福田幸広 〈本を作る、写真を飾る〉
公開日：2024年8月21日
<本を作る、写真を飾る>
撮影後の楽しみ方のヒントとなるような、プロの方々の考え方や写真作品との向き合い方を紹介します。
今回はPHOTOGRAPHERS’ ETERNAL COLLECTION 第二弾 『「Life」 動物たちの生きた証』を発表された、動物写真家・福田幸広氏にお話を伺いました。
PROFILE
福田幸広（ふくだ ゆきひろ）
1965年、東京生まれ。日本大学農獣医学部卒。
イギリスBBC Wildlife Photographer of the Year 2014【両生爬虫類部門】ファイナリスト作家。高校1年の時、タンチョウに憧れ北海道の地を訪れたことがきっかけで写真家の道を志す。「山もいいけど、海もいい」をモットーに、海でも山でも分け隔てなく自分の撮影したいものがあればそこへ行き、時間をかけて撮影を楽しんでいる。現在は「動物たちの幸せの瞬間」を大きなテーマに1年のうち300日以上をフィールドで過ごしている。
写真集・写真絵本など著書多数。
1.EOS10Dからの歴史が詰まった1冊 『「Life」 動物たちの生きた証』
EOS10Dが登場した2003年ごろ、僕はデジタルカメラに移行しました。
今回の写真集は、そのころから撮りためてきた写真を見返し、その中から動物たちが生きている証しのようなものが写っているものを選んでまとめたものです。
タイトルの『Life』は、1994年に初めて出した写真集のタイトルですが、当時の気持ちに立ち返りつつ、新たなものを作りたいという思いを込め、同じタイトルにしました。これまでの取材をほぼ網羅し、デジタルに移行してからの歴史が詰まった一冊です。
2.ストーリーを考えながらテーマに沿って制作する
今回の写真集は、さまざまな取材を織り交ぜて構成したものになっていますが、これまでに僕が出してきた写真集の大半は、一つのテーマに沿って制作したものになっています。
まずテーマを立て、何年もかけて撮影していくのですが、例えば、今日撮れた写真は写真集のどの辺りに使うかなど、あらかじめストーリーを考えながら制作していくのです。
ただ、取材を進める中で思いもよらない発見があると、ストーリーがガラッと変わってしまうこともあり、そんなときは新たなストーリーを組み立てるために足りない写真も増え、自然と取材期間が長くなってしまいます。けれど、そうした思いもよらない発見をたびたびもたらしてくれるのが動物写真の面白いところでもあります。
3.写真集とSNSによる見る人に働きかける力の違い
取材をしながら、自分でも驚くようなシーンが撮れたとき、僕は早くみんなに見てもらいたくなり、すぐにSNSにアップしてしまいます。写真集や写真展のためにとっておこうと考えるのではなく、いち早く自分の驚きを共有したいのです。
SNSのいいところは、すぐに多くの人と共有できるところです。その反面、たくさんの情報にのまれ、すぐに流れて行ってしまう。実際、SNSに掲載した写真を写真集や写真展で発表したとき、「この写真、前にSNSに載せていましたね」と言われたことはありません。もっとも僕の写真が弱いだけかもしれませんが、それでもSNSでスクロールしながら見た写真はすぐ忘れてしまう傾向があると僕は思うのです。
一方、写真集に収録した写真は、SNSで見るより強い印象を抱かせることができるのではないでしょうか。それは、写真集にはストーリーがあり、単体で見るよりも強く印象に残る。また、モニターで見るのと、紙に印刷されたものでは、やはり見る人に働きかける力が違うと思うのです。
4.形に残るからこそ刻まれる歴史がある
そして、もう一つ写真集のよいところは、本として形に残ることです。
例えば、取材に出掛けて田舎の民宿に泊まったとき、もし、そこの本棚に僕の写真集があってボロボロになっていたら、僕はすごく幸せな気持ちになるでしょう。モニターで見る写真とは違い、写真集は色あせたり、端っこが破けたり、手垢がついていたりするかもしれません。でも、それは、たくさんの人が写真集を見てくれた証しなのです。
僕の知らないところで刻まれてきた写真集の歴史。いつかそんな出会いを果たせたらと思っています。
