しばしとてこそ 立ちどまりつれ
しばしとてこそ 立ちどまりつれ

この作品集は
平安後期から鎌倉初期の歌人、西行が歌枕に訪れ、
伝説として語り継がれてきた土地を訪ね
撮影した写真で構成している。
私が西行の足跡を辿ろうと思ったのは、
10年以上前になる。
それから今日まで、西行の足跡を自分なりに解釈して
日本の原風景として見つめてきた。
旅の途上で西行がどのように風景に親しみ、
歌を詠んだのか。
西行の思いに想像をめぐらせながら私は風景を見つめた。
この作品集に掲載された写真はすべて
私の想像に起因している、と言って良い。
だがテーマに沿って撮影した作品だから物語が描かれる。
ともすれば見過ごしてしまいがちな
風景であっても私の心に響き、
立ち止まらせた風景であったから、
それを素直に受け止め映像として成り立たせた。
西行の足跡を辿る旅は、この作品集でひとまず終わる。
次なる撮影テーマは千国街道塩の道である。
平安後期から鎌倉初期の歌人、西行が歌枕に訪れ、
伝説として語り継がれてきた土地を訪ね
撮影した写真で構成している。
私が西行の足跡を辿ろうと思ったのは、
10年以上前になる。
それから今日まで、西行の足跡を自分なりに解釈して
日本の原風景として見つめてきた。
旅の途上で西行がどのように風景に親しみ、
歌を詠んだのか。
西行の思いに想像をめぐらせながら私は風景を見つめた。
この作品集に掲載された写真はすべて
私の想像に起因している、と言って良い。
だがテーマに沿って撮影した作品だから物語が描かれる。
ともすれば見過ごしてしまいがちな
風景であっても私の心に響き、
立ち止まらせた風景であったから、
それを素直に受け止め映像として成り立たせた。
西行の足跡を辿る旅は、この作品集でひとまず終わる。
次なる撮影テーマは千国街道塩の道である。
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つい数分前まで天空にあった上弦の月が、
見る見る高度を下げ多宝塔に落ちてきた。
夜の壇上伽藍を見ようと宿を出たのだが、
目にしたのは真言密教の
聖地を象徴するかのような光景だった。
高野山に隠棲した西行は、月を眺め、
なにを思っただろう。 -
厳寒、熊野灘の潮流洗う海岸に海霧が発生する。
東の空が曙に染まりだすと、
しばらくして水平線から太陽が昇る。
と、その時を待っていたかのように、
無音の海面から霧が湧き立つ。
同時に叢雲が深紅を濃くする。
まさに隱国を映す色彩だ。 -
日本最古の道、山辺の道を歩き、
石上神宮へ入る手前で心を揺るがす光景を目にした。
朝日が差し込み、漆喰塀に樹影が映えていたのだ。
それは1600年もの
歳月を重ねてきたからこそ現れる美である。
旅をして、思いがけず出会えた風景は
いつまでも忘れない。 -
達谷窟毘沙門堂の岩壁に磨崖仏が刻まれている。
長い歳月、風雪に晒されたせいで剥離が目立つ。
坂上田村麻呂によって建てられたという毘沙門堂だから、
磨崖仏も千年を超えているのかもしれない。
その仏に添える枝垂れ桜が、究極の和風美を描き出す。 -
突然風雪が強まり、
白濁した空気に呑み込まれてしまった。
そう長い時間ではなかったが、
純白の空間に小さな鳥居と祠だけが浮かんでいた。
あまりにも幻想的で、
現実なのかと見紛うほどであった。
長旅をしていて、
不思議な風景が心に届いた時の喜びは大きい。 -
月と桜をこよなく愛した西行は、
吹く風や樹草の息吹を肌で受け止め歌を詠んだ。
そんな西行の思いを想像してみると、
月と桜を基軸にした独自の映像世界が浮かんでくる。
暮れなずむ時刻、枝垂れ桜にかかる満月を待つ時間が
いつもより長く流れる。