作品 2023年 第1回GRAPHGATE
作 品
+++ グランプリ +++
逸見 祥希氏ヘンミ ヨシキ
(Un) acceptable Landscapes
Statement
人類が現在の文化レベル、経済レベルを保ちながら生きていくためには電気は必要不可欠なものであり、化石燃料を使用しない発電方法が求められる今、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの普及が世界各国で進み続けている。3.11を経験した日本は原子力発電に頼ることが困難な状況もあり、再生可能エネルギーの普及は避けられないものとなっている。しかし、山地が国土の約75%を占める我が国の地理的特性は太陽光発電との相性が悪く、土砂災害リスクの増加や山岳景観の阻害など、様々な問題が各地で顕在化し、少なくとも37府県でトラブルが確認されている。
この作品は主に山梨県北杜市で撮影している。市内には現時点で2000基以上の発電設備が存在し、この10年で環境が大きく変化してきた。
失われゆく土地と、地球を救うためのエネルギー。私たちはこの開発とどう向き合い、何を思えばいいのだろうか。
Profile
1994年生まれ、青森県三沢市出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。2019年から2022年まで同大学助手。実家のある青森県六戸町で大規模な太陽光発電開発が始まったことをきっかけに、ソーラーパネルの撮影を開始。現在は早稲田大学社会科学研究科に在籍し、写真を通じた太陽光発電の社会的受容性の変化について研究活動を行っている。
● HP:https://yoshiki-hemmi.me/
+++ 優秀賞 +++※グランプリ選考会 進出者。五十音順
稲垣 翔太氏イナガキ ショウタ
The Real Of Islam
Statement
現代において私たちは、メディアから断片的に情報を取得しており、その一部の情報から良い、悪いを判断してしまう習慣があると感じています。私自身、そのような偏った情報で判断していたものが「イスラム教」でした。私の中でISやタリバン、9.11などネガティブな情報が悪目立ちして勝手に過激的な宗教だと感じていました。しかし世界中には20億人弱ものイスラム教信者がいるため、イスラム教の本当の姿を確かめたく撮影を行いました。撮影はトルコの断食月に行い、そこで私が目にしたものは「アラハムドゥリッラー(アッラーに感謝を)」という精神のもと、唯一の神であるアッラーに対し行う「礼拝の大切さ」です。またアッラーが認めた道を歩むという、ある種人生の指標の様なものでもありました。その為、とても神秘的でもあり、彼らの生活の大きな時間を占めている「礼拝」をメインに、映像を構成しております。イスラム教の一部分をぜひご覧ください。
Profile
私のこれまでの映像活動は、正直目にとまる様な点はありません。私はコロナがきっかけで、ドキュメンタリー映像などよく見るようになり、映像が持つ伝える力の大きさに興味をもち、大阪の映像制作会社に就職しました。そこでは主に、アシスタントマネージャーとして働き、映像の仕事の流れを学ぶことが出来ましたが、映像を作る方に携わりたかった為、一年後に退職し、その後フリーランスとして結婚式や飲食系のプロモーション映像をメインに撮影を行ってきました。また昨年度からではありますが、映像を始めたきっかけでもあるドキュメンタリー映像を、自主制作ではありますが作り始めている状況です。
● Instagram:@show_time_ina
オカダ キサラ氏
アウトインドア
Statement
外へ出かけると、仕掛けられてたかのように偶然が重なる一瞬や、なぜ?と思わず問いかけたくなる不思議な場面に遭遇する。
ささやかすぎる瞬間だけど、見つけたらちょっとだけ楽しくなる。そんな場面を写真に残して、ずらりと並べてみたらどうなるだろう?
