

キヤノン写真用紙・微粒面光沢 ラスター
- PRO-G1(顔料インク)
- PRO-S1(染料インク)
公開日:2025年3月31日
半光沢紙は光沢が控えめであるため表面のツヤは薄れてしまいますが、光沢紙より映り込みや反射などが軽減されます。プリントを手にしたときに付着する指紋が目立ちにくいといったメリットもあります。フォトコンテストの応募作品や写真展の展示作品でも目にする機会は多く、写真や見せ方などによって光沢紙と使い分けている人も少なくないようです。光沢紙と同じくラインアップしているメーカーも多く、家電量販店やホームセンターでも購入できるなど入手のしやすさも魅力です。なお、ファインアート紙のバライタ紙は半光沢の面質のものがほとんどですが、このレッスンでは写真用紙のレジンコート紙を中心に取り上げます。
ひとくちに半光沢といっても微光沢、微粒面(ラスター)、絹目調(サテン、シルク)などさまざまな面質があり、写真の見え方にも影響するため、豊富な種類の中からどの製品を選ぶのかはとても重要です。光沢紙同様、一般に色域が広めで鮮やかな発色が得られやすく、白色度が高めの用紙も多いです。ダイナミックレンジは広めで、明暗や濃淡の差が大きいなどコントラストが高めの写真にも対応しやすいです。でも光沢が控えめであるぶん、同じ写真でもコントラストや彩度は光沢紙より少しだけ落ち着いて見える傾向です。
光沢紙はツヤがあり、平滑性が高いため染料インクが有利です。基礎知識編のLesson 1「染料インクと顔料インク」でも解説していますが、染料インクは紙の中に浸透するのに対し、顔料インクは紙の表面に定着するため、用紙が持つ光沢に影響します。インクの段差により平滑性が低下し、プリントを照らす光が乱反射して光沢感が弱まるのです。これを改善するために、PRO-G1やG2には「クロマオプティマイザー」と呼ばれる透明のインクが搭載されていますが、用紙本来の光沢ではなくなります。半光沢紙でもインクが浸透する染料プリンターのPRO-S1(Mark II)のほうが有利と言えそうですが、どれくらい違いがあるのか比較してみました。
キヤノン写真用紙・微粒面光沢 ラスター
キヤノン写真用紙・微粒面光沢 ラスター
色や階調の再現性に少し違いが見られますが、光沢感はあまり差がないようです。半光沢紙はそもそも平滑ではないため、顔料インクを搭載したPRO-G1との組み合わせでも光沢紙ほどの影響はありません。少し落ち着いた感じに仕上がるのは染料インクを搭載したPRO-S1も同じで、どちらも目に優しく上品な仕上がりです。
ただし、プリントを斜め方向から観察するとわずかに違いが見られます。染料インクのPRO-S1は印刷された画像と余白(フチ)の光沢感が全く同じであるのに対し、顔料インクのPRO-G1は透明インクの「クロマオプティマイザー」が乗った画像と乗らない余白の境界が段差のようになっています。また、空や街灯など白飛びしたハイライト部分で光沢ムラが確認できます。インクが紙の中に浸透する染料インクのPRO-S1ではそのような現象は見られず、どの角度から鑑賞しても光沢ムラのない滑らかな仕上がりです。
フォトコンテストへの応募、ブック式のポートフォリオはプリントをスリーブやリフィルに入れるためあまり問題にはならないと思います。ところが写真展の展示作品、ケース式のポートフォリオなどは、プリントを直接さまざまな角度から見られることもあるため、写真の絵柄や鑑賞条件などによっては前述の現象が気になる場合があるかもしれません。
写真やプリントの見せ方に最適な面質であることが半光沢紙を選ぶときのポイントになります。色や階調の再現性なども用紙によって異なり、紙色も写真の見え方に影響するため、複数の候補を試し比べてみることが大切です。カラーマネジメントシステムがきちんと働く環境を整えているユーザーは、ICCプロファイルが用意されている製品の中から選ぶと良いでしょう。その条件を満たす半光沢紙をいくつかピックアップしてみました。カラーマネジメントシステムやICCプロファイルについては、初級編のLesson 9「カラーマネジメントシステム」を参考にしてください。
このレッスンで取り上げる半光沢紙
メーカー | キヤノン | キヤノン | イル フォード |
イル フォード |
イル フォード |
キャン ソン・ インフィ ニティ |
キャン ソン・ インフィ ニティ |
三菱王子紙販売 | 三菱王子紙販売 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
製品名 | キヤノン 写真用紙・ 微粒面 光沢 ラスター |
キヤノン 写真用紙・ 絹目調 |
スムース パール |
サテン フォト |
ラスター シルク |
フォト サテン・ プレミアム・ RC |
フォト ラスター・ プレミアム・ RC |
ピクトリコ プロ・ セミグロス ペーパー |
ピクトリコ プロ・ スムーズ フォト ペーパー |
面質 | 微粒面 | 絹目調 | 微粒面 | 微粒面 | 絹目調 | 絹目調 | 微粒面 | 半光沢 | 平滑面 微光沢 |
ベース | レジン コート紙 |
レジン コート紙 |
レジン コート紙 |
レジン コート紙 |
レジン コート紙 |
レジン コート紙 |
レジン コート紙 |
レジン コート紙 |
レジン コート紙 |
紙厚 | 0.260mm | 0.260mm | 0.310mm | 0.265mm | 0.265mm | 0.261mm | 0.299mm | 0.295mm | 0.300mm |
坪量 | 260g/㎡ | 260g/㎡ | 310g/㎡ | 260g/㎡ | 290g/㎡ | 270g/㎡ | 310g/㎡ | 285g/㎡ | 295g/㎡ |
