
一般的に光沢系よりマット系の用紙のほうが色や階調の再現域が狭めの傾向です。Adobe Photoshop CCのプリント設定画面では、ICCプロファイルに記述されている情報をもとにどのような色調でプリントされるのかをプレビュー画像で確認できるほか、[色域外警告]にチェックを入れると色域からはみ出ている部分がグレーで表示されます。この機能で光沢紙とマット紙を比較すると違いが分かります。また、マット系ファインアート紙は、一般的なマット紙より色再現域が広いなど性能が高めの傾向です。
公開日:2026年7月31日

フィルム写真の印画紙と同様、インクジェット紙も「光沢」(グロッシー)、「半光沢」(ラスター、サテン、セミマットなど)、「無光沢」(マット)の大きく3タイプに分類されます。無光沢のマット紙は艶(光沢)が全くないのが特徴。一般的な写真プリントとはひと味違うため一度は使ってみたくなるでしょう。無光沢のバライタ印画紙もあり、近年はインクジェット紙でも同様の製品が登場し、実践編のLesson 31「表現力豊かなバライタ紙で美しく魅せる」でも紹介しています。
プラチナプリントやサイアノタイプなどの古典的な印画技法では、感光剤を支持体(紙)に塗布して印画紙を作ります。水彩紙などの洋紙や和紙を使ったりするため、それらは基本的に無光沢です。その雰囲気に近いのがインクジェットプリンター用のマット紙です。用紙メーカーの製品に目を向けると、その多くはファインアート紙と呼ばれるもので、一般的なフォトマット紙よりも高性能です。バライタ紙と同じく海外の用紙メーカー製のものが多く、大型カメラ量販店など取り扱いのあるショップは限られます。一般的な写真用紙よりも入手しづらく、手ごろとは言えませんがそれぞれに個性があり、プリント表現の幅を広げることができます。
マット系ファインアート紙の基材はアート紙タイプ。水彩紙や版画紙など画材紙がベースの製品がほとんどです。販売などを目的とするプリントにも使われるため、酸化の原因となる蛍光漂白剤が使われていない、天然繊維(コットンやアルファセルロース)の無酸紙が主流です。このあたりについては上級編のLesson 20「プリントの保存」でも解説していますが、バライタ紙と同様、付着した指紋による脂汚れや脂染みの恐れがあります。変色などプリント劣化の原因になるため、取り扱うときは写真用の手袋を装着しましょう。また、厚手の用紙が多く、給紙は手差しトレイから行います。1枚ずつパッケージから取り出し、印刷前の用紙を外に出したまま長時間放置しないよう注意が必要です。
マット系ファインアート紙は表面が平滑なスムース面質と、凹凸のあるテクスチャー面質に分けられます。このレッスンではスムース面質の用紙を取り上げています。面質や紙色については中級編のLesson 14「プリント用紙の選び方」でも解説していますが、青みがかった紙色の用紙が多い印画紙タイプに対し、アート紙タイプはニュートラルな白さや黄みがかった紙色の製品がどのメーカーも豊富にラインアップされています。
印画紙タイプの光沢紙などに比べて、マット系の用紙は苦手要素が多めの傾向です。そのぶん写真を選ぶため、画像編集でのカバーも必要になります。お使いのインクジェットプリンターや選んだ用紙の得手不得手を理解しながら画像編集を行うことが大切で、目的に合った用紙を選ぶためのノウハウを身に付けることができます。そのときに活用したいのが、RAW現像ソフトやフォトレタッチソフトでプリントのシミュレート表示を見ながら調整を進められる「ソフトプルーフ」機能です。詳しくは実践編のLesson 24「プリントのための画像編集」で紹介しています。

一般的に光沢系よりマット系の用紙のほうが色や階調の再現域が狭めの傾向です。Adobe Photoshop CCのプリント設定画面では、ICCプロファイルに記述されている情報をもとにどのような色調でプリントされるのかをプレビュー画像で確認できるほか、[色域外警告]にチェックを入れると色域からはみ出ている部分がグレーで表示されます。この機能で光沢紙とマット紙を比較すると違いが分かります。また、マット系ファインアート紙は、一般的なマット紙より色再現域が広いなど性能が高めの傾向です。
紙の表面に定着する顔料インクに対し、染料インクは紙の中に浸透することは基礎知識編のLesson 1「染料インクと顔料インク」でも解説していますが、マット紙は光沢紙や半光沢紙より、色と階調の再現性の違いが顕著に現れます。その度合いは用紙の表面に施されているコーティング処理(インク受容層)などによっても違ってきます。顔料インクのほうが表面にインクがしっかり定着するため「顔料推奨」のマット紙もありますが、マット系のファインアート紙の多くは基本的に両方に対応し、染料インクでも苦手要素は少なめの傾向です。もちろん得手不得手は絵柄にも関係し、上のプリントのように染料インクのPRO-S1 Mark IIは発色が良くメリハリがあり見栄えがする半面、鮮やかな部分や濃度の高い部分はつぶれ気味の傾向です。顔料インクのPRO-G2は控えめな発色ですが、色や階調の再現性は良好です。PRO-S1 Mark IIのほうが黒が引き締まって見えますが、光沢系とマット系のどちらの用紙も同じブラックインクで印刷します。これに対しPRO-G2は光沢紙や半光沢紙はフォトブラック、マット紙はマットブラックが使われます。
