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石橋 睦美「神々の杜」

幼少のころから湿気に培われた日本独特の自然に興味を抱き、写真家となり十数年にわたって東北地方の中心に広がるブナ林を写真に収めてきた石橋睦美氏。
近年は、森林そのものから、森を背景に形成されていった日本独自の歴史文化に惹かれるようになり、自然を畏敬し、神として祀った神域の撮影を続けている。本展では、古来、人々から崇拝されてきた神宿る場所と、その特別な空間が有する荘重な雰囲気を巧みにとらえた作品56点を展示。

会期 会場
2008年1月7日~2008年2月12日 キヤノンギャラリー S

作品・展示風景

作家メッセージ

ブナ林の北限から南限までの旅を終えたのが1995年であった。後、全国の森林へ興味は広がってゆく。その途上で、森を背景に成り立つ日本文化の違いに気付いたのである。北陸や東北地方のブナ・ナラが優占する落葉広葉樹林を歩くと、森と共生する里の暮らしぶりに縄文の記憶が潜む素朴な生活風俗が溶け込んでいるのを感じる。いっぽう西南日本の照葉樹林域では稲作の繁栄が早かったことで、作物を生産するに欠かせない計画性を重んじる様式が継承されていたのである。また琉球列島の島々には祈りの場としての御嶽(うたき)があって、海洋民族が抱く理想郷ニライカナイへの郷愁がうかがい知れるのであった。
2003年、写真集『森林日本』を上梓して、日本の森林の撮影に私なりの決着をつけた。次なるテーマは、神を祀る場を訪ね歩くことであった。

主に風土記や記紀神話に記された神の地を巡ってゆくと、陽光の輝きや清涼な水の流れや木霊する木や苔むす岩など、原生の自然の中に存在する万物に、私たちの祖先は神の依代(よりしろ)を見出してきたことを知る。それを核として神殿が築かれ、神域が整えられていったと思えてくるのであった。
2000年以上も昔、九州北部に稲を生活の基本におく農耕集団が渡来する。それが弥生文化の礎となる。やがて弥生の組織は、日本列島全域に広がっていた縄文の暮らしを融合させて大和朝廷誕生へと導き、日本の原風景が形づくられてゆく。神社には、神話から続く歴史と伝統に基づいた風景が脈々と受け継がれている。その風を肌に受けつつ神々の杜を訪ねると、神が鎮座する無限空間から日本文化の香りがほんのり匂い立ってくるのである。

作家プロフィール

石橋 睦美(いしばし むつみ)

1947年千葉県佐倉市生まれ。10代後半から日本の自然を知る目的を持ち、各地を歩く。
1975年頃から東北地方のゆったりした地形の広がりと、自然の豊かさに魅せられて東北地方の自然にテーマをしぼり撮影をはじめる。以後、湿気に培われた日本独特の色彩が描く自然美を表現することをライフワークとする。
1989年頃からブナ林をテーマとして、北限から南限までのブナ林を取材。その仕事を終えて、自然林を背景にして成り立ってきた歴史文化を見いだす目的で全国の森を巡り、2003年、日本の森林の撮影を終える。次の仕事として、豊かなる自然に神を思い描いてきた、日本人の原風景を探る目的で神域を巡る旅をはじめる。

著書

『鳥海・月山』(山と溪谷社 1992年)、『ブナ林からの贈りもの』(世界文化社 1993年)、『ブナをめぐる』(白水社 1995年)、『森林美 ~FORESTS of JAPAN~』(平凡社 1997年)、『日本の森』(新潮社 2000年)、『熊野 ~神々の大地~』(新潮社 2002年)『森林日本』(平凡社 2003年)、『神々の杜』(平凡社 2007年)など多数。

写真展

写真集出版に合わせ、その都度開催する。

富士フォトサロン東京・ペンタックスフォーラム・キヤノンギャラリー銀座ほか。

著作権について

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