審査員メッセージ 第51回キヤノンフォトコンテスト
自由部門
立木義浩
コンテストに応募される写真を選ぶときに思うことは、写真の面白さが技術や感覚のそれではなく、結局写真を撮る人の考え方(思想)がごまかしなく出てしまうところに魅力を感じている、ということです。写真に対する評価の基準やそれらしい物差しは使用しません。何故なら「発見」ですから。見たことのないものを見たいというのが物差しなんです。絞切型の類型写真ではなく、独自の語り口で第三者に到底真似ることのできない写真を手にするためには、自分自身が新しいものに挑戦して再生産のきかない一度だけの写真に出逢うことです。そのような個性的で典型の写真は、日々増殖し続けている「月並みな写真」に支えられて現れるものなのです。密かなる夢と希望が実現するように、足は消費的にあちこち歩き回り、手は生産的に気に入ったものを逃さずシャッターを切ってください。
風景部門
石橋睦美
この度、風景部門の審査を担当させていただくことになり、過去の受賞作品を見返してみました。風景写真という分野はどこで線引きするのだろうか、それが難しく、考えてみたかったからです。野生の動植物の生態を記録したネイチャー写真を含む自然美を映像化した心象風景は当然ですが、では人間の営みが感じられる写真はどうなのでしょう。例えば史跡や、人物が点景として写り込んでいる写真などです。私はそれら全てが風景写真だと思うのですが、一般には人間臭を感じさせない映像が風景写真と考えられているようです。ところでデジタル時代になって、フィルムでは不可能だった撮影条件でも撮影ができるようになり、表現領域は格段に広がりました。ゆえにレベルが高いと思われ、応募を控えていた方々も多くおられるのではないでしょうか。そのような印象を払拭して、みなさんの自由な発想を生かした作品が多数応募されてくるのをお待ちしています。
スポーツ部門
水谷章人
現代は、シャッターを押せば簡単に写真が写せる時代となりました。身近なスポーツから本格的なスポーツまで、被写体・テーマには事欠きません。若い人からご高齢の方まで楽しみながら写せる世界、それがスポーツ写真です。まず私が初めに伝えたいのは、スポーツ写真の固定観念を一度取り払ってほしい、ということ。瞬間をとらえるだけがスポーツ写真ではありません。選手たちの人間味あふれる表情や、選手と観客の熱気が感じられるような作品、スナップショットのようなさりげなく写した一枚の中にも、愛や心温まる一瞬は潜んでいるのです。テクニックも必要ですが、素直に心で写してみましょう。「一写入魂」。たくさん撮らなくては進歩はありません。自分だけの作風、オリジナリティーのある作品は、インパクトが強く印象的な写真になります。作者の感性やイメージは無限なのです。皆さんの力作を期待しています。
乗り物部門
ルーク・オザワ
今回乗り物部門を担当します航空写真家のルーク・オザワです。僕はヒコーキ専門ですが、時には鉄道の審査も行っています。僕の捉えるヒコーキ写真は風景とシンクロさせたいわゆる情景写真です。なので、決して常に望遠レンズで寄って撮る必要はありません。標準ズームレンズでヒコーキをワンポイントにした作品ももちろんアリです。あなたが出逢った一期一会の情景とそこに乗り物が絡んだ絵。またその乗り物を支えている人々や乗り物に乗る人、見る人でも、そこに何かを感じたらシャッターを切ることで作品になるでしょう。そして劇的な光に出逢った瞬間を捉えた作品を、心待ちにしています。僕の多くの作品は色と光です。皆さんからのご応募をお待ちしています。
生きもの部門
前川貴行
まだ見ぬ感動的な一瞬をとらえるため、生命と対峙し、試行錯誤を繰り返す。傑作は撮ろうと思って撮れるものではないですが、日々「探求する思い」を抱いていなければ、近づくことすらできないでしょう。グランプリを狙うという目標は素晴らしく、そのために、果敢に攻めてもらいたいです。でも、一足飛びに得られるものでもありません。つねに被写体に向き合い、ワンカットを丁寧に積み重ね、振り返ってみたときに、自分がどれだけのものを得たのか知るはずです。コツコツと地道に取り組む以外に術はなく、進めば進むほどうわついた世界から遠ざかる。けれども同時に、写真の秘める底力に気づき、無限の可能性を目のあたりにし、人生をかけるに価する手応えを感じ、充実した深い喜びをおぼえるでしょう。このコンテストへのチャレンジを通し、普段とは少し異なる角度から、よりいっそう大いなる写真の醍醐味を味わってもらいたいと思います。
ポートレート部門
横木安良夫
ポートレート写真は幅広い。日本語で言えば人物写真のことです。基本は被写体である人物と向かい合い、コミュニケーションをとりながら撮影します。その場合被写体はカメラに向かって無意識に演技をしています。自分がこうありたいとの願望があるからです。撮る側はその演技をそのまま撮ることもありますが、たいていは演技の隙間を狙うことになります。また、正対したポートレートの多くはカメラ目線ですが、ただの記念写真にならないよう注意が必要です。目線が合っていてもカメラが消える写真が理想。すぐれたポートレートは、目線がカメラにきていてもカメラの存在が消えているのです。ポートレート撮影にはスナップ的な手法もあります。被写体と話し合い、カメラを無視するやり方で、家族や友人やモデルを撮るときに使います。子どもであれば、遊ばせるとカメラなんて忘れてくれます。時間があれば被写体はカメラがどうでもよくなることもあります。ポートレートに決まりはありません。人物を主体に撮ればどれもポートレートです。ちょっとしたアイデアや工夫があればいいのです。
アンダー30部門
竹沢うるま
写真は自由だと思っています。正解もなければ、不正解もない。ピントが合っていなくても、露出があっていなくても、構図が整っていなくても、そこに撮影者が感じた何かが写っていれば、それは写真として成り立つと思っています。技術的に優れている必要はありません。いまのデジタルカメラはだれでも簡単にきれいな写真が撮れます。ですので、技術を競うのではなく、気持ちで撮った写真を見てみたいと思っています。撮影者がその瞬間、一体何を感じていたのか。その心の動きのようなものが表れているような写真を期待しています。アンダー30部門では、柔軟で新しい発想の写真が多く見られるのではないかと期待しています。どこかで見たことのあるような写真ではなく、整ってなくても良いので、自分だけの写真と言えるものをぜひご応募ください。可能性に満ちた写真たちを拝見することを楽しみにしています。