日常には「ちょっと楽しい」がたくさんあるんだ、と思えそうだ。今日はどんな出会いがあるんだろう、とワクワクしながら、一日の始まりのドアを開けられるようになる。
Profile
1988年 東京生まれ
2010年 武蔵野美術大学造形学部映像学科を卒業
2012年 東京総合写真専門学校研究科を卒業
大学在学時に小林のりお氏より、ストリートスナップを強く勧められたことをきっかけに、写真作家を目指すようになる。
「街が見逃した奇跡の現場」をテーマに活動。国内外で個展の開催、合同展・イベントの参加、ZINEの発行などしながら作品を発表し続ける。
都築響一氏が送るメルマガ「ROADSIDERS’ weekly」と、ウェブメディア「NeWORLD」で写真コラムを連載中。
2023年12月に初の写真集を発行予定。
● HP:http://okadakisara.com/ ● Instagram:@okadakisara
奥田 侑史氏オクダ ユウジ
Sundial
Statement
日時計をテーマにした作品。
現代を生きる人間はスマートフォンやPCから溢れ出る大量の情報を脳で処理しています。
一日の流れが早く感じたことがあるという人の周りでは、きっとこの作品のように日常が高速化しているのではないでしょうか。
雲のない快晴の日に、一箇所一箇所を徒歩で巡り、タイムラプス(インターバル撮影)で撮影。まるで行脚のようなプロセスで撮影されており、氾濫する情報と適切な距離感を個々人で見つけ、程よくお付き合いするきっかけになることを祈りながら製作した作品です。
Profile
東京都武蔵野市出身
2014年より映像制作を開始し、企画・監督・撮影・編集などマルチに活動。
ジョナサン・グレイザー、スパイク・ジョーンズ、クリス・カニンガムなどが監督したミュージックビデオに衝撃を受け、小津安二郎や市川崑などの“静”的カメラワークをミュージックビデオで表現したいと考えキャリアがスタート。
「人間の内面をどのように映像として表現するか?」ということを共通したテーマとしている。
● HP:https://linktr.ee/yujiokuda/
宮田 裕介氏ミヤタ ユウスケ
ほろほろほろびゆくわたくしの秋
Statement
日本人は自然と共生してきた民族だと言います。日本の芸術文化も自然の中にあるものを用い、自然の美しさや季節の変化が大切にされてきました。私にインスピレーションを与えてくれた俳人種田山頭火も日本の美しく厳しい自然の中を旅し、移り変わる季節に自分自身を重ね続けました。
─ ほろほろほろびゆくわたくしの秋 ─
彼が亡くなる約1年前に詠まれた句です。きっと自分の終末、冬を予感し詠まれたことが想像できます。私にはこの句に、あるお婆さんの姿が見えました。しわくちゃで、でもあったかくて、美しくて。冬は刻々と迫ってはいますが、それを恐れず落ち着き払って、私に笑顔を向けてくれます。私はそれを嬉しく感じるけれど、同時にどこか寂しくも感じています。いつまでもこの美しい秋の中にいたいのに。様々な季節や時代を経て、私たちの今日があります。今日は昨日の続きであり、過ぎ去ったものは形を変えつつも受け継がれ、決してその価値を失いません。これは過去を継承し、未来を創りたいと願う私の最初の試みです。
Profile
群馬県高崎市出身。10代で音楽制作に目覚め単身米国ニューヨークへ渡る。以後、音楽アーティストとして活動し海外を遍歴する中で写真表現に出会う。2019年に初個展。インドラダック地方の少女との長年に渡る交流をテーマにした作品を発表した。パンデミックの影響を受け帰国後、国内に留まる中、日本の伝統的な芸術文化に傾倒。2022年に俳句をテーマとした作品を発表した。展示では写真、音楽、映像など複数の表現方法を用いた独自の空間表現を行う。
● HP:https://www.yusukemiyata.com/ ● Instagram:@earthnotes
+++ 佳作 +++※五十音順
殷 鶯氏イン イン
オホーツクの風
Statement
「写真は真実を写す」と言われるが、写真が写したイメージは本当の世界でしょうか。客観的な真実よりも私が創造した世界を表現したいと考え、本作に取り組んだ。
あまり雪の降らない都市に生まれ、育ってきた。ずっと雪を見たいという憧れを抱きながら、2015年から冬の北海道への旅を続けた。
北海道の札幌から網走まで「オホーツクの風」という電車が走っている。私はこの線路を追って、雪と町の景色を撮影した。このシリーズのタイトルは電車の名前から由来している。
木版画を制作するとき、余白を先に決めてから色版を作る。現実では、雪が徐々に街を覆っていくが、私はカメラの前で見ていた景色の数時間後を想像しながら、木版画を作るように、余白を決めて、何もない雪景色の中で町並みを創造した。雪による余白でバーチャルとリアルの境界を曖昧にして、見えていた現実を想像の世界のように見せる。
Profile
中国上海生まれ。
多摩美術大学大学院美術研究科デザイン専攻 在学中
現実に基づきながら生活そのものという物理的存在を超え、超現実的な芸術的観念を生み出す作品を制作。また、常に傍観者の立場から旅の途中で都市の未知の側面を探求し、自己情緒の投影された風景を撮影することで自然と人間の共生関係を伝える。
[受賞歴]
2023 第58回神奈川県美術展 写真部門 美術奨学会記念賞
