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Lights of 5 福田 幸広 

Lights of 5 写真家・福田 幸広

幸せが、
動き出す。

動物たちの幸せな瞬間を撮り続けてきましたが、
僕の課題はずっと「動き」でした。
EOS初代の頃の写真なんて、すごくおとなしい。
まず真ん中でピントを合わせて、
構図を決めてから撮っていたので、
風景的な画が多かったんです。
それが、EOS R5 Mark IIになって、
ついに「動き」を加えられるようになった。
動物たちの「楽しい」「美味しい」といった
感情まで表現できるんじゃないかと、
撮影に行くのが毎回ワクワクなんです。
今回は、動物たちがなるべくイキイキ見える
写真を選びました。

写真家 ・ 福田幸広

ニホンザルの力比べ

01

RF100-300mm F2.8 L IS USM 1/2500sec F2.8 ISO1600

オスのサルは、4歳頃になると、群れの端で過ごすようになります。そして、何日間かふらっとどこかへ冒険しに行って、
また群れに戻ってくる。だんだん自信がついてくると、群れから出て行くんです。
そんな、ちょうど体力みなぎるオスたちが、5頭くらいウワーッと遊んでいたときのひとコマです。
ケンカのように見えますが、力比べです。本気で遊んでいるので、顔つきもくしゃくしゃ。いままではその表情を追い切れなかったんですが、
EOS R5 Mark IIでパシャパシャってシャッターを切ってモニターを見ると、全部ピントが来ている。いとも簡単に一瞬一瞬が撮れているんです。
後で一番いい表情を選べると思うと、いままで撮れなかった分まで撮りたいと思って。このときは珍しく1時間くらいずっと遊んでいたんですけど、
5000カットは切ってましたね。最高約30コマ/秒の連写性能をフル活用。もういいやーって笑。
でも、いっぱい撮ったときのセレクトって、けっこう幸せなんです。1枚ずつ送っていって、100カットしかなかったら、やっぱり寂しいので。
この日は、サルがいなくなるまでずっと撮ってましたね。

冬支度をするリス

02

RF100-300mm F2.8 L IS USM + エクステンダー RF1.4× 1/640sec F4.0 ISO6400

これは、冬に備えてクルミを埋めに行くところです。リスは個体ごとに通る道が決まっているので、この道を通るのは誰かを見極めて、
道の延長線上から撮ると、こちらに走ってくるシーンが撮れます。でも、1回で決めないと、2回目以降は「アイツがいる」ってことで、
ひゅーっと曲がって行っちゃう。だから、観察だけして、リスが移動し始めたら、自分も撮影位置に移動してパチパチッと。
チャンスは一度きり。でも、EOS R5 Mark IIなら撮れるんです笑。
連写していますが、後で見返すと、1カット目はリス全体に、2カット目は頭に、3カット目以降は目にピントが来ているんですよ。
秒間30コマのわずか3カットでそこまで合わせてくるかと。
カメラ内アップスケーリングとニューラルネットワークノイズ低減があるので、トリミングを計算しながら撮れるのもうれしいですね。
やっぱり動物撮影って、あとちょっと近づきたくても近づけない場面が結構あるので。そのときに、トリミング耐性があるのは気持ち的にすごくラクです。
だから画素数は少しでも多いほうがいい。いろいろなイメージで後処理できるのも楽しいですね。

オオサンショウウオの誕生

03

RF100mm F2.8 L MACRO IS USM 1/100sec F8.0 ISO400

巣から流れ出てしまったオオサンショウウオの赤ちゃんを、特別な許可をもらって飼育しながら、孵化(ふか)するまで撮り続けました。
50日間、水槽の横に布団を敷いて、タイムラプス撮影して、静止画で日々の成長を捉えて、8K/60P動画を回して……。
貴重な機会だったので、動画は最高画質を選びました笑。このときで体長約1.5cm。レンズはRF100mm F2.8 L MACRO IS USMを使っています。
上の写真は、被写界深度合成を使っているので、全体にピントが来ています。頭の白い部分は酵素です。ここから出てくる酵素で、
卵の膜を溶かすんです。膜はゴム状で、突っついただけじゃ割れないので。じっとしている間に膜がどんどん薄くなっていって、
最後、出ようと暴れたときにピリっと破ける仕組みです。

RF100mm F2.8 L MACRO IS USM 1/200sec F5.6 ISO500

でも、頭から出なきゃいけないのに、暴れた拍子に尾っぽが出ちゃった。だからもう一回やり直しで、頭側を溶かしているところです笑(写真下)。
無事に誕生の瞬間を撮れたときは、感動的でしたね。モニターに映しながら撮影していたので、まるで映画を観ているようでした。
オオサンショウウオの孵化を捉えた映像はおそらく世界初ですが、このクオリティーのものを撮ろうと思ったら、
これまでは特殊で高額な機材がないと難しかった。でも、いまは、撮ろうと思えば市販の機材で誰でも撮れますからね。すごい時代です。

