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WEB部門審査員、田尾沙織さんに聞いたキヤノンフォトコンテスト応募のススメ 第56回キヤノンフォトコンテスト

フォトコンテストについて調査したアンケート結果によると、興味はあるけど応募に一歩踏み切れない方もいらっしゃるようです。そこで今回は、WEB部門の審査員を担当する写真家、田尾沙織さんにフォトコンテストの応募についてアドバイスを伺いました。

田尾沙織

田尾沙織
1980年、東京都生まれ。2001年、第18回写真ひとつぼ展グランプリ受賞。写真集『通学路 東京都 田尾沙織』『ビルに泳ぐ』(PLANCTION)刊行。雑誌、広告、ムービー撮影などで幅広く活動中。近著に2020年刊行の書籍『大丈夫。今日も生きている』(赤ちゃんとママ社)。

応募することが写真の上達につながる

フォトコンテストに応募する理由として最も多かった回答が「スキルアップにつながる」ということですが、確かに、人からの意見が聞けるのは、すごくいい機会になると思います。コンテストで入選すると選者から講評がもらえますよね。それが貴重なアドバイスになるんです。自分の見方だけでなく、他人が自分の写真を見たらどのように感じるのか。それを知ることで、いろいろな発見につながり、自分だけでは気づけなかった、写真を上達させるためのヒントがたくさんもらえるのではないでしょうか。

グラフ:フォトコンテストに応募する理由は何ですか?

また、たとえ入選できなくても、それが無駄になることは決してありません。コンテストに応募するとき、どの作品で勝負するかセレクトをしますよね。今までに撮った写真を見返して、その中から自分がいいと思うものを決めると思いますが、そうして写真を見返すこと自体が勉強になるのです。

高校生のころ、私はひとつぼ展や写真新世紀に応募した経験があります。そのときは普段から撮っていた写真のプリントを並べて、足したり引いたりといった作業を何度も繰り返していました。そうすることで全体が見え、そして、足りない部分やバランスの偏りなどが見えてくるのです。もちろん、組写真と単写真ではセレクト方法は違いますが、自分の写真をしっかりと吟味することで気づけることが、たくさんあると思います。

写真

応募する理由として次に多いのが「自分の作品を多くの人に見てもらいたい」ということですが、すごく分かります。

私もそうですが、褒められることで伸びる人って多いのではないでしょうか。写真を始めたばかりのころ、友達から「その写真いいね」と言われたことで、もっと写真が撮りたくなり、もっといろんな人に見てもらいたいと考えるようになりました。そして、ますます写真にのめり込むようになったのです。フォトコンテストは、たくさんの人に自分の作品を見てもらえる絶好のチャンスです。ですから、自分がいいと思える写真や人に見せたい写真が撮れたら、ぜひフォトコンテストに応募してもらいたいです。

偶然撮れたものがいい写真になる

フォトコンテストに応募しない理由で多かったのが、「自分の作品に自信がない」ということですが、その理由だけで応募を諦めてしまうのは、とてももったいないと思います。
自分の作品に自信が持てない方は、ひょっとしたら自分のイメージと仕上がりにギャップがあるのかもしれません。でも、写真は、シャッター速度と絞りをきちんと考えるといった基本的なことや、いろいろなアングルから狙ってみるというちょっとした工夫で大きく変わります。ですから、もし自分の作品に自信が持てないのなら、まずは、普段とは少し違う撮影方法を試してみるのも一つの手です。

グラフ:フォトコンテストに応募しない理由は何ですか?

特にアングルは重要で、同じ被写体でも少し角度を変えるだけで見え方が大きく変わります。撮りたい被写体を見つけたらまずはよく見て、どのアングルから撮れば魅力的に写るかを考える。それだけで、きっと自分がいいと思える写真が撮れるようになると思います。
自分の作品に自信が持てない方の中には、もしかしたらテクニックが足りていないと考えている方がいるかもしれません。確かに、テクニックも大切ですが、それが写真のすべてではありません。なぜなら、偶然撮れてしまうこともあるのが写真の面白いところだからです。
フィルムカメラで撮影していると、現像があがってきたときに思いがけない瞬間が写っていることがよくあります。狙い通りではないボケ味が魅力になっていたり、シャッターを切る瞬間には気づいていなかったものが写り込んでいたり、そうした偶然が写真の醍醐味であり、撮った自分自身も驚くような写真は、きっといい写真だと思うのです。

写真

例えば、何気なく撮ったスナップの光がすごくキレイだったとか、家族の写真を撮ったらとてもかわいらしい表情をしていたとか、撮った自分が驚き、それを誰かに見せたいと思ったら、それだけで応募作品としては十分です。何も難しくテーマを考えたり、いろいろなテクニックを駆使したりする必要などなく、自分が惹かれたものを素直に撮り、面白いと思える写真が撮れたら、応募できる作品がないなんて思うことはありません。

被写体を見つけたらじっくり向き合う

普段どんな写真を撮っているかという質問に対して多かった答えが、「風景、自然」と「スナップ」です。私は、日常のスナップを撮るのが好きなので、ぜひ、皆さんにもスナップを楽しんでもらいたいですね。

グラフ:普段どんな写真を撮っていますか?

