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初心者から上級者まで あなたの写真が変わるプリント講座 解説:岡嶋和幸

初心者から上級者まで あなたの写真が変わるプリント講座 解説:岡嶋和幸

Lesson 20 プリントの保存 大切な写真をプリントでいつまでも残す

プリント劣化する
要因

画像データはバックアップを取るなどしっかり管理することが重要ですが、「大切な写真はプリントで残す」ことも有効です。しかしプリントも紙である以上、劣化現象は避けられません。画像データがあれば、数十年経っても印刷し直すことができます。最新のプリンターで今より高品位のプリントに仕上げられるかもしれませんが、同じ用紙が手に入らなくなっている可能性もあります。

プリントの劣化で困るのは、こだわって仕上げた色が変わってしまうことです。しかし顕著なものでないと、印刷後からどれくらい変色や退色したのか分かりません。用紙の端が黄ばんでしまうこともありますが、これは見てすぐに判断できます。余白を広めに付けていれば、印刷した写真の部分への影響は避けられますが、できればこれもないほうが良いです。

インクジェットプリンターで写真を印刷するにはインクと用紙が必ず必要で、仕上げたプリントが劣化する要因はその両方にあります。

インクの劣化 インクジェットプリンターで使われるインクには「顔料」と「染料」の主に2種類で、PRO-G1は顔料インク、PRO-S1は染料インクを搭載しています。保存性は顔料インクのほうが優れていますが、染料インクも改善されていて今では問題ないレベルです。プリントは紫外線や酸化性ガス(オゾン)などによって退色します。キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]との組み合せでは、耐光性はPRO-G1で約60年、PRO-S1は約50年、耐ガス性はPRO-G1で約60年、PRO-S1は約10年とカタログに記載されています。加えて、アルバム保存はどちらも約200年を実現とあるとおり、基本的には光や空気を遮断することが退色などの劣化対策につながります。
用紙の劣化 用紙には酸性紙、中性紙、無酸紙があります。紙は酸化により繊維が分解されます。そのため酸性紙は長期保存には向いていません。中性紙は中性から弱アルカリ性で製造されています。上質紙の多くは中性紙で、経年による劣化が起きにくい用紙です。無酸紙は「アシッドフリーペーパー」とも呼ばれ、紙の酸性劣化への耐久性が高く、長期保存に適しています。特にファインアート紙の場合、販売などを目的とするプリントでは酸化の原因となる蛍光増白剤を使用していない、天然繊維(コットンやアルファセルロース)の無酸紙を選ぶと良いでしょう。

長期保存した
環境

フォトコンテストに応募したり、写真教室の課題提出のために印刷したりするなど、趣味で写真を楽しむぶんにはプリントの保存について神経質になる必要はありません。しかしプリントに仕上げた写真をいつまでも大切に残したいと考えるのなら、また作品を販売したり購入したりする人は、長期保存に適した環境を知っておくと良いでしょう。

紫外線はプリントにとって有害です。直射日光や紫外線を含んだ照明に長時間照らされないように注意しましょう。プリントを飾るときは、LEDライトなど紫外線を含まない照明器具でのライティングが望ましいです。
温度と湿度 高温多湿の場所を避け、温度や湿度の変化を少なくすることが大切です。紙の保存は温度20℃前後、湿度60%前後が好ましいといわれています。温度や湿度の急激な変化は紙にダメージを与え劣化しやすくなります。低温でも湿度が高いとカビが生える可能性があります。紙が脆くなりひび割れなどの原因にもなるため、乾燥させ過ぎるのも良くありません。
酸性 酸性の環境を避けることが大切です。プリントの保存は無酸性の環境が望ましく、一般的に使われている茶色の封筒やダンボール箱、新聞紙などは酸性度が高いので要注意です。額装のときに使用するマットの素材は、コットン100%の「ミュージアムボード」や、コットンとパルプが50%ずつ配合された「ピュアマット」などの高品質なものを選びましょう。中性から弱アルカリ性で製造されているため、空気など酸性の要素を中和する効果があるといわれています。
ガスやホコリ 塗料や接着剤などから発生するガスはプリントに有害です。壁材や床材、家具などに使われていて、日常生活の中にたくさんあります。空気中にもオゾンなどプリントの劣化原因となる酸化性ガスが含まれています。チリやホコリは吸湿性があり、カビの発生の原因にもなります。それらにプリントができるだけ触れないような環境が長期保存に適しています。

