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石川幸宏コラム 『My POV』 vol.10|オープンゲート特集<3>16:9中心主義からの開放― 『アスペクト・グレーディング』時代の到来

街中のサイネージはすでに様々な画角の画像が表示されている。
※本画像はAIにより生成したイメージです。実際の内容や仕様を正確に反映したものではありません。

これまで、2回にわたってオープンゲート撮影について色々と語ってきたが、最終回となる今回は、オープンゲートと高性能AF機能を合わせることで、いま新たな映像制作のトレンドが生まれそうだ、という話をしたいと思う。
近年、デジタルシネマカメラやミラーレスカメラの進化によって、映像制作の現場では大きな変化が起きている。私個人の考えだが、ここ2、3年でその中心にある注目すべき技術ポイントは、「オープンゲート撮影」と「高性能AF(オートフォーカス)」だと考えている。
従来の映像制作では、撮影時点で16:9やシネマスコープ(2.39:1など)など最終的に書き出す画角を決定し、撮影時にそれに合わせて最初にフレーミングを行うことが一般的だった。また、映画やCMの撮影現場では、フォーカスプラーと呼ばれる専門スタッフが手動でピントを合わせることが基本であり、AFはあくまで補助的な機能と考えられてきた。
しかし現在、映像制作を取り巻く環境は大きく変わっている。
映画館、テレビ、NetflixやAmazon Prime Videoなどのネット動画配信、YouTube、Instagram、TikTokなどのSNS向けなど、一つの作品を複数のメディアで展開することが当たり前になった。そのため、撮影時にどのフォーマットへ配信するかで画角を固定するのではなく、まずはセンサー全域を記録するオープンゲート撮影によって、後から横位置や縦位置、さまざまなアスペクト比を自由に選択するというワークフローが急速に普及しつつある。
さらに近年のAF技術の進歩は著しく、人物や動物、乗り物などを高精度に認識し、滑らかに追従することが可能になった。かつて「AFでは映画は撮れない」と言われた時代もあったが、現在では高性能AFが撮影者の負担を大幅に軽減し、少人数による映画作品やドキュメンタリー、MV、ウェディング映像など幅広い分野で不可欠な存在となっている。
こうした2つの技術は、単なる新機能ではない。オープンゲート撮影による自由度と、高性能AFによる確実性の組み合わせは、従来の映像制作の常識そのものを変えつつある。特にワンマンオペレーションや少人数制作が主流となりつつある現在、この変化は映像制作の新しいスタンダードになりつつあると言えるだろう。

16:9中心主義の終焉とマルチフォーマット時代

アスペクトレシオの進化の歴史
※一部AIで生成した画像を含みます。

長らく映像制作の世界では、「最終的な上映・視聴環境」が制作の前提となってきた。最初の映画の時代から遡ってみると、最初はスチルカメラの35mmが3:2から始まり、映画の35mmフィルム(4:3スタンダードサイズ)が出て、現在までビスタサイズやシネマスコープサイズに変化してきた。またテレビであればアナログ放送時代は4:3のスタンダードと言われる画角からデジタル放送になって16:9に変化してきた。しかしその時代その時代において、作品の撮影時にはいつも完成形のアスペクトレシオが決まっており、構図やカメラワークもその画面サイズを前提として設計されていた。
とりわけデジタル時代に入ってからの20年間(日本ではデジタル放送が開始された2003年以降)は、映像の世界では16:9というフォーマットが圧倒的な標準となっていた。デジタル・ハイビジョン放送、Blu-ray、DVD、YouTube、PCモニター、そしてテレビなど、すべての映像の出口の多くがほぼ16:9に統一されていたため、「16:9で撮る」こと自体に疑問を持つ必要がなかったのである。
ところが現在、その前提が急速に崩れ始めている。
この10年のスマートフォンの普及とSNSの台頭によって、視聴環境はかつてないほど多様化した。劇場映画向けの2.39:1、テレビやYouTube向けの16:9、Instagramの1:1や4:5、TikTokに代表される9:16の縦型動画、そしてNetflixなどで見直され始めた2:1など。ひとつの作品が複数のプラットフォームで消費されることが当たり前になり、それぞれに最適な画面形状も異なるようになった。
各アスペクトレシオについての詳しい説明はMy POV Vol.8を参照

つまり、現代の映像制作者はもはや「ひとつのアスペクト比のための映像」を作るのではなく、「あらゆるアスペクト比に適応できる映像」を作る時代に入ったと言えるのではないだろうか。
これは単なる納品形態の多様化ではなく、映像制作の思想そのものが、
「完成形を決めてから撮る」
という発想から、
「まず最大限の情報を記録し、完成形は用途に応じて後から最適化する」
という発想へと変化しつつあることを意味している。

