私の愛すべきもの #04 空気 写真・榎並 悦子
公開日:2020年7月9日
忙しさに追われ、
気づけば呼吸も浅くなっていた。
吸い込む空気が少ないと、
心の空気も滞る。
そんなときは、
新鮮な空気をたっぷり取り入れて
淀んでいた空気を循環させてみる。
新鮮な心に
着替えられそうな気がするから。
私は、私が立て直す。
最近は、社会人として
仕事の責任も大きくなってきた。
後輩の前で弱音も簡単には吐きたくない。
空気を読んで、自分のなかに
留める言葉も多くなる。
悩みや心配は尽きないし、
未だに失敗もするけれど、
引きずっている暇はない。
落ち込むことで、
得られるものは何もない。
イヤなことは
さらりと忘れて
笑っているほうが
ずっと素敵だ。
人生を泳ぎ続けるためには、
たくさんの酸素が必要だ。
心の空気が足りなくなったら、
新鮮な空気を取り込みに行く。
空気を取り込むなら
自然が豊かな
場所がいい。
日常から解放されて
呼吸が深くなるから。
予定や時間を決めず
心のおもむくまま
過ごしたい。
自分を縛っているのは
自分だったりするから。
自分をリセットできる
お気に入りの場所を
持っておきたい。
心の拠り所があると
人は強くなれるから。
今感じている空気は、
この瞬間、この場所にしかない。
時間が経っても忘れたくないから
私は、フルサイズを手にする。
目には見えない音や香り、
空気感まで被写体になる。
日常に戻った私に
写真は心地よかった空気を
蘇らせてくれる。
新しい空気を胸に、
私はまた前を向く。
- 榎並 悦子Etsuko Enami
- 京都市生まれ。学生の頃より写真家・岩宮武二、高田誠三両氏に師事。大学卒業後、岩宮武二写真事務所を経てフリーに。「一期一会」の出会いを大切に、人物や自然、風習、高齢化問題など幅広いフィールドをしなやかな視線でとらえ続けている。写真集にパリの街角をモノクロでとらえた『パリの宝石箱 Bijoux de Paris』、『園長先生は108歳!』ほか。写真集『Little People』で第37回講談社出版文化賞写真賞受賞。