2023 Belfast Photo Festival shortlist
2021 Hasselblad Masters 2021 Finalist
2021 IMA next "MEMORIES" ショートリスト
2020 IMA next "LANDSCAPE" ショートリスト
[個展]
2015 「オホーツクの風」Loop by Fireblues、上海
[グループ展]
2023 第58回神奈川県美術展、神奈川県
2020 「A Poem and A Frozen Moment」、Modern Art Base、上海
2019 ART MARKET BUDAPEST、ブダペスト
2015 「5447グループ展」蘇珈美術館、無錫
● Instagram:@shuxiaomiao
岡田 裕介氏オカダ ユウスケ
マーチが聴こえる
Statement
まるで静かな物語の世界に入り込むように、大自然の中で一人、ペンギンたちと向き合いシャッターを押す。自然の中では、命が奪われ、命が繋がってゆく光景が日々目前で繰り広げられる。
可愛さだけでは向き合えない命の物語の片隅に、そっと身を潜める。僕はそんな彼らの世界を乱さぬよう、全ての生き物が尊く、美しい、ということを優しく切り取って見る人の心に届けたいと思うようになった。
ただそこに生きるペンギンたち。懸命に生きる健気な姿に感情移入してしまうのは、人の親であり、愛する人がいる僕の勝手な想像でしかないのだろう。しかしペンギンの世界から帰国して、都会で生活しているこの今も、目を閉じれば彼らの足音が聞こえる。思い出すと胸がふわっと温かくなる。
Profile
埼玉県生まれ。沖縄、ハワイへの移住を経て現在は三浦半島を拠点に活動中。水中でバハマやハワイのイルカ、トンガのザトウクジラ、フロリダのマナティなどの大型海洋ほ乳類、陸上で北極海のシロクマ、フォークランド諸島のペンギンなど海辺の生物をテーマに活動。2009年National Geographic での受賞を機に世界に向けて写真を発表し、受賞作のマナティの写真は世界各国の書籍や教育教材などの表紙を飾る。温泉に入るニホンザルの写真はアメリカ・スミソニアン自然博物館に展示。国内では銀座ソニーアクアリウムのメインビジュアルをはじめ企業の広告やカレンダーなどを撮影し、WEB、広告、雑誌などに作品を発表している。
● HP:www.yusukeokada.com ● X:@yusukeeokada
● Instagram:@yusukeeokada ● Facebook:facebook.com/yusukeeokada
鈴木 雄介氏スズキ ユウスケ
Back to the Nature
Statement
“波”という儚い一瞬に魅了され、海を撮り続けている。
海は止まることなく常に動き、状況も刻々と変わっていく。
うねり、風、潮、天候と海の変化を予測し、波と光を待つ。
水中撮影の方法は、一眼レフカメラにウォーターハウジング(防水カバー)を着け、足にはフィン(足ひれ)を履き、沖へと泳ぐ。
波との共鳴を捉えた瞬間は、大海原の波動を全身で感じながら切り取られている。
江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎が描いた『神奈川沖浪裏』。そこに描かれていた波は何千分の1秒という世界だったことが、現代のカメラのシャッタースピードがあるからこそ見えてくる。
約200年前、葛飾北斎は砕ける大波を見て、何を感じて描いたのだろうか。
文明がどんなに進んでも、わたしたちが自然から感じる気持ちは今も昔も変わらないだろう。
この地球(ほし)にずっと昔からある海、自然が造りだす“波”という造形美を撮る中で、過去、現代、未来を考察している。
Profile
神奈川県平塚市出身、海の近くで育ち、19歳で訪れたハワイの波に魅せられカメラを持つ。
東京ビジュアルアーツを卒業後、編集アシスタント、サーフィン専門誌のカメラマンを経て写真家として活動を始める。
ハワイを中心に世界のサーフィンスポットを訪れていたが、2011年の東日本大震災をきっかけに日本に目を向け、生まれ育った海の近くに小さなアトリエギャラリーをオープン。日々の海の姿を追いかけ、主に自身のギャラリーやカフェなどの企画展で作品を発表をしている。波越しに見る富士山、葛飾北斎の神奈川沖浪裏をオマージュした作品はテーマの一つとして追いかけ続けている。
2021年 東京カメラ部主催- 冨嶽三十六景フォトコンテスト- HOKUSAI 賞受賞
● HP:https://u-ske.jp/ ● Instagram:@u_skee
鷹巣 由佳氏タカス ユカ
尺度としてのあわい
Statement
2020年1月、ウラジオストクから帰路で中国と日本のハーフの子と出合い、コロナのニュースを耳にする。その数ヶ月後、その子はインドでアジア人差別に遭遇。2月、世界中に爆発的に感染者が増えヴェネツィア行きを断念。3月、早くから対策していた台湾でも約200人が乗れる飛行機に25人しか乗っておらず、あと何日か遅かったら帰国できなかった。交通網が一気に遮断され、隔離された生活に。そんな2021年秋、一時的に平穏を取り戻したパリに滞在し、見えない脅威にルポルタージュの手法で見えないものを可視化しようと試みた。パンデミック前は月に1回以上海外に行っていた私は、以前とは違う風景を目の当たりにし、改めて異常な事態にあることを実感した。その分、様々なものを一層新鮮に感じ、目に映るものだけでなく音や湿度や匂い、今ここにしかない空気を敏感に受け止め、写真に収めた。パリから電車で約1時間のランスでは、300年変わらない製法で栽培する葡萄のまわりに他の生物があえて植えられ、自然界で異常事態が発生すると先に変化が現れることを知る。人間はそれを発見し異常を察知できる。感覚の鋭敏さが時に生死を分かつことを教えてくれたのは、他でもない植物であった。
