Vol.2 モンゴル
飛行機をいくつも乗り継ぎ、四駆車で道なき道を行く。
ときには馬に乗り、ときにはラクダに乗り。
山を越え、川を渡り、地平線の向こうへと進む。
これまで大地と共に生きる人々に会うために、
多くの旅をしてきた。
彼らが暮らす場所は、我々の言うところの、
いわゆる僻地である。
しかし、実際に訪れてみると、そこには人が暮らし、
彼らが見る景色があり、感情があり、伝統と文化がある。
僻地や秘境という考え方は、相対的な考え方であり、
絶対的なものではない。
裏返してみると、彼らにとって、私という存在は
日本という僻地からやってきた未知の人間なのだ。
そんなとき、我々の常識や、固定概念は音を立てて崩壊する。
私は、大地の写真を撮っている。
しかし、写っているのは人間である。
私には、自然と共に生きる人々の姿は、
大地の一部として見える。
レンズ越しに対峙する彼らの真っ直ぐな瞳は、
彼らこそが世界の中心なのだと無言のうちに語る。
今回、モンゴルを旅した。
平原の彼方。地平線の先から差し込む光に、
大地が浮かび上がる。
モンゴル・フブスグル
モンゴル北部。
フブスグル湖西側に広がるダルハド盆地。
褐色の大地に広がる草原が、冷たい北風に波打つ。
馬に跨がり、北へと向かう。
遠くにタイガに覆われた丘が連なり、
雪に覆われたサヤン山脈が連なる。
その山中で、ツァータンと呼ばれる人々が暮らしている。
彼らはロシア国境付近の針葉樹林のなかを、
数百頭のトナカイを遊牧して移動する。
広大な草原を越え、川を渡り、山へと入る。
数日かけて移動し、ようやくの思いでツァータンの
冬の遊牧地に辿り着いた。
村に滞在して数日後、雪が降り始めた。
気温はマイナス10度。
吹雪になり、視界が遮られ、厳しさが増していく。
しかし、自然環境が過酷になればなるほど、
彼らの存在は力強くなっていく気がした。
そんなとき、私は彼らの表情のなかに大地を感じ、
シャッターを切った。
帰国し、都会で無機質なビル群の先に
空虚な夜空を見上げるとき、
私はツァータンの遊牧地で見上げた満天の星を思い出す。
そして、世界の中心はどこにあるのだろうかと考える。