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熊切 圭介「揺れ動いた'60年代の光と影」

飛躍的な経済成長の最中にあった1960年代は、家電製品の急速な普及で生活水準が向上していく一方で、環境破壊や公害、学生運動などの社会問題が顕在化した激動の時代だった。
戦後の混乱期を経て、豊かさを求めてがむしゃらに働く人々の姿や、急激な工業化の中で疲弊していく国土の様子など、日本における「光」と「影」の部分を宿す1960年代の世相を、熊切圭介氏がジャーナリズムの視点からとらえた作品約100点を展示。

会期 会場
2008年5月9日~2008年6月17日 キヤノンギャラリー S

作品・展示風景

作家メッセージ

現在日本の社会が抱えているさまざまな問題の萌芽は、1960年代に見え隠れし始めた。日米安保条約問題の騒然とした雰囲気の中で迎えた’60年代は、岸内閣の退陣の後に登場した池田内閣の「所得倍増計画」でスタートした。戦後政治の時代から経済の時代に変わった年である。未だ身についていないレジャーとやらにつかの間の幸せを感じ、ひたすら豊かさを求めて一生懸命働いた時代だった。その結果、GNP世界第2位という輝かしい地位を手にした。

石炭から石油へというエネルギー革命と重化学工業化が進み、日本各地で大規模な工業開発が行われた。反面、都市の人口過密や農山村の過疎化が加速していった。1964年に開かれた東京オリンピックで国際的にもアッピールし、黄金の’60年代とか昭和元禄などと、世はまさに天下泰平ムードで日本は順風万帆と思いきや、背後には黒く深い影がひたひたと迫っていた。

大気や河川汚染などによる公害問題、サリドマイドや水俣病など薬害や有機水銀中毒、地価の高騰、開発にともなう環境破壊、交通災害の急増、全国に波及した学園紛争などに加え、凶悪な事件や悲惨な事故が多発した。

また対岸の火事かと思っていたベトナム戦争の暗い影が、日本を覆い始めていた。そうした時代の動きの中で、1970年に開催された日本万国博覧会を機に、日本は一層経済への傾斜を強め、消費文化に軸足を置いた情報社会に身をゆだねていった。

「光」と「影」が複雑に交錯し揺れ動いたこの時代は、写真家としてスタートしたばかりの私にとって、まさに青春時代そのものであった。週刊誌や月刊誌、グラフ誌などジャーナリズムの片隅から見続け記録し続けた’60年代は今に続く記憶として深く残っている。

作家プロフィール

熊切 圭介(くまきり けいすけ)

1934年
東京・下谷西町に生まれる。
1958年
日本大学芸術学部写真学科卒業。のちフリーランスの写真家として週刊誌を中心に月刊誌、グラフ誌など主にジャーナリズムの分野で写真活動をする。同時に単行本、美術全集などの撮影を行う。
1965年
第一回日中青年大交流に日本写真家協会(JPS)の代表として、齋藤康一・佐藤省三両氏と参加
1975年
日本写真家協会企画制作の「日本現代写真史展」編纂委員
1984年
国際交流基金制作の写真展「日本1971~1984 -人と社会-」編纂委員
1986年
東京パリ友好都市提携記念「東京パリ写真展」編纂委員
1989年
東京都の「アルバム東京」作成懇談会委員
1991年
東京港開港50周年記念事業実行委員会の依頼で写真集「東京港」の撮影を行う。
1995年
日本写真家協会、朝日新聞社主催「日本現代写真史展 -記録・創造する眼」実行委員長
2000年
日本写真家協会編纂「日本現代写真史1945~95」(平凡社刊)編纂統括
2007年
「横浜国際フォトジャーナリズムフェスティバル2007」実行委員会会長
2008年
JPS展委員長(2000年JPS展より委員長を続ける)

写真展

1981年
「風光万里-中国の旅」伊那ギャラリー(東京)
1987年
「街・東京 1972~1987」キヤノンサロン(東京・名古屋・大阪)
1991年
「スペイン・鉄の光栄」コニカフォトギャラリー(東京・名古屋・大阪・福岡)
1993年
「ニュー・ポート・タウン・トウキョウ」東京都庁舎ホール(東京)
1994年
「揺れ動いた’60年代」JCIIフォトサロン(東京)
2001年
「風の島カオハガン物語」富士フォトサロン(東京・名古屋・福岡)
2002年
「池波正太郎と下町の風景」台東区生涯学習センター(東京)

グループ展

1984年
「六の会展」ナガセフォトサロン(東京)
1992年
「六の会展」富士フォトサロン(東京)
1992年
「東京オリンピックの時代」JCIIフォトサロン(東京)
1998年
「六の会展」コニカプラザ(東京)
2001年
「江戸・東京往来」熊切圭介、木村惠一2人展 キヤノワンダーミュージアム(千葉)
2002年
「1965年中国・そして今」熊切圭介、齋藤康一、英伸三3人展 新宿パークタワー1F ギャラリー・1(東京)
2004年
「三人展」熊切圭介、長友健二、木村惠一 富士フォトサロン(東京)
2006年
「二人展」熊切圭介、木村惠一 円月ギャラリー(東京)
2008年
「六の会展」ポートレートギャラリー(東京)

主な著書および写真集

『手漉和紙精髄』、『世界の博物館』、『美術全集・25人の画家』、『中国の旅』(講談社、いずれも共著)、『毛網毅曠』(丸善出版)、『朝香宮廷のアール・デコ』(東京都文化振興会)、『東京港』(東京港開港50周年記念事業実行委員会)、『ハプスブルグの鉄』、『上海鉄景』、『インド鉄紀行』、『マンハッタンの橋』(川崎製鉄株式会社)、『池波正太郎のリズム』(展望社 2000年)、『南島からの手紙』(新潮社 2001年)

著作権について

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