私の愛すべきもの #03 今 写真・小澤 太一
公開日:2020年7月9日

子どもが生まれてから、
目の前の一瞬一瞬が愛しく、
かけがえのない時間だと
思うようになった。
窓から射し込む光、
髪を揺らす風、
まっすぐな笑い声。
意識しないと〝今〟は、
ただ通り過ぎていく。

よろこんで
主役をゆずろう。
自分の人生は、
自分が主役だと思ってた。
この子が生まれるまでは。
いつしか、
この小さく愛しい命を守り、
支えることが、
私の幸せになっていた。

自分の誕生日より
うれしい誕生日が
あったこと。

自分も、
たくさんの人に
愛されて
大きくなったこと。

キミは望んでないかもね。
この小さい命は
たくさんのことに
気づかせてくれる。
キミの大切な今を、
一緒に過ごさせてくれて
ありがとう。


今、この瞬間も
どんどん大きく
なっていく。
一日は本当にあっという間に
過ぎていく。
想像以上に大変で、
想像以上に愛しいこの日々が、
ずっとは続かないこと。
そして、二度と戻ってこないこと。
わかってる。わかってるから、
シャッターを切る。

キミの“初めて” を
いちばん近くで
見守れる幸せ。
慌ただしい毎日に潜む
宝物のような一瞬を、
逃したくない。
忘れたくない。

だから、今、
残したい。


でも、そんなに急いで
成長しないでいいからね。
なんでもない
特別な今を
残しておく。


キミがいる。それだけで
幸せになれる人がいる。
親が子どもにしてあげられることは、
多くないのかもしれない。
でも写真は、
その数少ないことのひとつ。
言葉では伝えきれない愛を詰め込んだ、
ママとパパからのラブレター。
大きくなったキミは、
どんな顔して見てくれるのかな。

人生は楽しいこと
ばかりじゃない。

たくさん愛された記憶が
いつか力になるように。

キミの幸せを願いながら
今日もシャッターを切る。
言葉にできない感情も、
写真なら写せる気がする。


ありのままのキミを
受け止めたいから
フルサイズ。

- 小澤 太一Taichi Kozawa
- 1975年名古屋生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、河野英喜氏のアシスタントを経て独立。雑誌や広告を中心とした人物撮影が活動のメイン。写真雑誌での執筆や撮影会の講師・講演など、活動の範囲は多岐に渡る。ライフワークは「世界中の子どもたちの撮影」で、写真展も多数開催している。主な写真集に『ナウル日和』『レソト日和』など。日本写真家協会会員。