動物の知られざる一面を伝えたい。

僕らがカメラを向けることで、動物にプレッシャーを与えてしまう側面はやっぱりあって。それなら、まだ知られていない生態や魅力を見つけて伝えることは、撮る者の使命なんじゃないかと思うようになりました。本気で遊ぶサルの顔とか、リスのセンサー代わりの細い毛とか。オオサンショウウオの頭から出る酵素も、酵素が出ること自体は昔の論文に載っていましたが、映像で見ることはできなかった。そういった、いままでは撮ることが難しかったものを、一つひとつ丹念に拾えるようになったのは、カメラとレンズの進化の賜だなと思います。

マガンの大移動

04

RF100-300mm F2.8 L IS USM + エクステンダー RF2× 1/5sec F8.0 ISO6400

この2枚は、マガンが飛来することで有名な宮城県の伊豆沼です。去年、面白い画が撮れたので、また違うアイデアで撮ろうと思って行きました。
上の写真は日没後、彼らがねぐらとする沼の水面に、空の照りが映っているところです。
肉眼ではほぼ見えない明るさで、ISO感度もかなり上げています。感度を上げることにはあまり抵抗はありません。
晴れでも曇りでもISO1600とか。シャッタースピードが優先です。この場所は、日が沈んだら真っ暗だしイノシシとかが出るので、
地元の人もあまり行かないんですけど、僕は全然平気なので、暗闇の中を帰りました笑。

RF800mm F5.6 L IS USM 1/30sec F8.0 ISO1000

これは、マガンが一斉にゴハンを食べに行くシーンです。音がすごい。ぶつかることもあるらしいですよ。
これを8K/60Pで撮ると、またキレイなんです。今回はEOS R5 Mark IIが2台あったので、1台は動画を回していました。
鳥までかなり近く、人がいるとその上を通らないので、カメラだけ設置しています。あえて少し離れたところに立って、カメラの上を通過させたりして笑。
静止画と動画は、いつも両方撮りたいし、垣根をつけないようにしていますが、どちらかと言えば静止画ですね。
「一瞬の輝き」という意味では、やっぱり静止画にかなわない。動画だと、全体を通して圧倒されますが、どこがピークかわからず通り過ぎることも。
その中で、最も輝いた部分を僕らが紡いで出すのが静止画なんじゃないかなと思うんです。

休むって何ですか?

時間は足りないですね。オオサンショウウオのセレクトだけでも、まだハードディスクで20TBくらいありますし。よく「休んでください」と言われますが、いったい休むとは何だろうと。たとえばマガンの撮影だと、日の出がだいたい6時なので、僕は3時に起きて4時に現場に行きます。他の人も来ていますが、みんな車の中でエンジンをかけて寝ているんです。寒いから。でも、僕は4時からシャッターを切ります。真っ暗でもシャッタースピードを遅くすれば写るので。写真としては使えなくても、夜中に鳥がどう動いているのかわかる。それが面白いんです。確かに眠いし、疲れてもきますが、現場にいると「行かなきゃ」ってなります笑。

怯える子ザル

05

RF100-300mm F2.8 L IS USM 1/200sec F2.8 ISO1600

普通、サルは用もないのに木に登りません。
この日も、もうだいぶ日が暮れたので、みんな熊笹の下をゾロゾロ歩いて、ねぐらに移動し始めていました。
でも、すごく紅葉がキレイだったので、僕は「誰か木に登ってくれよー」と思いながらカメラを構えていたんです。
そしたらちょうど、いま交尾期なのにメスとうまくマッチングできずいきり立っていたオスが、コォコォッって大声で鳴き始めて、
怖くなった子ザルが木に登った、というシーンです。だから、目がオドオドしていますよね。すぐ下りちゃいましたけど。
これもそうですが、RFマウントになって望遠レンズの解像感が凄い。開放からピッキピキです。
RF1200mm F8 L IS USMなんて痺れますよ。みんなあまり使いませんが笑。

ミサキウマの大集合

06

RF10-20mm F4 L IS STM 1/1000sec F9.0 ISO400

ホワイトバランスがすごく良くなったので、オート(雰囲気優先)を積極的に使っています。
以前は、時間帯によっては被写体の色が周囲の色に引っ張られることがあったので太陽光を使っていましたが、それが気にならなくなりました。
これはオートで撮ったミサキウマです。ミサキウマは、宮崎県都井岬に棲む野生の馬。ふだんは3頭とか5頭とか、
小さな群れで行動しているんですが、何日かに一度、馬が1カ所にガバーッと集まるときがあるんです。理由はわかりません。
それが偶然この日でした。24時間撮影OKの場所なので、ここに来ると体力の続く限り撮影します。夜は、星と絡めた画が撮れるんですよ。