「PRO-G2を選ぶ理由(後編)」で、ファインアート紙による多彩なプリント表現について紹介しています。その中でマット系ファインアート紙(画材紙)も取り上げていて、どの用紙も染料インクと顔料インクのどちらにも対応しているのですが、プリンターによって色や階調の再現性は異なっています。画材紙のプリント品質は染料プリンターより顔料プリンターのほうが優れている傾向です。
印画紙タイプの写真用紙を日ごろメインに使っていると、マット紙でのプリントは新鮮に感じられることでしょう。光沢紙や半光沢紙でのプリントより、同じ写真でも彩度やコントラストが上がって見えるなど、特に画像編集を施さなくても魅力的に仕上がることもあります。とはいえ、色や階調の再現域が狭めであるため、もともと高彩度や高コントラストの写真は色がつぶれたり、階調が飛んだりしやすいので要注意です。そのあたりをしっかり確認しながら最適な用紙を選ぶようにしましょう。
スムース面質のマット系ファインアート紙は表面が平滑ですが、用紙によって基材が違うなど風合いはさまざまで、それぞれに個性があります。色や階調の再現性はもちろん紙色も微妙に異なり、写真の見え方、プリントのクオリティーを左右します。そのため複数の候補を試して見比べることが大切です。カラーマネジメントシステムがきちんと働く環境を整えているユーザーは、ICCプロファイルが用意されている製品の中から選ぶと良いでしょう。カラーマネジメントシステムやICCプロファイルについては、初級編のLesson 9「カラーマネジメントシステム」で解説しています。
モノクロプリントの場合、色転びは写真だけでなく用紙との組み合わせで変化します。色転びの補正は、ニュートラルなグレートーンのモノクロプリントに仕上げるために欠かせない作業です。Professional Print & Layoutやプリンタードライバーの[モノクロ色調]で補正できますが、最適な補正量の判断は容易ではありません。Professional Print & Layoutのパターン印刷機能を利用するのも良いでしょう。詳しくは中級編のLesson13「モノクロプリント」を参照してください。
このレッスンで取り上げるスムースな面質のマット系ファインアート紙
| メーカー | 製品名 | 面質 | ベース | 紙厚 | 坪量 | 白色度 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
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キヤノン | 写真用紙・プレミアムマット | スムース | 0.310mm | 210g/㎡ | 92% | |
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イノーバ・アート | フォトコットンラグ | ウルトラスムース | コットン | 0.390mm | 315g/㎡ | 86% |
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イルフォード | スムースコットンラグ | スムース | コットン | 0.485mm | 310g/㎡ | 97% |
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イルフォード | スムースコットンスプライト | スムース | コットン | 0.440mm | 280g/㎡ | 96% |
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イルフォード | スムースコットンパールセント | スムース | コットン | 0.550mm | 310g/㎡ | 97% |
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イルフォード | ファインアートスムース | スムース | アルファセルロース | 0.300mm | 200g/㎡ | 97% |
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イルフォード | ファインアートスムースパール | スムース | アルファセルロース | 0.420mm | 270g/㎡ | 95% |