アスペクト(レシオ)・グレーディングという発想

アスペクトレシオ・グレーディング概念図
※一部AIで生成した画像を含みます。

少し話は逸れるが、現在、映像の色味を撮影後に調整することを『カラーグレーディング』という言葉で理解されている方が大半だと思うが、実は本来の意味は違っていたと思われる。これは私自身の取材体験によるものだが、2005年当時にまだ映画がフィルム撮影全盛の頃、ポストプロダクション(後処理)でフィルムのスキャンデータをデジタルデータに変換し編集・加工していた時代。私自身がハリウッドで取材した際に、最初に『カラーグレーディング』という言葉を聞いた時に聞いたのは、最初は映画用に制作されたものが、その後テレビ放送用、パッケージメディアのDVDやBlu-ray用、さらには機内上映用などに変換されて制作される際に、それぞれ異なる視聴環境品質(グレード)に合わせて色を最適化する作業のことを「カラーグレーディング」と呼んでいた。
今は映像の色味を後処理で調整すること全体を『カラーグレーディング』と呼んでいるが、言葉とは時代とともにその意味合いが変わってきて当然なのだが、私は今でもカラーグレーディングとはそういう意味だと考えていて、単に色を調整する作業は単なる『カラーコレクション』でしかない。

そのことはさておき、こうした色の世界での『グレーディング』という概念が生み出されてきたように、現代の映像制作では、今度は画角そのものをメディアごとに最適化する工程が新たな意味を持ち始めている。
言い換えれば、私たちは今「テレビのための映像制作」から「マルチデバイス・コンテンツのための映像制作」への転換点に立っていると言えるだろう。そして「16:9」という長らく続いた“絶対的基準”は徐々にその意味を失い、アスペクト比は固定された規格ではなく、作品を届けるための可変的な表現手段へと変わりつつある。そのパラダイムシフトの技術的バックボーンとなるのが、センサー全域を記録する「オープンゲート撮影」だ。
時代はまさに、アスペクト(レシオ)・グレーディングの世界に突入した。

アスペクト(レシオ)・グレーディング・ワークフロー
※一部AIで生成した画像を含みます。

キヤノンのDual Pixel CMOS AFがもたらしたもの

撮影の際にもう一つここに大きく加わるのが、AF機能の進化だ。
現在、高性能AFは多くのカメラメーカーにとって不可欠な技術となっている。しかし、その転換点を振り返るとき、キヤノンのDual Pixel CMOS AFが果たした役割は極めて大きいと言える。
2013年に登場したDual Pixel CMOS AFは、それまでのコントラストAFやハイブリッドAFとは異なるアプローチを採用した。撮像素子の一つひとつの画素を左右二つに分割し、像面位相差検出を行うことで、高速かつ滑らかなフォーカス制御を実現した技術だ。
当初、この技術の真価は静止画よりも動画で発揮された。それまでの動画AFは、ピント位置を探るように前後を行き来する「ハンチング」が避けられず、映像作品に使用するには不自然さが目立った。そのためこの時期まで、AFはあくまで補助機能であり、本格的な映像制作ではマニュアルフォーカスが絶対的な存在であり続けていた。
しかしDual Pixel CMOS AFの登場で、その常識は変わった。
被写体に向かって迷うことなく滑らかにフォーカスを移動させ、人物の顔や瞳を自然に追従するその動きは、従来のAFとは一線を画すものだった。
そこで重要なのはその動作スピードではなく、それまで信頼性の低かったAF機能に対して「AFを信頼できるようになった」という概念の転換こそが最大の功績だったと言える。実際、多くのドキュメンタリーやウェディングムービー撮影、MV、企業PRビデオの現場では、撮影者は初めて安心してAFに仕事を任せられるようになった。
さらに、それは単にピント合わせが楽になったという話ではない。撮影者はファインダーの中でピント位置を気にし続ける必要がなくなり、被写体の表情や動き、光の変化、構図のバランスなど、本来向き合うべき創造的な領域に集中できるようになったのである。
その後、Dual Pixel CMOS AF IIとして進化したことで、これまでのAF機能が「どこにピントを合わせるのか?」だったのに対して、「何を追い続けるのか?」に進化したのである。これは撮影者の技術を不要にしたのではなく「自動化技術」というよりも「人間の能力を拡張する技術」と捉えるべきだろう。
Dual Pixel CMOS AFが「指示された被写体を正確に追うピント合わせが非常に上手い優秀なフォーカスプラー」だったとすれば、Dual Pixel CMOS AF IIでは、単なる「ピント合わせの補助機能」から「撮影パートナー」へと進化したと言えるかもしれない。
これにさらにオープンゲート撮影の普及との組み合わせが新たな意味を持つ。センサー全域を使って最大限の情報を記録しながら、高精度なAFによって被写体を確実に捉える。
かつては「画角を決め、ピントを合わせる」ことが撮影の中心だった。
しかし今、動画撮影とは「まず確実に捉え、最適な画角は後で決める」という方向へ変わりつつある。

