ー 「そもそも鉄道風景写真は、列車がそこを通る時しか撮れません。つまり自分でシャッターチャンスを決めることができないんです」。
シャッターチャンスは列車が決めるんだと力説する長根さんはさらに続ける。
ー 「たとえば目の前にとんでもない雲海が出ていようが、ものすごい虹が出ていても撮ろうと思いませんね。お、虹が出てるねぇ、で終わりです。そこに列車や線路がないとスイッチが入らない」。
現場で列車を待っている時に、すごい景色は数え切れないほど見てきたはずだ。
ー 「景色だけ撮って家に帰って見たら、怒りと悔しさだけが思い出に出てくるんですよ!」。
長根さんらしい感情表現で実に面白い。
ー 「やっぱり列車が好きだから、列車を撮りたいんですよ。ものすごい景色と、やってくる列車がシンクロする瞬間があって、これが撮れた時は気持ちがいい」。
でもただ綺麗な景色に列車を入れて撮って、ああ綺麗だねとはちょっと違うんだとか。どういうことだろう。
ー 「僕ら鉄道ファンにとっては、主役は列車なわけですよ。その列車が、一番輝く舞台で撮りたいんです。最高に整った舞台に、主役が入る。その画が撮りたいんです」。
要は何億円もかけた舞台装置でも、それだけ撮ってもつまらないという考え方らしい。だからこそ、線路端を走り回って、よりよい舞台を見つける。いい光やさまざまな自然現象を入れるために、粘って粘って粘り続けるというわけだ。