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キャンソン・インフィニティ | アルシュ88 | ウルトラスムース | コットン | 0.485mm | 310g/㎡ | 95.85% |
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キャンソン・インフィニティ | アルシュ・BFKリーブ・ホワイト | スムース | コットン | 0.505mm | 310g/㎡ | 85.32% |
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キャンソン・インフィニティ | アルシュ・BFKリーブ・ピュアホワイト | スムース | コットン | 0.505mm | 310g/㎡ | 97.26% |
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キャンソン・インフィニティ | ラグ・フォトグラフィックII | ウルトラスムース | コットン | 0.490mm | 310g/㎡ | 88.90% |
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キャンソン・インフィニティ | エディション・エッチング・ラグII | スムース | コットン | 0.500mm | 310g/㎡ | 89.40% |
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ハーネミューレ | フォトラグ | スムース | コットン | 0.480mm | 308g/㎡ | 92.50% |
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ハーネミューレ | フォトラグ ウルトラスムース | ウルトラスムース | コットン | 0.480mm | 305g/㎡ | 94% |
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ハーネミューレ | フォトラグ ブライトホワイト | スムース | コットン | 0.500mm | 310g/㎡ | 99.50% |
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ハーネミューレ | フォトマットファイバー | スムース | アルファセルロース | 0.300mm | 200g/㎡ | 90% |
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ハーネミューレ | バンブー | スムース | 竹繊維・コットン | 0.500mm | 290g/㎡ | 83% |
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ハーネミューレ | ヘンプ | スムース | 麻繊維・コットン | 0.500mm | 290g/㎡ | 89% |
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三菱王子紙販売 | ピクトリコプロ・ファインアートスムーズ | スムース | 特殊紙 | 0.390mm | 255g/㎡ | 96% |
※白色度はメーカーにより測定条件や基準が異なります
使用プリンター:PRO-G2
どの用紙も色や階調の再現性は良好です。とはいえ、光沢系の写真用紙やファインアート紙と比べると再現域は狭めの傾向で、得手不得手はあるようです。紙色も異なるため、写真の色合いや透明感なども微妙に違って見えます。ハイライトの抜けや黒の締まり具合、中間調からシャドウにかけての階調再現などそれぞれの特徴が現れています。
キヤノンの「写真用紙・プレミアムマット」は手ごろさが魅力です。ほかの用紙と見比べるなど、スムース面質のマット系ファインアート紙選びの基準にすると良いでしょう。自然な白さで透明感があり美しい仕上がりです。色や階調の再現域はやや狭めに感じられるため、彩度やコントラストが控えめの落ち着いた写真に最適です。イノーバ・アートの「フォトコットンラグ」のほうが緑がしっかり出ていて、色や階調の再現性に少し余裕が感じられます。そのぶん画像編集でコントロールしやすいです。モノクロ写真もシャドウの階調に深みがあります。手ごろという点では、三菱王子紙販売の「ピクトリコプロ・ファインアートスムーズ」も入手しやすく気軽に使える用紙です。明るい紙色で抜けが良く、ピントや輪郭がシャープに再現されています。バランスよく仕上がりますが、シャドウは暗くなりやすいです。
