− [紀伊路]シリーズは、普通の道で撮った写真をいかに作品に昇華していくかというのがテーマの一つでもあります。そういう点でEOS R5 Mark IIは、すごくやりやすいカメラです。特に視線入力。最初はどこまで使えるのかなと思ったんですけど、キャリブレーションを3、4回繰り返すと、精度がグッと上がったんです。そうすると、いいなと思う光景で、ワンクッションなく“見て”撮れる。体と直結する感じが、私には最高ですね。スマホやAIの発展で、答えらしきものにすぐにたどりつけるんだけど、それは頭でわかった気になっているだけかもしれません。でも、写真って体を動かして、体で覚えて歩いて汗かいて撮るところにも喜びがあるので、見て撮れる視線入力は僕の中ですごくスっとくる。身体の一部になった感じがしますね。
− RFマウントはバックフォーカスが短くなったので、かつてより写りがシャープになったという印象を皆さんもお持ちかもしれません。しかもRFレンズは開放から線がキレイに出るんですよね。以前はF8.0とかF11が中心でしたが、最近は開放で撮ることが多いです。僕のメインレンズの一本でもあるRF28-70mm F2 L USMは、F2.0で撮ってもピントが非常に良い。F5.6、F8.0のシャープさがF2.0で得られてしまう。写真展や写真集ということを考えた時、逆手に取ってちょっと柔らかい作品を入れていくっていうのが、今、作家として意図的に考えているところですね。こういう視線の揺らぎというのは複数の写真で見せていく中で入れていけばいいので、合わせるべき時はバチッと合わせて、見てくださる方の視覚を揺るがすようなことができたらいいなと思っています。
− もう一つ、ホワイトバランスについても。どんなに空が曇っていても、その上には太陽があるので、絶対に[太陽光]で撮っていたんです。だけどEOS R5 Mark IIでは[オートWB]の[雰囲気優先]で撮っています。朝と夕方の本当に濃い色が欲しいなという時だけ、[太陽光]に変えて色温度を利用しているんですけど、日中はオートに任せています。他にも良いところはありますが、EVFもその一つでしょう。今年の夏はすごく暑くて光がすごく強かったですね。有害光が入りやすい季節だったけど、このEVFの見えやすさのおかげで気になりませんでした。9月に入ってからはアイカップを付けるようになったので、さらに見やすさが変わりましたよ。熱対策、マルチファンクションボタン、グリップの握りやすさ、バッテリーの持ちなど、地味だけど見えづらいところに良さが眠っているカメラだと思います。
− 2007年の時点までは、EOS-1Ds Mark IIIがメイン機でした。当時は情報源として、まだ雑誌がすごく機能していた時代でしたよね。航空会社の機内誌、クレジットカード会社が発行している富裕層向けの旅雑誌、一般誌でも旅特集があったりとか。ちょっと大きめの雑誌でも見開きで印刷に耐えられるものが撮れたんです。でも海外に持って行く時に、すごく大きくて荷物になるし、価格も80万円くらいしたんですね。フリーランスで3台も4台も買えません。そんな時にEOS 5D Mark IIが出てきました。ここが“5”との出会いですね。最初はサブ機のつもりで買ったのが、写りがEOS-1Ds Mark IIIと同じかそれ以上と気づきはじめて、どんどん地位が変わっていったのを覚えています。気づくとEOS 5D Mark IIを2台使っていましたよ。
− 2010年に風景をテーマにした[LAND ESCAPES]という写真展を初めてキヤノンギャラリーで開催しました。2007年〜2009年は、まさにその作品を撮り続けていた時期なんです。EOS 5D Mark IIは、いうなれば今の[terra]に至る作品の最初に撮り始めたカメラでもあるということですね。2013年に、キヤノンカレンダー(2015年版)撮影のご依頼をいただきましたが、もちろん僕の横には“5”がありました。その頃EOS 5D Mark IIIでしたね。忘れられないのがEOS 5Ds。撮ることがすごく大変なカメラでしたが、(ピントが)当たった時のディテールのすごさは、今も衝撃として残っていますね。そして[terra]に至る作品を作り始めた時には、EOS 5D Mark IVがメインでした。[terra]は、いろいろな方に注目していただけて、僕を大きくステップアップさせてくれた作品といえます。
− 作品づくりの横に常にいてくれたのは“5”です。2020年にEOS R5が出た時はやっと高画素化してくれて(約4500万画素)。写真を大きくプリントするので、僕にとって画素数は大事なんです。EOS R5は4年間使って不満なかったし、むちゃくちゃいいカメラだと今でも思っているんです。でもEOS R5 Mark IIがついに出てきて。スペックはそんなに変わらないと事前に聞いたので、大きくない期待値から入ったんですが、実際に触ってみたら、わかるものですね。ちょっとちょっとの変化がすごく良い。EOS R5が古く感じてしまうのは嫌なんですけどね(笑)。改めて“5”は自分と一緒に発展しているという実感は大きいですね。これ以上はもう進化しないだろうと思っていても、その期待を超えてしまうんだから、次はどうなっちゃうんでしょうね。