白色度 | 92% | 91% | ー | ー | ー | 96.70% | 97.70% | 100% | 101% |
明度 | ー | ー | 96.8 | 95.8 | 95.5 | ー | ー | ー | ー |
※白色度はメーカーにより測定条件や基準が異なります。
キヤノン写真用紙・微粒面光沢 ラスター
使用プリンター:PRO-S1
キヤノン写真用紙・絹目調
使用プリンター:PRO-S1
イルフォード スムースパール
使用プリンター:PRO-S1
イルフォード サテンフォト
使用プリンター:PRO-S1
イルフォード ラスターシルク
使用プリンター:PRO-S1
キャンソン・インフィニティ フォトサテン・プレミアム・RC
使用プリンター:PRO-S1
キャンソン・インフィニティ フォトラスター・プレミアム・RC
使用プリンター:PRO-S1
三菱王子紙販売 ピクトリコプロ・セミグロスペーパー
使用プリンター:PRO-S1
三菱王子紙販売 ピクトリコプロ・スムーズフォトペーパー
使用プリンター:PRO-S1
キヤノン写真用紙・微粒面光沢 ラスター
使用プリンター:PRO-S1
キヤノン写真用紙・絹目調
使用プリンター:PRO-S1
イルフォード スムースパール
使用プリンター:PRO-S1
イルフォード サテンフォト
使用プリンター:PRO-S1
イルフォード ラスターシルク
使用プリンター:PRO-S1
キャンソン・インフィニティ フォトサテン・プレミアム・RC
使用プリンター:PRO-S1
キャンソン・インフィニティ フォトラスター・プレミアム・RC
使用プリンター:PRO-S1
三菱王子紙販売 ピクトリコプロ・セミグロスペーパー
使用プリンター:PRO-S1
三菱王子紙販売 ピクトリコプロ・スムーズフォトペーパー
使用プリンター:PRO-S1
どの用紙も色や階調の再現性は良好ですが、白色度などが異なり、写真の色合いや透明感も微妙に違って見えます。余白の紙色と合わせて、発色の違いなどを比較してみましょう。ハイライトの抜けや黒の締まり具合、中間調からシャドウにかけての階調再現などそれぞれの特徴が現れています。草の緑、空のグレー、手前の陰った部分の明るさなどに目を向けると違いが分かりやすいと思います。
「キヤノン写真用紙・微粒面光沢 ラスター」は光の反射で表面が少し輝いて見えるのに対し、「キヤノン写真用紙・絹目調」はそこまで光沢は強くなく控えめな感じです。前者は色や階調に深みがあり、紙色の影響で透明感もあります。後者はそれよりも少し鮮やかな発色で、コントラストはやや低めの傾向です。両者の紙厚と坪量は同じで、手に取ったときの印象もほとんど変わらないようです。
「キヤノン写真用紙・微粒面光沢 ラスター」と同じ微粒面の用紙の中では、「イルフォード スムースパール」が最も面質がきめ細かく光沢は控えめです。反対に「三菱王子紙販売 ピクトリコプロ・セミグロスペーパー」が最も粗い感じに見えるのですが、光の反射による輝きは「キヤノン写真用紙・微粒面光沢 ラスター」や「キャンソン・インフィニティ フォトラスター・プレミアム・RC」のほうが強めのようです。いずれも紙色のほか、色や階調の再現性も異なるため、印刷する写真やプリントの見せ方などによって最適な用紙が違ってくるでしょう。
「イルフォード ラスターシルク」はほかの半光沢紙とはひと味違った個性的な微粒面が特徴で、プリント作品の複製を防止する効果があるそうです。「三菱王子紙販売 ピクトリコプロ・スムーズフォトペーパー」は滑らかで落ち着いた面質で、写真展などで反射をできるだけ抑えて見せたいときに最適です。「キヤノン写真用紙・絹目調」と同じ絹目調の「キャンソン・インフィニティ フォトサテン・プレミアム・RC」はきめ細かい面質で、光沢も控えめであるため写真を選ばず、幅広い用途で活用できるでしょう。
フォトコンテストの応募作品には、「キヤノン写真用紙・絹目調」「イルフォード サテンフォト」「三菱王子紙販売 ピクトリコプロ・セミグロスペーパー」あたりが光沢も強すぎず、手ごろで使いやすいと思います。ほかの用紙より紙厚や坪量は控えめですが、この中では「三菱王子紙販売 ピクトリコプロ・セミグロスペーパー」はコシがあり、手にしたときも頼りない感じはしません。
PRO-G1やPRO-S1に対応する他社製用紙のICCプロファイルをキヤノンでも用意しています。中級編のLesson 14「プリント用紙の選び方」で紹介しているので参考にしてください。ただし全ての用紙ではなく、インクとのマッチングなどを考慮して選んだものだけになります。それ以外については各用紙のメーカーサイトで入手できます。海外の用紙メーカーの場合は本国のサイトにアクセスする必要がありますが、日本のサイトでICCプロファイルのダウンロードやインストールの方法などを解説しているので安心です。
イルフォード | https://www.ilford.co.jp/digitalfineart/support_category/support-01-1/ |
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キャンソン・インフィニティ | https://www.canson-infinity.com/jp/icc-profiles |
三菱王子紙販売 | https://www.pictorico.co.jp/system/contents/1065/ |
また、用紙情報ファイルが用意されている製品もあります。ICCプロファイルと一緒にダウンロードし、Media Configuration Toolを使ってプリンターに登録すると印刷設定のときに便利です。登録方法など詳しくは、中級編のLesson 15「Media Configuration Toolで用紙情報を管理」を参照してください。