岩橋 崇至「ロックガーデン」
北アルプスや北海道の山々、北米大陸を縦断するロッキー山脈など、国内外の山岳を中心に自然風景を撮り続ける岩橋崇至氏。
本展では、アメリカ中西部に広がるコロラド高原の荒涼とした景観をとらえた作品を展示。数十億年という長い年月をかけて繰り返される地殻変動によってつくられた、テーブル状の大地や峡谷、天然の岩柱など自然のモニュメント。それを「大地の写人」と称される岩橋氏が、美しく大胆に切り撮った作品が並ぶ。
会期 | 会場 |
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2007年9月28日~2007年10月29日 | キヤノンギャラリー S |
作品・展示風景
作家メッセージ
岩と砂漠で成り立つグランドサークルとの出会いは1988年、アラスカからメキシコまで、ロッキー山脈を4年かけて撮影しているときであった。コロラド川に沿った一帯に、島国・日本では決して見られない荒涼とした砂漠地帯(デザート)が広がっていた。
コロラドプラトーと呼ばれるこの広大な台地は、ユタ、コロラド、アリゾナ、ニューメキシコの各州にまたがっており、地球の歴史が直接見られる場所である。数十億年という気の遠くなるような長い年月の間に、コロラドプラトーではさまざまな変動を体験した。海が隆起して陸になる。巨木の森が生まれる。恐竜が闊歩する。火山の大爆発で森が火山灰に埋もれる。海底に沈む。そして再び隆起して、地表へと現れる。
イエローストーンを源流とするコロラド川はアメリカ中西部を南下しながら、アーチ-ズ、キャニオンランズ、パウエル湖、グランドキャニオンなどを形成していった。
数十億年の堆積は厚い地層を何層にも重ね合わせる。陸がぶつかり合って地層が褶曲する。新陳代謝の激しい日本の自然とは異なり、デザートにあるモニュメントは、変動をそのまま何億年もさらし続ける。
コロラドプラトーの代表的な岩がナバホサンドストーンと呼ばれる赤茶けた砂岩である。モニュメントバレーの台地状岩峰(メサ)や、尖峰(ビュート)の姿を見た者は個性豊かなその姿を忘れることはないだろう。ピンククリフと呼ばれる地層は、ブライスキャニオンの岩塔(フードゥー)となり、豪快かつ微妙で繊細な姿を見せる。
コロラド川の激流に洗われた地層は風化されて天然のブリッジ、アーチーズを形づくる。下流では岩峰群がメイズと呼ばれる複雑に入り組んだ地形をつくる。
さらに下流では、約350キロメートルにわたって台地を浸食し、大峡谷・グランドキャニオンとなる。岩をうがつ急流は台地を深く深く浸食し、高度差が1500メートルに及ぶ所もある。削りとられた地層は、十数億年の断面をさらけ出す。
世界中からこの風景を見にやって来るが、多くは壮大な景色のほんの一部を垣間見るに過ぎない。人里離れたさらに奥に、まだ知られざる場所がある。オフロードを4WDの車で入り、砂に足を取られながら灼熱の太陽の下、数時間歩いてやっと辿りつける場所だ。
砂漠地帯をめぐりながら、私は日本の石庭を思いだしていた。小さな庭園が、大宇宙の広がりを表す。乾燥しきった砂漠地帯の透明感あふれる大気は、遠近感を奪う。大きさも遠近感も喪失した風景は、時空を超え、さまざまな世界、宇宙を我々に見せてくれる。
なお、アメリカでの取材にあたりましては、下記の方々に、多大なご協力をいただきましたことをここに記し、感謝申し上げます。
撮影協力
アメリカ大使館
Bureau of Land Management, Department of the Interior
トヨタ自動車株式会社
Toyota Motor Sales, U.S.A., Inc.
作家プロフィール
岩橋 崇至(いわはし たかし)
「大地の写人」地球の貌、山や自然を撮影。1944年東京生まれ。慶應義塾大学卒。日本大学芸術学部写真学科卒。日本山岳写真集団前代表。日本写真家協会、日本写真協会、日本写真芸術学会、日本山岳会、日本黒部学会、各会員。
国内外100か所で個展開催。対象の大きさ、繊細さ、色彩の豊かさ、巨大なプリントに描かれる岩橋の世界に魅せられるファンは世界中に多い。
1992年日本橋三越ほか各地で開催された写真展「The Rockies」は、国内外の数多くの支援者に支えられ1994年から米国各地を巡回した。現在、ベリー大学(米)が全作品を所蔵。韓国・EXPO’93で開催された「白頭山」展には50万人が入場。2000~2001年、世界5か国で開催された「新世界を拓く/世界10人の山の写真家展」に日本からただ一人選ばれた。
著書『北ぐにの山々』『黒部渓谷』『白頭山』『The Rockies~アラスカからメキシコまで』(6か国で刊行)『槍 穂高』『北アルプス大百科』『燕岳-四季へのいざない』『名水』『ロックガーデン』ほか。共著多数。
相模原市市民文化祭、全国生涯フェスティバル「まなびぴあ」フォトコンテスト、山形県「ぐるっと大江の四季写真コンテスト」、加賀市・深田久弥「日本百名山」写真コンテスト、中国新聞社「21世紀に残したいふるさと百景写真展」など各地で写真審査員を務める。富山県「立山カルデラ砂防博物館」展示アドバイザー。1997年より「岩橋崇至写真自然塾」主宰。そのほか各地で大人向け、子供向け、親子向けの写真教室を開催。
著作権について
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写真展の情報・作家メッセージなどは、開催当時の内容を記載しております。予めご了承ください。