カメラと歩けば、街はもっと面白い。日常スナップのヒント
公開日:2026年3月19日
日常の風景は、カメラを手にした人、使うカメラによってまったく違う表情を見せてくれます。
今回はフォトグラファーの山下 裕馬さん(以下、山下またはYumaさん)と、株式会社ヒーコの取締役としてさまざまなクリエイティブのディレクションも手掛ける岩田 量自さん(以下、岩田)の異なる立場を持つ2人が、それぞれ違うカメラを携えて一日街を歩きながらスナップ撮影を敢行。同じ時間、同じ場所であっても、視点や機材が変われば写真はどう変わるのか——その違いを楽しみながら、街スナップをもっと面白くするヒントを探っていきます。
散歩中に訪れる「撮りたい瞬間」をどう切り取るのか。構図の決め方、光の読み方、シャッターを切るまでの思考など、実際の街歩きを通じて見えてきた日常スナップのコツについても語っていただきました。
使用機材:
山下 裕馬 EOS R5 Mark II + RF45mm F1.2 STM
岩田 量自 PowerShot G7 X Mark III
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CP+2026で開催されたセミナーの内容をもとに構成した文字起こし記事です。
"撮りたい瞬間"の見つけかた
岩田:まずは「撮りたい瞬間の見つけかた」ということで、今回機材はそれぞれYumaさんはEOS R5 Mark IIとRF45mm F1.2 STMで、僕はPowerShot G7 X Mark IIIを使って撮影しました。
PowerShot G7 X Mark IIIはズームもあるし機動力があるので、「あっ、あそこ撮りたいな」と思ったらズームも使ってパシャパシャと結構いろんな画角の撮影が楽しめました。
この写真は、撮影を始める前にちょっとラーメンを食べに行って、そこで並んでいる時にお互い無意識に撮った写真ですね。お互い見ているところが一緒だなと思いました(笑)
山下:これは本当に一緒のところを撮ってたよね。45mmの単焦点とズームのできるコンデジで画角の違いはあるけど。
EOS R5 Mark II・RF45mm F1.2 STM・SS 1/160・F5.6・ISO 100

PowerShot G7 X Mark III・SS 1/500・F10・ISO 320
※トリミングあり

岩田:これは似たような視点なんですけど、別々のところで撮ったものですね。Yumaさんは喫煙所で、僕は居酒屋の外で煙草を吸っている人の手を撮っていました。Yumaさんは結構「手」を撮ってることが多いですよね?
EOS R5 Mark II・RF45mm F1.2 STM・SS 1/200・F5.6・ISO 100

PowerShot G7 X Mark III・SS 1/320・F2.8・ISO 1250
※トリミングあり

山下:そう。最近は結構手が好きで手にはその人が出るというか、その背景だったり裏のドラマとか、この人はどういう人なんだろうっていう意識をして撮っていますね。
岩田:手だけでもその人らしさっていうのが滲み出てくるところがありますよね。この写真も同じ「手」の写真なんですけど、左側の人の方がいぶし銀な感じが現れているというか。
山下:そう、手だったりどこか一部分にフォーカスして撮ってみるのも、ひとつ面白い視点の見つけ方かなと思います。
EOS R5 Mark II・RF45mm F1.2 STM・SS 1/60・F5・ISO 400

PowerShot G7 X Mark III・SS 1/250・F8・ISO 250

岩田:これも実は同じ場所で撮影しているんですよね。
山下:そう、本当に同じ場所で撮っているのに、僕はこっちを撮ったけど、そっち撮るんだ!っていうのが面白いなと思って。僕の場合はこの暖簾が破れているところに歴史を感じて、この写真1枚から背景というかちょっとストーリーを感じさせられるなと思って撮りました。
岩田:なるほど。僕は光と影を意識することが多いので、ちょうどこの「旅」の部分に斜めから光が入ってきて立体感が出ていて綺麗だなと思って撮っていました。
EOS R5 Mark II・RF45mm F1.2 STM・SS 1/160・F5.6・ISO 100

PowerShot G7 X Mark III・SS 1/800・F4・ISO 200

岩田:この2枚は同じ場所ではないのですが、何気ない、普通だと見逃しそうな風景ですよね。
三角コーンが無造作に倒れているのとか、まわりの人は誰も意識していないし関心も持っていないんですけど、僕は「あれ、なんでこう倒れてるんだろう?」とちょっとした違和感を感じて撮りました。
Yumaさんの写真は?