Profile
愛知県生まれ・在住。グラフィックデザイナー。2021年に創設されたKYOTOGRAPHIE×Ruinart「Ruinart Japan Award」初代受賞。2021年秋フランスに滞在し、ルイナールのアート・レジデンシー・プログラムに参加。デザイン事務所 211design-meme- 主宰。
撮ったあとの楽しみかた「写真にまつわるエトセトラ」・BLUE PAGES NOTE artbook project 講師・代表。ヨーロッパとアジアを中心にまわり、旅と日常の境界線や言葉にできない何かを様々な視点で表現を試み、紙を中心に布やアクリルなど様々な素材を用い、AI等の身近な先端技術と、偶然や確率考現学的観点から「予期せぬ予期」を探る作品制作をしている。
● HP:http://takasuyuka.211design.com/portfolio/
● Instagram:@takasu.yuka
長嶋 一憲氏ナガシマ カズノリ
Reverberations
Statement
10年ほど前からテーマとしているのが、自己と他者の認識の差です。
西から歩いてくる旅人と東から歩いてくる旅人が同じ道を歩いてきてすれ違ったとしても、彼らが見る風景は異なっているはずで、友人と同じカフェにいてもテーブルを挟んで座れば店の印象は異なったものになるかもしれません。
AとBにおける微かなコントラストというのは常に興味や誤解を生み出し、世の中を楽しくも複雑にさせているようですが、そういった要素を拾い上げて私は写真作品を制作しています。
"Reverberations"と名付けたこの作品には男女二人が登場し、時間の経過を追って編集しブックに仕上げたものですが、今回はその一部をご紹介します。
Profile
1995年よりマレーシアにて日本語教師として従事。
1997年より歌舞伎座舞台株式会社で大道具を製作。
2004年よりフォトグラファーとして活動。
IPA 2022, the 3rd place, Professional Book Other
IPA 2018, the 2nd place, Professional Special Other
IPA 2016, the 2nd place, Professional Fine Art Other
Graphis Photography Annual 2016, Gold
2018年 Sony Imaging Gallery にて作品展開催。
● Instagram:@kazunori_nagashima
山田 荘一朗氏ヤマダ ソウイチロウ
写楽美
Statement
私の写真は「そこにただある美しいもの」を切り取るものが多くを占めています。カメラ片手に街を歩く中で出くわす数多くの魅力的な瞬間を、写真は強烈な力でつなぎとめ永遠に保存することができると思っています。そうした写真を撮っていくうちに次第に私の中で大きくなっていく思いがありました。
それは1を作れるようになりたいという気持ちです。今回展示しているものの中でいくつか意図的に作成したものがあります。私が被写体に指示を出し、その上で相互的に作り上げたものです。そうした「作品」を作っていると、これまで以上に自分の中の創作意欲が刺激されているのを感じました。同時に作品とは「意思の現れ」であるとも感じました。
今回の展示では私のフィルターを通した見た世界と、私の中の世界のどちらもご覧いただければと思います。
Profile
私は普段俳優として活動しています。写真撮影は本当に「何も」なかった10代最後に暇つぶしとして始めました。自分の中で持て余しているどうしようもないエネルギーを形にすることが当時の私にとっての救いになっていたのかもしれないと、当時を振り返ると思います。
これまでは撮りためたものを自身のSNSに投稿していましたが、昨年初めて写真展に応募し、多くの方に褒めていただきました。その経験は私の転機の1つであることは間違いありません。
しかし現在の私は写真関連の技術や知識に関してズブの素人もいいところ。アイデアを実現する力を得るために、二足の草鞋を履きこなすために、日々励んでいます。
● X:@sou_ymd3a ● Instagram:@yamada.souichirou
山本 雅也氏ヤマモト マサヤ
光り響く建築
Statement
眺め続けられる写真。純粋な感覚のみによって。言葉の挿絵ではなく。音楽のように鳴り響く建築の幾何学的な美しさ、それが5分、10分、1時間、AIの届かない心の奥底の眼差しに像として現れたような写真。美の再発明を恐れず立ち返る。そして静止画を光らせ響かせてみる。
Profile
国立音楽大学楽理科卒
早稲田大学専門学校(現早稲田大学芸術学校)建築科卒
ART BOOK FAIR(ニューヨーク、ストックホルム)、NEW CITY ART FAIR(台北、札幌)展示
● X:@masaya_yamamoto