ミサゴと光と水しぶき

07

RF800mm F5.6 L IS USM 1/5000sec F8.0 ISO1600

これはミサゴですね。魚を獲るために水に突っ込んだ後、体をブルブルっと震わせて水を弾いているところです。
上下に波打ちながら飛ぶので、トラッキングをかけて朝からずっと追っていたら、ちょうど背景が暗いキレイなところを通ったんです。
しぶきがホワーッとなっているのだけが印象に残っていたんですが、後で確認したら全カット、目にピントが来ていました。
輪郭の光は太陽光。ポツンポツンと玉ボケしているのは赤トンボです。

3+5=EOS R5 Mark II。

最初に使った5は、EOS 5D Mark IIです。ちょうどテレビの密着取材が入っていて、撮影クルーと海外に鳥の写真を撮りに行きました。そのとき撮影してくれたカメラマンが「動画も撮ったほうがいいよ」と、いろいろ撮り方を教えてくれて。それからずっと、静止画と動画を並行して撮っています。動く面白さと、止めたときの迫力。両方を楽しめるのが5シリーズだと思います。EOS R3も併用しています。ざっくり言うと、コマ速が欲しいときは3、画素が欲しいときは5。その両方が合わさったようなカメラが欲しいなと思っていたら、EOS R5 Mark IIが登場して。理想的なカメラだと思いました。実際、撮影後にモニターを見てガッツポーズする回数が増えましたね。以前はピントが合っている中から、いいカットを探していましたが、いまは、自分が最もいいと思うシーンが選べるので、撮っていて楽しいです。

恍惚のニホンカモシカ

08

RF100-300mm F2.8 L IS USM + エクステンダー RF1.4× 1/400sec F4.0 ISO1600

このニホンカモシカは、僕がここを初めて訪れた4年前からいるオスです。
頭の茶色が強かったり、耳が切れていたり、特徴的な個体は覚えられます。メスが枝につけたニオイを嗅いでこの表情に。
フレーメン反応と言うんですけど、これは何かあるなと思って後をつけていったら、メスと交尾していました。
彼らは、けっこう表情豊かで面白いんですよ。森の中にいくつか休憩場があるので、それを見つけておいて、
座っていないか1カ所ずつ確認していくと、必ずどこかにいるんです。耳の先っちょだけ見えていたり。
こっちはサーマルスコープで見ているので、隠れていてもダメだよって笑。

アオバトの海水補給

09

RF800mm F5.6 L IS USM + エクステンダー RF1.4× 1/5000sec F8.0 ISO2000

神奈川県の大磯にアオバトがいることは知っていましたが、チャンスがなく、今回が初めての訪問でした。
彼らの生息地は山。でも夏の間だけ、ミネラルを補うため、日中、海水を飲みに海へとやって来ます。
その姿を撮るのに、普通の人は、日の出頃に行って9時には帰るんです。日差しがものすごい場所なので、
熱中症になってしまうから。でも、RF800mm F5.6 L IS USMを持って行ったら、イヤっていうほどピントが来るので夢中になって、
気づけば夕日まで撮影していました。日焼けで唇が倍ぐらいになって一週間ただれたんですが、やっぱり面白かったですね。
アオバトは、このシーン以外の写真がほとんどなくて、冬の生態がわからないんです。
ドングリを食べる姿を見られる場所がいくつかあるくらい。でも、僕がふだんオオサンショウウオを撮影している
鳥取の小屋の近くに、赤い実がなる木があるんですけど、そこに来ているらしいという情報を手に入れて。
この冬はそれを撮りに行きたいなと思っています。雪がしんしんと降る中で、赤い実にキレイな鳩が集まったら……。
まだ誰も見たことのない世界ですよね。もう頭の中で考えただけでワクワクします。

何かひとつ抜け出せる予感。

ピント精度が注目されがちですが、EOS R5 Mark IIの真価は「総合力」なんです。ほとんどのシーンは全面測距でトラッキングしていますが、プリ撮影や、視線入力も使います。オオサンショウウオの全身にピントを合わせたいなと思ったら被写界深度合成がありました。動画も好きなので、8K/60Pや30Pで撮れるのはうれしい。スローにならない4K/120Pも、音も入るし、スピードの調整もできるし気に入っています。これまでのカメラとは違う、ゲームチェンジャーが出てきたなという感覚です。だから、どんな動物を撮りに行くときも、撮りたいものが撮れるという安心感と、いままで見たことのないものが撮れそうという期待感がある。幸せな瞬間に「動き」が加わることで、何かひとつ抜け出せるんじゃないかと思っているところです。

福田 幸広しあわせ動物写真家

1965年、東京生まれ。日本大学農獣医学部卒。イギリスBBC Wildlife Photographer of the Year 2014【両生爬虫類部門】ファイナリスト作家。高校1年の時、タンチョウに憧れ北海道の地を訪れたことがきっかけで写真家の道を志す。「山もいいけど、海もいい」をモットーに、海でも山でも分け隔てなく自分の撮影したいものがあればそこへ行き、時間をかけて撮影を楽しんでいる。現在は「動物たちの幸せの瞬間」を大きなテーマに1年のうち300日以上をフィールドで過ごしている。写真集・写真絵本など著書多数。

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Lights of 5|福田 幸広
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2024-12-26