染料インクは紙に染み込みます。鮮やかで透明感のある発色が得られます。光沢や質感など紙の特性を活かしやすい半面、マット紙などはにじみやすい傾向です。またインクが乾くまで時間がかかるため、印刷直後と乾いた後では色や濃度が若干変化します。
顔料インクは紙の表面にしっかり定着します。インクが染み込まないため像がにじまず鮮明で、幅広い用紙に美しく印刷できる半面、表面に乗ったインクが用紙の光沢感などに影響します。また速乾性にも優れていて、印刷後すぐに色や濃度が安定します。
ちなみにインクジェット複合機のほとんどが染料インクですが、普通紙などでの文書印刷用に顔料のブラックインクを搭載している機種もあります。黒の濃度が高くにじまないため、細かな文字や罫線などをくっきりシャープに印刷することができます。
初心者から上級者まで あなたの写真が変わるプリント講座 解説:岡嶋和幸
公開日:2023年10月20日
染料インクと顔料インクの
違い
インクジェットプリンターで使われるインクには「染料」と「顔料」の主に2種類があります。キヤノンのPRO LINEプリンターのPRO-S1は8色の染料インク、PRO-G1は10色の顔料インクを搭載しています。
着色に用いる塗料の粒子が水や溶剤に溶けるのが染料、溶けないのが顔料。染料を溶剤に溶かしたものが染料インク、顔料を溶剤に分散させたものが顔料インクです。どちらもインクを吹き付けて印刷が行われますが、染料インクは紙の中に浸透、顔料インクは紙の表面に定着して像を描きます。
染料インクと顔料インクの特性の違いがプリントの品質や保存性などに影響します。それぞれにメリットとデメリットがありますが、インクや用紙の進化などにより両者の性能の差は縮まっています。
染料プリンターと
顔料プリンターの特徴
染料プリンターのほうが顔料プリンターより色域が広めの傾向で、鮮やかな色を再現するのが得意です。色彩豊かで透明感のある仕上がりが得られやすく、インクが紙に染み込むため表面の質感をそのまま活かすことができます。光沢紙との相性が良く、艶やかでメリハリのあるプリントになります。
顔料プリンターは紙の表面にインクがしっかり定着するため、いろいろな用紙に幅広く対応できます。ただし光沢紙の場合、染料プリンターより光沢が控えめになる傾向です。光沢紙は染料プリンター、マット紙やファインアート紙は顔料プリンターのほうが相性が良く、それぞれの用紙の性能を引き出しやすくなります。
染料プリンター | 顔料プリンター | |
---|---|---|
発色性 | ◎ | ○ |
光沢感 | ◎ | ○ |
用紙の対応性 | ○ | ◎ |
印刷後の安定性 | ○ | ◎ |
保存性 | ○ | ◎ |
顔料プリントはインクの粒子そのものの発色で速乾性があるため、印刷直後から色や濃度を正確に把握できます。染料プリントはインクが紙に染み込んで発色するため、印刷直後と乾いた後では色や濃度が若干変化します。インクが乾燥してプリントが安定するまで時間がかかるため、RAW現像やフォトレタッチといった画像処理の効果をすぐに判断できません。しかしPRO-S1は、印刷直後からすでに色の隣接比較でわずかに色差が感じられる程度で、その後急速に安定していきます※。染料インクであってもスムーズな色確認が可能です。
※ キヤノン自社独自の測定値(測定環境・方法によって異なります)
(測定環境)温湿度 23℃±2℃ 50%±10%
(測定条件)測色機:FD-7(コニカミノルタ)
記録モード:PRO-G1「最高」、PRO-S1「きれい」
用紙:キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]
機種:顔料機 PRO-G1、染料機 PRO-S1
※ 1週間後の色を基準としたときの色差。21個の色票の平均値。
また、顔料インクは鑑賞時の光源の影響を受けにくい傾向です。どのような光源下でもプリントの色が安定して見えるようになっています。保存性は顔料プリントのほうが優れていますが、染料プリントも改善されていて今では問題ないレベルです。キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]との組み合わせにより、耐光性はPRO-G1で約60年、PRO-S1は約50年、耐ガス性はPRO-G1で約60年、PRO-S1は約10年、アルバム保存はどちらも約200年を実現しています。
透明インクの効果
顔料インクは紙の表面に定着するため、用紙が持つ光沢に影響します。インクの段差により平滑性が低下し、プリントを照らす光が乱反射して光沢感が弱まります。これを改善するために、PRO-G1には「クロマオプティマイザー」と呼ばれる透明のインクが搭載されています。
クロマオプティマイザーは光沢系の用紙の印刷で使用され、インクの段差による不均一性を改善。表面が滑らかになり光沢ムラが抑制されます。プリントに映り込んだ光に色が付いて見える「ブロンズ現象」を低減する効果もあります。
クロマオプティマイザーによりプリント本来の色と引き締まった黒が再現され、像の鮮明度が向上します。引っかき傷に弱い顔料プリントですが、クロマオプティマイザーによりインクの定着力が増し、表面がコーティングされるため耐スクラッチ性が高まります。
発色性と光沢感
発色性と光沢感は染料プリンターのほうが有利といわれますが、インクや用紙の進化でその差は縮まっています。PRO-G1など一部の顔料プリンターは透明インクを使用することで表面の平滑性を高め、光沢紙で印刷したときの光沢感は従来より改善されています。それでも染料プリンターと比較するとわずかに弱まって見えます。高光沢や超光沢の用紙による鏡面仕上げという点では、染料プリンターのほうが効果的といえるでしょう。
- 染料プリンター
- 顔料プリンター
キヤノン写真用紙・光沢 プロ
[プラチナグレード]
マット紙の画質
マット紙およびファインアート紙へのプリントでは、顔料インクが用紙の表面に定着するため発色性に優れた仕上がりになります。階調や質感なども美しく繊細に描写します。バライタ紙も同様に顔料プリンターのほうが有利といえます。
- 染料プリンター
- 顔料プリンター
キヤノン写真用紙・プレミアムマット
染料プリンターのPRO-S1はブラックインクは1つですが、顔料プリンターのPRO-G1はフォトブラックとマットブラックの2つのブラックインクを搭載しています。光沢系の用紙はフォトブラック、マット系の用紙ではマットブラックを使って印刷します。PRO-G1は高濃度の新しいマットブラックインクを採用し、従来より黒が引き締まった仕上がりになります。