であるEOS R5 Mark IIで撮影されました。若い役者やエキストラ中心のドラマの中で、キヤノンが得意とする自然で滑らかなフェイストーン表現が動画機能でも充分活かすことができる作例としても参考にして頂ける作品となっています。
作品自体はデモ映像ではなく、あくまで独立した作品なので、2025年夏現在では、様々な映画祭出品に向けて準備中なので、本編の公開はしていませんが、撮影監督の倉田良太さんと岡島監督の解説も掲載した、「空白のタイトル」特設ページも開設しており、その中でトレーラー映像や機能毎の比較映像などで、その表現力をご覧頂くことができますので、その辺もぜひ参考にして頂ければと思います。





関連リンク
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短編映画「空白のタイトル」× EOS R5 Mark II/RFレンズキヤノンのEOS R5 Mark IIと、最新のRFレンズシリーズで撮影された岡島龍介監督による短編映画「空白のタイトル」。その作品撮影の舞台裏を撮影チームの解説とともにご紹介します。
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Canon LUT Library【PC版】クリエイティブな映像表現をサポートするキヤノン純正の41種類のLUTを無料でダウンロードいただけます。
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Canon LUT Library【モバイル版】クリエイティブな映像表現をサポートするキヤノン純正の41種類のLUTを無料でダウンロードいただけます。
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Canon Creator Society(Instagram)EOS、CINEMA EOSをはじめとする映像制作機器の活用事例をご紹介しているキヤノン公式Instagramアカウントです。