イルフォードの「スムースコットンラグ」は自然な白さの紙色で、面質もとても滑らかです。そのぶん抜けが良く、中間調からハイライトにかけての色や階調の再現性が優れています。奥行きや立体感が表現しやすい傾向です。モノクロ写真もコントラストがうまく出ています。ハイライトが際立ち、黒も引き締まっていて階調豊かです。「スムースコットンスプライト」は彩度が控えめの印象で、スムースコットンラグと比べるとモノクロ写真もややあっさりした調子です。イルフォードのラインアップで一番手ごろなのが「ファインアートスムース」です。ほかの用紙より薄手で、やや黄みがかった紙色です。色や階調の再現性は比較的良好ですが、シャドウはつぶれやすいため、陰影が少なめの写真が合うでしょう。
「スムースコットンパールセント」は真珠のような上質なきらめきが美しく、「ファインアートスムースパール」はインクが乗った部分だけ微光沢になる用紙です。両者はマット系なのに光沢があるなど個性的で、バライタ紙の選択肢に加えてみるのも良さそうです。ファインアートスムースパールは鮮やかな色が強く出やすい傾向で、シャドウの階調再現はあと一歩の印象です。明暗や濃淡の差が少ない写真を選ぶと良いでしょう。角度によってはメタリック調のような見え方になり、展示などでは写真の絵柄が見づらくなる可能性も。スムースコットンパールセントのほうが深みのある発色ですが、シャドウが多めの写真はキラキラした光沢が目障りに感じられるかもしれません。
キャンソン・インフィニティの「アルシュ88」はソフトな手触りで明るい紙色。シャドウの再現性も良く、コントラストがしっかり感じられるメリハリのある仕上がりです。「アルシュ・BFKリーブ・ホワイト」と「アルシュ・BFKリーブ・ピュアホワイト」は厚手の用紙でコシがあり、手にしたときに紙の重みが感じられます。ホワイトよりピュアホワイトのほうが紙色が明るく、そのぶんハイライトが際立ち透明感が出ています。どちらも自然な色合いで、重厚感のある立体的な仕上がりです。ディテールも鮮明に描かれています。
「ラグ・フォトグラフィックII」はとても滑らかな面質で、紙色も自然な白さでクリアな仕上がり。発色も良く写真を選ばない傾向です。シャドウの再現性も良好で、黒もしっかり引き締まっています。「エディション・エッチング・ラグII」はわずかにテクスチャーのある面質ですが、紙色は明るく、色や階調の再現性に優れています。
ハーネミューレの「フォトラグ」はキヤノンの写真用紙・プレミアムマットと合わせて、スムース面質のマット系ファインアート紙でまず候補に入れたい製品です。色や階調の再現性など安定感があるので、用紙を見比べながら良し悪しを判断するときの基準として最適です。「フォトラグ ウルトラスムース」はとても滑らかな面質で、色や階調の再現傾向はフォトラグと似ています。紙色はフォトラグよりわずかに白く、そのぶんハイライトの抜けが良いです。輪郭の再現なども自然で、細部の様子にも目を向けやすいです。紙色がさらに白いのが「フォトラグ ブライトホワイト」です。ハイライトが際立つだけでなく発色もクリアです。黒も引き締まっていてコントラストをしっかり出すことができます。
ハーネミューレのラインアップの中で一番手ごろなのが「フォトマットファイバー」です。手触りの良い滑らかな面質、温かみのある紙色が特徴です。厚さや坪量が抑えられていてややコシがありません。シャドウが少し暗めに再現される傾向です。「バンブー」と「ヘンプ」はナチュラルラインにラインアップされていて、前者は竹、後者は麻の繊維が使われています。それぞれに味わいのある風合いです。バンブーは温かみのある紙色、ヘンプは自然な白さで、どちらも色や階調の再現性に優れています。ディテールも繊細に描かれています。
PRO-G2やPRO-S1 Mark IIに対応する他社製用紙のICCプロファイルをキヤノンでも用意しています。中級編のLesson 14「プリント用紙の選び方」で紹介しているので参考にしてください。ただし全ての用紙ではなく、インクとのマッチングなどを考慮して選んだものだけになります。それ以外の製品については各用紙のメーカーサイトで入手できます。海外の用紙メーカーの場合は本国のサイトにアクセスする必要がありますが、日本のサイトでICCプロファイルのダウンロードやインストールの方法などを解説しているので安心です。
また、用紙情報ファイルが用意されている製品もあります。ICCプロファイルを一緒にダウンロードし、Media Configuration Toolを使ってプリンターに登録すると印刷設定のときに便利です。登録方法など詳しくは、中級編のLesson 15「Media Configuration Toolで用紙情報を管理」を参照してください。