Professional is 1 中西 祐介
公開日:2024年8月30日
私がEOS R1を選ぶ理由
フォトグラファー 中西 祐介
EOS R1は「失敗しない」
安心感がある仕事道具。
今回使ってみて、仕事道具のカメラとしてかなり優秀だと思いましたね。仕事道具で何が重要かというと、「確実に動いて、目的のものを最短距離で撮れる」ということなんですよね。もちろん、この機能が面白いね、とか画期的だねというのも必要ではあるんですが、僕らが仕事でいちばん大事なのは「失敗しないこと」なんです。「失敗しないこと」とは、必要とされる写真を高いクオリティーで確実に残すこと。それを実現するためには、安心して撮れる要素がたくさん詰まったEOS R1だなと思いました。
トラッキングAFに
すべて任せられる。
クロスAFのおかげでフレーミングの
自由度も上がった。
EOS R1ならトラッキングAFだけでいけるなって思います。これまでは、ここはトラッキングAF、ここは任意選択AF、といった感じで使い分けてたんですよ。なぜかというと、これまでのトラッキングAFが完全に任せられるレベルじゃなかったからです。被写体が少しでも自分の考えと違う動きをするとトラッキングAFでは厳しいシーンもあるんです。いちばんベストな瞬間はこの1秒だったのに!とか。チャンスは何度もきませんからね。確実に自分が合わせたい瞬間を捉えるために使い分けが必要だったんですけど、EOS R1はほぼ100%トラッキングAFでいけると感じました。精度がめちゃめちゃ上がっていましたから。任意選択AFは、撮りながら動いている被写体を追って、AFフレームを動かすってすごく大変な作業。でもトラッキングAFの場合はその必要がないので、ファインダーを見てフレーミングに集中できる。かなり自由になったと思います。
クロスAFのおかげだと思うんですが、画面の端でもどこでも、かなりいい精度でピントが合う。手前に障害物があったり、撮りたい被写体が遠くにいっちゃっても、トラッキングAFしながらちゃんとピントが合っている。端っこのフォーカスが弱いと、無意識に真ん中のフォーカスする力が強い所にピントを持ってきちゃいそうになるけれど、クロスAFになって端でもどこでもピントが合うとなると、やはり自由度は広がりますよね。被写体をそこに置くしかないっていうことがなくなった。もうどういう条件でもいけるよっていう感じがあったのはすごく大きいです。
カメラが
人間の先に行っている。
被写体が速く動くスポーツ写真では、この瞬間の写真でなければならない、というのがあるんです。だから、タイミングとフォーカスの両方を高い確率で合わせられないといけない。でも選手の動きの軌道がどうなるかなんて僕もわからないんです。0.1秒後にはもう違う場所に移動する。動きを読んでシャッターを切っても遅くて、そのちょっと前の瞬間でも次の瞬間でもダメなんです。本当に一瞬なので、こういうふうに撮れているなんて確信はないし、実際は撮っている最中は見えていないこともあるんです。もちろん、予想しながらカメラを振ったり修正はします。でもカメラは人間の目を超えて、見えていない瞬間でさえも捉えてくれる。しかもしっかりとピントも合っている。今まで撮れなかった瞬間が撮れるようになったと思います。
被写体検知の精度がかなり
向上したことで、カメラに
任せられるシーンが増えた。
たとえば水泳だったら、みんなゴーグルするじゃないですか。ゴーグルが光ったり反射したり、いろいろな角度になるんですよね。さらに水しぶき。水しぶきがどうなるかなんてわからないですし、ピントを持っていかれちゃうことはよくありました。でもEOS R1はそういった中でもちゃんと顔にピントを合わせ続けてくれる。手前にロープがあっても、全然問題なかったですね。
あとは馬術だと、フレームの中に馬と人の両方がいるわけじゃないですか。本当は馬に合わせたかったけど、人にピントが合っちゃったというのもよくあるシチュエーション。動物優先と人物優先を切り替えるのは以前からもありましたけど、正直、動物優先「馬」にしているのに人物にピントがいっちゃったというのはやっぱりあった。角度にもよるんだと思いますけど。でもEOS R1はそんな感じがなくて、検知の精度がより高くなったと思います。設定を「馬」にしたらちゃんと馬にピントがいくし、「人物」にしたら馬の後ろにいる人物でもちゃんと追い続ける。アクション優先や登録人物優先はこれからもっと試していきたいですね。
