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グランプリ 第53回キヤノンフォトコンテスト

グランプリ

『土俵の女達』平山 弘(和歌山県)

受賞者の声

奉納相撲当日の早朝に相撲部の練習風景を写す 私は、十数年前に妻を亡くし、それからカメラを持つことはありませんでしたが、勤続30年の表彰でいただいたお金で、オーロラを見に行き、8年ぶりにカメラを持ちました。「俺、まだいける」。また写真を始めるにあたり、昔の写真仲間に助けていただき、大変感謝しております。受賞の作品は、ほとんど知られていない神社の春の例祭の奉納相撲。これに合わせて大学の相撲部の方が合宿に来られます。例祭の日の朝早くに行き、相撲部の練習風景を撮らせていただきました。

講評:ジャンルの枠を超えた魅力のあるグランプリ作品

  • 中西
    今回、グランプリに輝いたのは「土俵の女達」という作品ですが、スポーツというカテゴリーの中で、このような作品が寄せられたことをうれしく感じました。スポーツ写真というと、どうしても決定的瞬間ばかりに目が行きがちです。しかし、この作品はそのバックストーリーに目を向け、ドキュメンタリー的要素もうまく取り入れている点が素晴らしいですね。スポーツには、決定的瞬間とはまったく異なる魅力もたくさんあり、意外とそれを見落としている方が多いものです。そうした中でこの作品は、ほかの人が目を止めないような側面を切り撮り、5枚の組写真として完成させたことで、非常に目を引く作品になりました。
  • GOTO
    私は組写真である意味がとても強い作品だと思いました。一枚一枚が決して説明的ではなく、想像力を刺激されるカットを並べているところが素晴らしいです。見る人に何か問いかけるような魅力があります。
  • 大石
    カメラワークが新しいというか、若い印象も受けますね。確かに、いわゆるスポーツ写真とは違う撮り方で、新しい表現の形になっています。
  • GOTO
    5枚を並べることでストーリーが感じられますが、それも決して説明的ではないですよね。読み手に自由な解釈を与える構成になっているから、見応えのある作品になったのでしょう。また、女性の相撲をとらえたことで、相撲の世界だけでなく、どの世界にも女性の活躍の場が広がっているといった社会的な意味も含まれているように感じました。そのように、見る人によって多層的な理解ができるところがこの作品のよさです。
  • 大石
    そうですね。女性の相撲ということで少し躊躇してしまった部分もあったのですが、よくよく見ているうちに、今のお話にあったような、この作品が新しい日本を切り開いていく、新たな日本の象徴のような一枚になって欲しいと感じました。先ほど言ったカメラワークや表現としての新しさだけではなく、社会的な新しさも読み取れる作品になっていると思います。
  • 野口
    写真を撮る上で被写体との出合いはとても重要だと思いますが、そういった意味で、まず相撲に打ち込む女性に出会えたことが、この作品の素晴らしさだと思います。また、もっとたくさんのシーンを見てみたいという気持ちにさせてくれる魅力もあります。
  • 米屋
    一点一点が本当に魅力的に撮られていますよね。最後の写真は、取り組みを終えて片付けをしているところでしょうか。どことなくかわいらしい雰囲気があり、とても惹かれました。さらに組み方も効果的で、土俵の上の写真をピークにしながら、その前後をうまくまとめていて、見る人が心地よさを感じる流れになっています。
  • 野口
    すごく繊細に撮られていますよね。あまりズカズカと迫るのではなく、適度な距離感と繊細な視線で被写体を見つめていると感じました。
  • 中西
    写真には、スポーツや風景といったジャンル分けがありますが、そうした枠が撮り手の自由を奪ってしまうケースもあると思うんです。スポーツ写真なら、このように撮るべきといったジャンルという枠に囚われることなく、目の前にある被写体のどこが魅力的なのかを考え、その場での閃きで撮っていただきたいです。
  • GOTO
    そういう意味では、この作品も部門分けがあったから動体部門に出しただけで、撮るときはそれほど意識されていないのかもしれませんね。