オープンゲート撮影に対応した最新のVシリーズのEOS R6 Vや、EOS R6 Mark III、そしてCINEMA EOS SYSTEMのEOS C50、EOS C400(ファームアップでオープンゲート対応)にも、Dual Pixel CMOS AF IIが搭載されている。

オープンゲート×Dual Pixel CMOS AFが新たな撮影パートナーとなる。写真はEOS R6 V

オープンゲート+高性能AF、少人数制作との相性

オープンゲート撮影と高性能AF。この二つは、それぞれ独立した技術進化のように見える。しかし実際には、両者が結びつくことで、映像制作のワークフローそのものに大きな変化をもたらし始めている。
「まず記録し、後で決める」というワークフローへの進化である。
これは単なる効率化ではなく、撮影者の意識の向かう先そのものが変わり始めていると言えるかもしれない。ピント位置やフレームの端に神経を尖らせることよりも、被写体の感情やその場の空気、光の変化、偶然訪れる一瞬といった、元来撮影に必要なセンシティブな作業に集中できるようになったのである。
かつて撮影者は「失敗しないこと」に多くのエネルギーを費やしていた。
しかし現在は「何を捉えるか」へと重心が移りつつある。
そこではカメラは単なる記録装置ではない。
AFが被写体を追い、オープンゲートが画角の自由を確保し、手ブレ補正や被写体認識が撮影者を支える。
人間とカメラが役割を分担しながら、一つの映像を作り上げていく。
さらに興味深いのは、この変化は現在の少人数制作との相性が非常に良い。ドキュメンタリー、ウェディング、MV、CM、YouTube、企業映像など、従来であれば複数人で行っていた作業を、一人あるいは少人数でこなすことが珍しくなくなった現在、高性能AFとオープンゲート撮影は、単なる便利な機能ではなく、制作スタイルそのものを支える基盤となり始めている。
もしかするとこの変化は、かつてフィルムからデジタルへの移行に匹敵するほど大きな意味を持つのかもしれない。
撮影枚数や現像時間を気にする必要がなくなった、かつてのフィルムカメラからデジタルカメラへの変化の時のように、「マニュアルフォーカスで16:9を決め打ちして撮る」という時代から、「オープンゲートで最大限の情報を記録し、高性能AFとともに被写体を追う」という時代へ。
2020年代後半は、その転換点として後に振り返られることになるのかもしれない。

撮影=「決めること」ではなく「可能性を記録すること」

オープンゲートと高性能AFの組み合わせは、映像制作をそのような新しいステージへ導こうとしているのである。
数年後にこの時期を振り返った時、「16:9中心主義が終わり、マルチアスペクト時代が始まった時代」として記憶されることになるのかもしれない。

もしかすると縦型動画をもっと高画質でいい音響で見たい!という要望が高まれば、専用シアターができるかも?(あくまで想像です)
※AIで生成した画像です。

本コラムについて

本コラムは、映像制作や上映方式に関する一般的な技術背景や歴史的な事例を紹介することを目的とした解説記事です。
本文中で言及しているフォーマット名、上映方式、配信サービスなどは説明上の例示であり、特定の企業・製品・サービスとの提携、認証、推奨、または公式的な見解を示すものではありません。

PROFILE

石川 幸宏(いしかわ ゆきひろ)

映像プロデューサー/ジャーナリスト
日本映画撮影監督協会 機関誌「映画撮影」編集長
映像関係専門のジャーナリストとして約30年に渡って活動。国内外で映像制作機材、技術、制作ワークフローなど取材し、記事執筆も多数。
DV Japan誌、HOTSHOTなどの専門誌の編集長を歴任。映像関連のアドバイザー/コンサルタント/スーパーバイザーや、近年は映像プロデューサーとして作品制作にも参画。日本映画撮影監督協会 賛助会員、(一財)プロジェクションマッピング協会 理事/広報アドバイザー。

関連リンク

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My POV vol.10
https://personal.canon.jp/ja-JP/articles/tips/movie-tech/mypov-10
2
https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/tips/movie-tech/mypov-10/image/mypov-10-720x444.jpg?sc_lang=ja-JP&hash=FCD146EBF8D7D3BF8D2F8E0A1498E700
2026-06-30