今回の写真の中にはないですけれど、バスケットボールでアクション優先は使ってみました。こんなにピントが合うんだ、というくらいピントが合いましたね。かなり有効だと思います。これまではEOS R3を使っていたのですが、選手が交錯したりとか、選手が並んだりとかするとフォーカスがメインの被写体から別の被写体に持っていかれるときがあったんですよね。なので、100%任意選択AFで撮っていました。でもEOS R1のアクション優先はそれがなくて。今後はアクション優先とトラッキングAFでいこうと思っています。
ここまでローリングシャッター歪みが抑えられていれば、まったく問題ない。
野球の撮影で思ったのは、ローリングシャッター歪みがかなり改善されていることですね。ほぼ問題ないというか、全然問題ない。このバッティングの写真とかフルスイングしているんですけど、ボールも歪んでいないし、バットも歪んでいない。ローリングシャッター歪みが厳しいと、このバットがぐにゃっとする感じになるので、すごいきれいに撮れていますよね。グローバルシャッターを求める声はあるようですが、それで画質が犠牲になるんだったら全然こっちの方がいい。いくら歪みが抑えられても、画質がキツいものは正直使えないので。
連写速度は電子シャッターで最高約40コマ/秒でしたね。すごく良かったのは、コマ速が細かく調整できること。40コマじゃ多いときは30コマとか20コマにできる。これがすごく便利ですね。一見すると「多いほうがいいんじゃないか」ってなるけど、僕らにとってはそういう細かい機能がめちゃくちゃ大事だったりするんです。ボールを打つ競技にはコマ速を上げて、そんなに要らないかなっていうときは細かく落として。競技ごとに変えられるのがいいですよね。
連写中、ブラックアウトフリー撮影もすごく快適でした。前述しましたが、スポーツ写真は0.1秒でもズレると世界が変わってしまう。より正確にタイミングを図らなきゃいけない。それがブラックアウトしちゃうと、ほんのちょっとのロスが生まれちゃいますよね。予測しながらやっているわけですけど、初めて撮影する選手だと難しい。なおかつ一発勝負なので、ブラックアウトフリーでずっと見ながら撮れるとすごくラクでしたね。あとはプリ連続撮影とかもいい機能だと思います。一瞬の自分の遅れをリカバリーしてくれます。
EOS R1はシャッタータイムラグや操作面でもタイムロスがないカメラだなと思うんですけど、それでも自分のミスでシャッタータイミングを誤ることもあるし、どんなに熟練した人でも人間だからいつでも完璧に捉えるのって難しい。枚数は増えますけれど、撮れていないっていうのがいちばんダメなので僕は今回、かなり使って撮影しましたね。
カメラは
画素数じゃない、
数字よりもバランス。
画素数が多い方がいいって言う意見も多いじゃないですか。でも僕は数字(画素数)だけだとわからない部分が多いと思ってるんですよ。EOS R1はEOS R3と同じ最大約2420万画素ですが、かなり解像感が上がって立体的に見えるようになったというか、質感もすごく良かったんですよ。EOS R1はもっと立体的で、浮き上がって見える上に、凝縮している。大きく伸ばしてもイケるって思えるんですよ。
カメラ内アップスケーリングもやってみましたけど、これすごいですね。まずカメラ内でできるようになったという点。急いでデータを渡さなきゃいけないときに、もう少し画素数が欲しいなというときとか、カメラ内で出せるというのはすごくラク。新しい可能性ですよね。しかもEOS R1のカメラ内アップスケーリングって、EOS R1のセンサーに特化してるんですよね?ソフトウエアのアップスケーリングはどの画像に対しても平均的なアップスケーリングがされるけど、EOS R1のカメラ内アップスケーリングは違うとのことで、かなり期待できるなと思いました。もう画素競争する必要がなくなったんじゃないかな。高感度も今回、ISO16000くらいまで使ってみました。普段使う中でも一番高い感度なんですが、かなり良かった。
ホワイトバランスの精度も上がった印象を持ちました。全部ホワイトバランス「オート」で撮ったんですが、色のブレが少ないですね。たとえば水泳だと青に引っ張られることがよくあるんですが、そういうことがなかった。違う色が組み合わさったとき、どっちかに色が引っ張られるとおかしくなっちゃうので。これまで室内競技やナイターでは、ホワイトバランスをマニュアルで撮っていたんですが、このカメラなら「オート」でもいけるかもしれないと思いました。
