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Lights of 5 竹沢 うるま Vol.1 インドネシア・バリ

LIGHTS OF 5 Vol.1 インドネシア・バリ Inner Light 光のある方へ Photographer URUMA TAKEZAWA

Inner Light 光のある方へ

Vol.1 インドネシア・バリ

コロナ禍を経て、再び世界への扉が開いたときのこと。
私が乗った飛行機は、未明に西の大陸へと向かった。
しばらくすると、地平線の彼方がほのかに明るくなりはじめた。
はじめは薄紫色に、次に淡い桃色に。
西へ向かう飛行機から見る夜明けは緩やかだ。
昼でも夜でもない、あわいの時間は長く続いた。
それはまるで、私を含め、多くの人が経験した辛くて長い、
曖昧な日々のようであった。
飛行機がやがて目的地に到着すると、朝陽が差し込んできた。
その光の美しさ。
そのときの光の輝きを忘れられない。
その輝きは心の奥底まで届き、気がつけば、涙を流していた。

私は、このとき見た光のような写真を撮りたいと思っている。
人の心のなかを明るく灯すような、そんな写真。

私はこのシリーズを通して、光を求めて旅をする。
それはもしかしたら、
目に見えるわかりやすい光ではないのかもしれない。
しかし、それはきっと、
我々が行く道を照らしてくれるもののはずだと信じている。

今回、インドネシア・バリ島を訪れた。
そこで出会ったのは、祈る人々の心に灯る光だった。

インドネシア・バリ島。
アニミズムとヒンズー教が融合した独特の祈りが
この地に根付いている。

島内の寺院では、バリ独自の暦であるウク歴に基づいて、
年に一度、神々が地上に降臨することを祝う祭礼、
オダランが行われる。村の住人は日常の安寧と繁栄を願い、
伝統舞踊を奉納し、祈祷する。

古都ウブド近郊のプラジャパティ寺院で行われる
オダランを訪れた。
寺院内はガムランの重層的な音色が響き、
村人たちが供物を御神体に捧げていた。
中庭では奉納舞踊が行われ、
それが終わると祈りの時間が訪れる。
人々は花びらを手に取り、頭の前で合掌し、祈る。
そのとき、あたりには濃密な静寂が漂い、
人々の想いで寺院が満たされる。
祭礼は夜通し行われ、チャロナランと呼ばれる
厄除の舞踊が奉納される。
寺院の舞台に聖獣バロンと魔女ランダが現れた瞬間、
人々の高揚は絶頂を迎えた。

同時に、神々が寺院に降臨する聖なる日は、
死者の魂が俗世を離れ、
清浄な天上世界へと向かう日でもある。
そのため、バリではオダランの日にンガベンと
呼ばれる合同葬儀も行われる。
この地において葬儀とは祝い事なのである。
牛の形を模した神輿などに死者の魂が込められ、
儀式の最後に聖水をかけられたあとに、火葬される。
死者の魂は清らかな存在となり、炎とともに天へと上る。

一連のバリでの撮影を通して、私が捉えようとしていたのは、人々の心に宿る光である。
安寧を祈る人々の心に灯る光、死者を悼む心を照らす光。
それらの光は、我々人間にとって、
最も根源的で、原初的な光なのではないだろうか。

コロナ禍を経て、
世界が大きく変わってしまったと思うことがある。
しかし、バリで出会った人々の想いや、その心に灯る光は、
変貌する現在の世界において、
大切なことは何なのかを照らし、
我々に提示している気がする。

内なる光を求めて、旅を続ける。

竹沢うるま写真家

1977年生まれ。
世界各地を旅しながら写真を撮る。これまで訪れた国と地域は140を超す。2010年~2012年にかけて、1021日103カ国を巡る旅を敢行し、写真集「Walkabout」と対になる旅行記「The Songlines」を発表。2014年には第3回日経ナショナル ジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。2015年に開催されたニューヨークでの個展は多くのメディアに取り上げられ現地で評価されるなど、国内外で写真集や写真展を通じて作品発表をしている。

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Lights of 5|002:竹沢 うるま Vol.1 インドネシア
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2024-08-30