保存性めるための
ヒント

プリント用紙の取り扱いは、パッケージから取り出すときから最大限の注意を払いましょう。手袋を装着し、指で直接触れることはできるだけ避けます。特に表面のインク受容層は吸収性が高いため、付着した指紋による脂汚れや脂染みの恐れがあり、変色などプリントの劣化の原因になります。印画紙タイプの連続印刷を除き、プリント用紙は1枚ずつパッケージから取り出して印刷することが大切です。印刷前の用紙を外に出したまま長時間放置しないようにしましょう。

印刷後、しっかり乾燥させることもプリントの保存性を高めるために重要です。印刷直後のプリントは、染料インクと顔料インクのどちらも水分を含んでいます。プリントの乾燥時間は24時間が目安です。インクが完全に乾くまでは、プリントをマットに装着したり、ポートフォリオのリフィルに入れたりしないようにしましょう。プリントの乾燥については、初級編の「給紙と排紙」のレッスンで解説しているので参考にしてください。

プリントを取り扱うときは、写真用の手袋を必ず装着しましょう。

印刷後も必ず手袋を装着し、1枚ずつていねいにプリントを取り扱うことが大切です。複数枚を重ねて持つと印刷面が擦れ、特にマット系のプリント用紙は表面がデリケートなので傷付く可能性があります。プリントとプリントの間に中性の「合い紙」(保護紙)を挟むことで摩擦によるダメージを軽減できます。ファインアート紙の印刷面を傷や紫外線から保護するコーティング剤なども販売されています。

インクジェットプリント用のコーティング剤は、印刷面を傷や紫外線から守る効果があります。

プリント保管方法

プリントの劣化は避けられません。しかし保管方法の工夫で劣化の進行をコントロールすることができます。プリントの保管には主に3つの方法が考えられます。いずれも上級編の「ポートフォリオを作る」「写真展を開く」のレッスンで解説しているプリントの見せ方です。ポートフォリオや額装などで使用する材料に気を付けることで、プレゼンテーションと長期保存の両立が可能になります。

ファイル ブック式のポートフォリオなどファイルに入れることで、プリントが空気に触れにくくなります。光に照らされるのも、基本的にはファイルを開いたときだけです。写真用品のファイルのリフィルはポリプロピレンが一般的です。塩化ビニル樹脂(塩ビ)など事務用品のものは、プラスチックを柔らかくするために用いられる可塑剤が含まれていて、プリントの変色や退色の原因になるので使用を避けましょう。
保存箱 プリントの保存はプレゼンテーション用の「ポートフォリオボックス」でも問題ありませんが、それよりも手ごろな「ストレージボックス」と呼ばれる写真保存用の専用箱が便利です。一般的な茶色のダンボールは酸性度が高いためプリントが劣化しやすくなりますが、ストレージボックスは材質が無酸性ダンボールなので安心です。軽量で通気性も良く長期保存に適していますが、吸湿性も高いため、湿気の多い場所で保管すると中のプリントに影響するので注意しましょう。

「ピュアガード」など中性の合い紙(保護紙)は酸化緩和や調湿などの効果があり、プリントの上に乗せて重ねるのがお勧めです。ポリプロピレンのスリーブにプリントを1枚ずつ入れて保存箱に収納する方法も有効です。展示したプリントは、ブックマットに装着したままの状態で保存箱に入れるのも良いでしょう。

手前がストレージボックス、奥がポートフォリオボックスです。

額装

額装にはプリントを保護する役割もあります。展示作品をそのまま保存しても問題ありませんが、額装の際にはマットボード、コーナー留めなどのテープは無酸性のものを使用しましょう。マットボードは、美術館やギャラリーなどではコットン100%の「ミュージアムボード」を使用するのが一般的です。プリントの表面を保護するためにアクリルをフレームに入れます。紫外線カット率はガラスの30%に対し、アクリルは90%と高いのが特徴です。反射防止のARコーティングが施された96%前後のARアクリル、98%前後のUVカットアクリルなどさらに紫外線カット率が高いものもあります。

マットは酸化軽減、アクリルは紫外線やホコリなどからプリントを守るために必要です。マットの厚みでアクリルとの間に空間ができて、プリントとの癒着を防ぐことができます。
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あなたの写真が変わるプリント講座【上級編】Lesson 20 プリントの保存
https://personal.canon.jp/articles/tips/print-howto/lesson20
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https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/tips/print-howto/image/1.png?la=ja-JP&hash=0A7FFD82FECAE1787B196782EB84DD05
2023-10-20