EOS R1はどこをとってもそつなくできていると言うんですかね。ひとつの機能だけが飛び抜けてるカメラもいいけれど、それだけでは評価できない。やっぱり、画素だけの問題じゃないんだろうって思える画を作り出したり、解像感の良さを感じたりするのは全体のバランスの良さなんだなって思います。
ファインダーはフォトグラファーの生命線。
今、EOS R3をメインで使っているのですが、いちばん違うなと感じたのはファインダーですね。もう全然違う。僕はほぼ100%、ファインダーで撮影するので、その性能が高いといろんなことが全部ラクになるんです。EOS R3もファインダー内画像の遅延が少なくて良かったんですが、EOS R1はそこからさらに「視界が広がった」感じがしましたね。ファインダーを使う理由は最短でシャッターを切る判断ができるからなんですけど、EOS R1のファインダーは視界が開けていて明るいから細かく周囲まで見られる。状況判断がしやすいんですよね。被写体だけじゃなくて、背景のこの辺に何が写っているかとか全部に集中しながら見るんですけれど、それがすごく見やすい。さらにファインダーの中でフレームもピントも全部判断するので、僕にとってファインダーの見やすさというのは生命線なんです。
だからファインダーが良くないと、他の機能も活かせなくなってしまう。それくらい大事です。遅延もなく、見やすさも光学ファインダーとほぼ遜色がない。さらにEVFは設定している露出のまま見えるじゃないですか。これはすごくラクです。光学ファインダーにはないメリットですよね。
細かな改良が
「わかってるな」と
思わせる。
グリップが良くなっていますね。指のかかり具合が、EOS R3よりも数段良くなっている。指をかける部分に力を入れて支えるので、それはとても感じる部分。あとは握りやすい。縦位置にしたときも。細かい改良が相当されているなと思います。
僕にとって大きかったのは、視度補正のロック。ファインダーで撮影していると、視度補正ダイヤルがいつの間にか回っちゃってることがあるんですよね。細かいところですけど、視度補正だけじゃなくていろんなところにロックがついたのは「わかってくれてますね」という感じでした。ボタン配置もそう。変わらなくていいところはそのままに、少しの改良が操作性をさらに良くしている印象です。
僕にとって“1”は、それ以外にない存在。
最初はやっぱり憧れの存在でしたね。ドキュメンタリー番組だったと思うのですが、出演しているカメラマンがキヤノンを使っていて。確か、EOS-1だったと思います。格好良くて、もうキヤノンでしょ!って思って(笑)。こういう憧れから入って、実際に自分が使うようになってみると安心感がありましたね。もう他に変えられないなって思うようになりました。明らかに違うんです。画質とか画素とかじゃなくて、トータルで考えて“1”以外を使う理由がなかった。スポーツの世界に初めてきたときも、他に選択肢はなかったですね。スポーツに対応できるカメラは“1”しかなかった。でもそれは、今も変わらないです。いろんな優れたカメラはありますけど、“1”がいい。僕らは「撮れませんでした」では許されない、撮れて当たり前の世界。安全と安心のために“1”を選んでいます。フラッグシップに求められることって、それに尽きると思うんですよね。たとえばEOS R3とEOS R1と写真だけ見て区別がつくかというと難しいと思いますが、その過程がとても大事なんです。確実に、当たり前のようにいいものが撮れるというのが重要。撮れませんでしたと言った瞬間に次の仕事はなくなりますから。そのためには、安心して任せられるカメラで、高い確率で結果を出し続けられるものは“1”だけなんです。それ以外はない、という存在ですね。
中西祐介
1979年東京生まれ
東京工芸大学芸術学部写真学科卒業
講談社写真部、フォトエージェンシーである
アフロスポーツを経てフリーランスフォトグラファーとして独立。
スポーツ、アスリートのポートレート撮影を
得意分野とする。
これまでにオリンピックは4大会、
パラリンピックは2大会を取材。
その他の国際大会の取材経験も多い。
現在はプロバスケットボールクラブや
プロ卓球チームの
オフィシャル撮影を担当。
ライフワークとして馬と人の
ポートレートを撮影中。