最初に使った5は、EOS 5D Mark IIです。ちょうどテレビの密着取材が入っていて、撮影クルーと海外に鳥の写真を撮りに行きました。そのとき撮影してくれたカメラマンが「動画も撮ったほうがいいよ」と、いろいろ撮り方を教えてくれて。それからずっと、静止画と動画を並行して撮っています。動く面白さと、止めたときの迫力。両方を楽しめるのが5シリーズだと思います。EOS R3も併用しています。ざっくり言うと、コマ速が欲しいときは3、画素が欲しいときは5。その両方が合わさったようなカメラが欲しいなと思っていたら、EOS R5 Mark IIが登場して。理想的なカメラだと思いました。実際、撮影後にモニターを見てガッツポーズする回数が増えましたね。以前はピントが合っている中から、いいカットを探していましたが、いまは、自分が最もいいと思うシーンが選べるので、撮っていて楽しいです。
神奈川県の大磯にアオバトがいることは知っていましたが、チャンスがなく、今回が初めての訪問でした。 彼らの生息地は山。でも夏の間だけ、ミネラルを補うため、日中、海水を飲みに海へとやって来ます。
その姿を撮るのに、普通の人は、日の出頃に行って9時には帰るんです。日差しがものすごい場所なので、 熱中症になってしまうから。でも、RF800mm F5.6 L IS USMを持って行ったら、イヤっていうほどピントが来るので夢中になって、 気づけば夕日まで撮影していました。日焼けで唇が倍ぐらいになって一週間ただれたんですが、やっぱり面白かったですね。
アオバトは、このシーン以外の写真がほとんどなくて、冬の生態がわからないんです。 ドングリを食べる姿を見られる場所がいくつかあるくらい。でも、僕がふだんオオサンショウウオを撮影している 鳥取の小屋の近くに、赤い実がなる木があるんですけど、そこに来ているらしいという情報を手に入れて。 この冬はそれを撮りに行きたいなと思っています。雪がしんしんと降る中で、赤い実にキレイな鳩が集まったら……。 まだ誰も見たことのない世界ですよね。もう頭の中で考えただけでワクワクします。
何かひとつ抜け出せる予感。
ピント精度が注目されがちですが、EOS R5 Mark IIの真価は「総合力」なんです。ほとんどのシーンは全面測距でトラッキングしていますが、プリ撮影や、視線入力も使います。オオサンショウウオの全身にピントを合わせたいなと思ったら被写界深度合成がありました。動画も好きなので、8K/60Pや30Pで撮れるのはうれしい。スローにならない4K/120Pも、音も入るし、スピードの調整もできるし気に入っています。これまでのカメラとは違う、ゲームチェンジャーが出てきたなという感覚です。だから、どんな動物を撮りに行くときも、撮りたいものが撮れるという安心感と、いままで見たことのないものが撮れそうという期待感がある。幸せな瞬間に「動き」が加わることで、何かひとつ抜け出せるんじゃないかと思っているところです。
福田 幸広しあわせ動物写真家
1965年、東京生まれ。日本大学農獣医学部卒。イギリスBBC Wildlife Photographer of the Year 2014【両生爬虫類部門】ファイナリスト作家。高校1年の時、タンチョウに憧れ北海道の地を訪れたことがきっかけで写真家の道を志す。「山もいいけど、海もいい」をモットーに、海でも山でも分け隔てなく自分の撮影したいものがあればそこへ行き、時間をかけて撮影を楽しんでいる。現在は「動物たちの幸せの瞬間」を大きなテーマに1年のうち300日以上をフィールドで過ごしている。写真集・写真絵本など著書多数。
動物の知られざる一面を伝えたい。
僕らがカメラを向けることで、動物にプレッシャーを与えてしまう側面はやっぱりあって。それなら、まだ知られていない生態や魅力を見つけて伝えることは、撮る者の使命なんじゃないかと思うようになりました。本気で遊ぶサルの顔とか、リスのセンサー代わりの細い毛とか。オオサンショウウオの頭から出る酵素も、酵素が出ること自体は昔の論文に載っていましたが、映像で見ることはできなかった。そういった、いままでは撮ることが難しかったものを、一つひとつ丹念に拾えるようになったのは、カメラとレンズの進化の賜だなと思います。