最近は肖像権の問題等で、スナップが撮りづらくなったという声をよく聞きますが、それでも楽しみ方はたくさんあると思います。家族の日常を写したスナップも素敵ですし、引いた写真で人の顔がよく写っていなくても、ジャンプしているなどの決定的瞬間が写っていたり、動物の視点になってローアングルから街を狙ってみたり……。カメラを持って街を歩けば、いろんな被写体と出合えるので、少し視点を変えるだけできっと素敵なスナップを撮ることができると思います。

そのとき、何も遠くの街に出掛ける必要はありません。家の近くやいつも通っている道でも、カメラを持って歩くだけで、違った表情が見えてきます。それに、自分がよく知っている街なら、新しくできた場所を見て、「昔はここに別の建物があったのに……」と昔に思いを馳せながら撮影することもできますし、地元の人だから気づける変化や細やかな表情がきっとあると思うのです。

スナップに限らず、写真を撮る上で大事なのは、被写体とじっくり向き合うことです。目の前の風景でも、家族やペットでも、自分で育てた花でも、被写体は何でも構いません。自分が撮りたいと思ったものと、しっかりと向き合い、自分がどこに惹かれ、何を人に見せたいと思ったのかを考えるのです。そして、光をよく見て、角度を変えながら魅力的に見えるポイントを探す。そうした意識を持つことが、自分の狙いが伝わる作品を撮るために大切だと思います。

セレクトの基準は見せたい瞬間が写っているか

これまでに参加したフォトコンテストの応募方法についての質問では、WEB応募よりプリント応募の方が少し多いんですね。でも、フォトコンテスト自体にまだ参加されたことがない方からしたら、いきなりプリントで応募するのはハードルが高いと思ってしまうかもしれません。

グラフ:これまでに参加したフォトコンテストの応募方法は何ですか??

確かに、プリンターを持っていない場合、自分が納得できるプリントを作るために何度も現像所に通うのは大変ですし、自分でプリントするにも、色の調整などを難しく感じることもあるでしょう。そういう方は、まずはWEB応募から始めてみてはいかがでしょうか。

もちろん、撮影だけでなく、プリントするのも好きな方や、こだわりの色があり、絶対にこの色で自分の作品を見てほしいという方は、プリント応募をしたほうがいいでしょう。大事なのは、楽しみながらフォトコンテストに参加すること。無理して撮影したり、プリントしたりするのではなく、楽しみながら何度も挑戦するほうが絶対にいいと思います。また、応募するときに少しだけ気にしてほしいのは、できるだけ応募作品を絞り込んでほしいということです。デジタルカメラになって、シャッターを切る回数が格段に増えたという方は多いでしょう。そうすると似たようなカットがたくさん撮れ、その中から一枚を選ぶのに苦労されている方もきっといると思います。

だからと言って、似たようなカットをすべて応募してしまうと、せっかくいい瞬間が写っていても、その印象が弱まってしまう場合があります。けれど、ちゃんと一枚に絞っていれば、「すごい瞬間が写っている」と目に止まりやすくなると思うのです。

写真

そして、応募作品をセレクトするときの基準としてアドバイスをするなら、自分が見せたいものがしっかりと写っているかどうかを見極めることです。似たようなカットの中で、どれが最も自分が見せたい瞬間が写っているか。被写体にレンズを向けたということは、そこに何らかの感情を抱いたということです。その被写体の何が気になったのか、そこにどのような魅力を感じたのか。それを自分自身に問いかけ、吟味することが大事なのです。

写真の良し悪しは人それぞれで、「いい写真」の明確な定義などはありません。だから、最終的には、自分がいいと思ったものを素直に応募するのが一番だと思います。人それぞれ好みが違うから、たとえ過去にフォトコンテストに応募して入選できなかったとしても、今度のコンテストではいい結果が得られるかもしれません。ですから、人に見せたいと思えるような写真が撮れたら、何の不安も抱くことなく、応募していただけたらうれしいです。