山下:僕も基本的には光と影を意識して街を歩いているんですが、この撮影した場所は、良くはないですが落書きがあったりとか。一見ただのゴミ捨て場なんですけど、僕は面白いなと思って撮りました。結構、街中って自分が見てるけど見てないっていうものが本当に多いなとカメラを始めて気がついたんです。
カメラのレンズを通してみることは、自分が何を認知して、意識して考えているかという思考をクリアにする方法でもあると思います。
岩田:そうですね、本当に思考がクリアになりますよね。
山下:カメラひとつでその街の見方が変わるし、小さな発見が自分の幸せになったりとか。こんな光があったっていうだけでも、少しハッピーになれたり。カメラはそういう気持ちにさせてくれる相棒だと思っています。
カメラで変わる"切り取り"の発想
EOS R5 Mark II・RF45mm F1.2 STM・SS 1/200・F5.6・ISO 1000

PowerShot G7 X Mark III・SS 1/200・F3.2・ISO 320

岩田:先ほどもご紹介しましたが、僕はPowerShot G7 X Mark IIIというコンデジで撮影しました。YumaさんはEOS R5 Mark IIに45mmの単焦点でずっと撮っていましたよね。
山下:そう、45mmの単焦点です。もちろん普段の仕事ではズームレンズも使っていますが、ストリート撮影ではなるべく機動力重視です。見たその瞬間に何が起きたかを記録したいから、基本的にはストラップもつけずに機動力の高さだけを生かした撮影スタイルにしています。ストラップをつけないの危ないって言われますけどね、落としちゃいそうって(笑)

岩田:ストリートスナップの撮り方として「待って狙って撮るスタイル」とYumaさんのように「瞬発的に撮るスタイル」があると思うんですけど、僕はどちらかというと結構待って撮るタイプなんです。いい場所とかいい光が見つかったら、あ、ここに人来ないかなと構図を先に決めちゃって待って撮ることも多いんです。Yumaさんは本当に瞬発的に撮っていた印象でした。
山下:もちろん歩きながら、その瞬間に何か面白いハプニングが起きればいいなとは思っているんですけど、あまり期待せずに普段通り歩いて何かあればいいなぐらいの気持ちでいます。
この手を繋いでる写真も本当に一瞬しか繋いでないんですよ。パッと見て手を繋なぎそうだなと思って。そういう瞬間を見ています。それで言うと、「この後何が起きるんだろう?」っていう予測をすることもスナップには必要なスキルですよね。
EOS R5 Mark II・RF45mm F1.2 STM・SS 1/320・F1.4・ISO 100

岩田:予測力も大事ですね。これは喫茶店で窓際の席でスマホを見ながらパスタを食べている人がいて、ちょうど全体が暗い中で窓際に光が差し込んでいい雰囲気になっていたので、パスタを上げる瞬間を狙って撮りました。
PowerShot G7 X Mark III・SS 1/250・F8・ISO 250
※トリミングあり

山下:一緒に歩いていたけど、僕は多分ぜんぜん違うところを見ていて、この瞬間をまったく見ていないんです。面白いよね、もちろんカメラや焦点距離の違いはあるけど、同じ場所に行ってるのに全然違う写真になるのが。
岩田:それぞれがどこにフォーカスしているのかっていうのが違いに出ていますよね。
機材でいうとコンデジは画質や機能面で一眼には勝てない部分も多いんですけど、小さいので被写体への圧がなかったり機動力があったり、撮りたいものを撮りたい瞬間に撮れるという面で、ストリートスナップ撮影の1つの選択肢になると思います。
EOS R5 Mark II・RF45mm F1.2 STM・SS 1/80・F5.6・ISO 125

PowerShot G7 X Mark III・SS 1/400・F2.8・ISO 200

岩田:これも同じお寿司屋さんの前で撮った写真です。
山下:僕はちょっと引き気味で、白の面積だったりを意識してこの比率にしたくて撮りました。45mmの単焦点なので、ズームがない分、足で稼いで撮っています。
岩田:僕はお母さんと子供が並んでいるっていう親子関係を足元で見せたいなっていうので寄って撮ってみました。
山下:大きないイチゴ柄めっちゃ良いよね、僕はその時はイチゴにあまりフォーカスしてなくて後で気づいたんだけど。
岩田:同じ場所で撮っていても、やっぱり見ているものが違うんですよね。見てはいるけど意識しているものが違うっていう面白い例ですね。
EOS R5 Mark II・RF45mm F1.2 STM・SS 1/60・F7.1・ISO 800

