このページの本文へ

グランプリ 第52回キヤノンフォトコンテスト

グランプリ

『命がけ』田渕 寛(大阪府)

受賞者の声

巨大砂地獄から這い上がるカップルをイメージして
アメリカ出張中、時差ボケに苦しみベッドで悶々としていると、ラインの通知音が……。なんと、家族からのグランプリ入賞の知らせでした。あまりの驚きに、ついに朝まで一睡もできませんでした。今回の作品は、巨大砂地獄から這い上がろうとするカップルをイメージし、ヨンニッパで狙ったものです。このヨンニッパは、私にとって2年前にも幸運を呼び込んでくれた命の恩人のような存在であり、これからも私の至宝として大事に使っていきたいと思います。

講評:見る者にさまざまな想像をかき立てるグランプリ作品

  • 野町
    今回、グランプリに輝いた「命がけ」という作品ですが、おそらく鳥取砂丘の急斜面を登っているシーンですよね。単に斜面を登っているだけではなく、何か人生を背負って登っているような、重い印象を受けました。
  • 山﨑
    僕は最初、上から撮った写真なのかと思ったのですが、よく見ると違うんですよね。周囲が暗く落ちて2人だけにスポットが当たっている感じや、砂の模様が魅力的に写っていると感じました。その2つが相まってよい雰囲気を醸し出していますよね。
  • 田口
    確かに僕もパッと見て空撮かと思いました。本当に2人が重い何かを背負って歩いているような暗く重々しい雰囲気ですが、作品の完成度は高いですよ。砂の沈んだ色味やその中を進む2人のバランスがよく、とても印象深い一枚になっていると思います。
  • 本城
    僕も初めは暗い作品という印象が強かったですね。ただ、2人の姿をよく見ると、なんだか力強く助け合いながら登っているように見えてきたんです。苦難を乗り越え、必死に急な坂を登る姿に惹きつけられました。
  • 野町
    砂には「砂上の楼閣」とか「砂の器」とか、ある種の徒労みたいな儚い印象があるじゃないですか。この作品を見て、ギリシャ神話の「シーシュポスの神話」を思い出したんです。山の上に岩を運ぶのですが、何度も転げ落ちてしまう。暗く重たい雰囲気にしたことで、その世界観が見事に表現できていると思います。
  • 沼田
    雨に濡れたのか、黒い砂が描く模様も魅力的ですね。画面をよりドラマチックにしていると感じました。周囲を焼き込んで「命がけ」という臨場感をうまく出し、ご夫婦なのか、奥様の足が砂に埋まって、本当に「命がけ」で登っている必死さが伝わってきます。
  • 中西
    画面を構成する要素を削ぎ落としてシンプルにまとめているのが素晴らしいと感じました。そのため見る側にいろいろな解釈をさせる作品になっていると思います。今、沼田さんがご夫婦とおっしゃいましたが、もしかしたら際どい仲かもしれないし、その二人が崖を命がけで…。
  • 山﨑
    「崖を命がけ」って、ひょっとしてダジャレですか(笑)
  • 中西
    いや(笑)。写真って見る人にいろいろな想像させるのがいい写真だと思うんです。そういう意味では、審査員の中でこれだけ解釈の幅ができたことが、いい写真の証明になっているのではないかと思います。
  • 古見
    僕も最初はどういう状況なんだろうと、すごく気になった作品でした。おそらく鳥取砂丘で撮られていて、僕は現地にも行ったことがありますが、本当に急で後ろを振り返ると怖いくらいの坂なんですよ。その中で黒い砂の模様が上から垂れ下がる蔦のように見え、それに必死にしがみついて2人が何かから逃げているような、そんな想像もさせてくれる作品だと感じました。
  • 中西
    その2人はあやしい関係だから逃げているの?(笑)
  • 古見
    そういう想像もありだと思います(笑)。でも、そんな2人が光に照らされているのもなんかいいですね。