PowerShot G7 X Mark III・SS 1/320・F5・ISO 320

岩田:これはケバブ屋さんの店先に鳩が集まっているところを撮った写真ですがこれも結構アプローチが違いますね。人がいて鳩がいるという関係やストーリーを多分Yumaさんは重視しているのかなと思いました。僕は逆に鳩の方にフォーカスして、鳩とマットの赤と緑の色彩関係が面白いなと思って、ズームも使ってぐっと寄りで撮影しました。
スナップ写真を撮り続ける理由
岩田:スナップ写真を撮り続ける理由、Yumaさんはこの3つとお聞きしましたがどうですか?
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「小さな幸せに気づくため」
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「世界は自分の鏡だから」
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「意図を手放すため」
(山下 裕馬)
山下:この3つ、本当に僕が言いました?(笑)
でも、さっき話したように、小さな幸せに気づくというのは写真を始めてから特に感じるようになりました。ただの散歩でも、カメラを持つことで刺激が増え、新しいものを見つけたり、それを写真にしたり。その一つ一つが、ちっちゃな幸せにつながっていくんですよね。
また、写真は自分を映す鏡でもあると思っています。これは人間関係にも通じるんですが、自分の良いところも悪いところも含めて映し出してくれる。街に出て撮影していると、目の前で起きる現象も、どこか自分自身を表しているように感じるんです。
だから、街に出るときは良いことも悪いことも“期待しない”。
「今、自分はどんな状態なのか」「どれだけ成長できたのか」──ある意味、それを街で測っているような感覚があります。
そして3つ目に意図を手放すということ。
もちろん、仕事として写真を撮るときは意図がなければ成り立ちません。でも、ストリートではもっと自由でいいと思っています。自分の中で決めつけている意図を一度手放し、フリーな状態で何に気づけるのか──そこに楽しさがあると感じています。
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「スナップ=ライフワーク」
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「視点・視座・視野を磨く訓練になるから」
(岩田 量自)
岩田:僕は写真を撮ることはライフワークになっていて、「息をするように撮る」という感覚がすっかり習慣になっています。どこへ行くにもスマホやカメラを持ち歩いて、道端に落ちている石や花など、目に入ったものを何でも撮る。その行為を通じて、「あ、今自分はこういうことを考えているんだ」と気づくことができるんです。Yumaさんも言っていたように僕にとっても写真は、自分の思考や興味を映す鏡のような存在なんですよね。
さらに、写真撮影は視点を磨く訓練にもなっています。同じ被写体でも、正面から撮るのか、少し距離を置いて引いて撮るのか、あるいは高い位置から見下ろして撮るのかで、まったく違う表情が生まれます。これは仕事にも通じるところがあって、ひとつのプロジェクトでも多角的に見る視点が大事だなと。撮影を続けていると、その“視点を切り替える力”が自然と実体験として鍛えられていくんです。
スナップ写真を撮るという行為は、ただ写真・画像が生成されること以外にも、自分自身の人生にプラスの影響をもたらしてくれる価値ある体験だと感じています。
ぜひみなさんも、カメラを手にして、いろいろな視点で街を眺めてみていただきたいです。

PROFILE
山下 裕馬
2011年、“@yuma1983” としてInstagramで作品を発表し始めて以来、Yuma Yamashitaは日常の中で、見過ごされがちな瞬間の美を捉え続けてきた。彼の眼差しは、表面的な景色にとどまらず、伝統や歴史、季節の移ろい、光と影にまで向けられ、日常に潜む哲学的な豊かさを浮かび上がらせる。
さらに、自身のスタジオ ËNN. Studio and Gallery は単なる拠点ではなく、名の通り「ご縁」を育む場である。そこでは人と作品、個と社会、可視と不可視のあいだに生まれる関係性が交差し、形を変えながら新たな表現へと昇華していく。Yumaの作品は、その瞬間の「縁」そのものを記録し続けている。
ジャンルや地域、規模を問わず幅広いクライアントワークも手がけ、東京から世界へ向けて、唯一無二の視点を発信し続けている。
PROFILE
岩田 量自
1988年生まれ。
株式会社ヒーコ取締役。
2011年に大学を卒業後、建築を学びながら、iPhoneでの撮影に魅了され写真の世界へ。2017年、Apple社の“Shot on iPhone”キャンペーンに作品が採用され、世界25カ国のビルボード広告として掲出される。
2018年にはUnsplash Awardsのstreet photography部門を受賞。
建築設計事務所での勤務を経てフリーランスフォトグラファーとして活動後、株式会社ヒーコに参画。
現在はプロデュース、プランニング、ディレクションなど領域横断でプロジェクトに携わり、企画から実装まで一貫したクリエイティブづくりを行っている。