POINT
- プログラムのチラシやしおりは、子どもたちが手に取って見られるよう紙に印刷。
- 文字よりも写真や図を多く使い、活動内容を直感的に伝える工夫。
- 活動中の写真を壁に掲示し、「次は参加したい」という興味につなげる。
海や山、生き物に触れ、自分自身の身体で自然を感じること。認定NPO法人「オーシャンファミリー」の代表・堀龍太さんは、そんな体験を子どもたちに届け続けています。人間も自然の一部であることを伝えたい。その想いのもと、子どもたちと向き合う日々について伺いました。
僕たちは、自然の一部でしかない
ーーお仕事について教えていただけますか?
NPO法人オーシャンファミリーで代表を務めています。主な事業は、子どもを対象にした自然体験教室とスクールの運営、そして葉山に遊びに来た人に海の情報・道具を提供するビジターセンターの運営となります。体験教室やスクールでは、子どもたちが自然と接するプログラムを複数提供しています。
ーー自然への関心はいつからお持ちだったのですか?
20代はアメリカンフットボールの選手として、日本人初のNFLプレーヤーをめざしていました。限界まで身体を鍛える日々の中で気づいたのが、「自分の身体にも自然の力が宿っている」ということでした。自分の意思とは関係なく身体が自発的に回復し、食べたものはそのまま自分の身体を作っていく。その力の大きさを強く感じまして、引退後は子どもたちに向けた食に関わる仕事をやっていこうと決めたんです。
自分にできることを探る中で出会ったのが、オーシャンファミリーの前代表でした。オーシャンファミリーが海を守る次世代の育成に長年取り組んでいること、海だけでなく、海につながる山や川、さらには農薬や肥料、食の課題にも取り組んでいること。そんな話に感銘を受け、自分のめざす道と重なりました。そこから10年以上メンバーとして活動し、2023年に代表を引き継ぎました。
ーー葉山との出会いは?
オーシャンファミリーに入る1年ほど前、自然豊かなエリアで子どもたちを育てたいと東京から移ってきました。海のない岐阜県出身ということもあり、海を深く知ったのは葉山に来てからです。ヨット、カヤック、SUP……海で過ごす時間がとても楽しかったし、何より子どもたちのイキイキとした姿がうれしかったです。そうそう、オーシャンファミリーに来る子どもたちも海を見るとパーっと駆け出すんですよね。自分にとって走ることは、速くなるため、勝負に勝つために仕方なくやるものでしたから「楽しくて思わず走っちゃう」というのは、なんて素敵なことだろうって、今も感動します。
教科書や知識の向こう側にあるものを体験してほしい
ーーオーシャンファミリーで子どもたちにどんな時間を過ごしてほしいですか?
子どもたちには、生命のリアルを自分の目や身体で感じてほしいです。動画や知識だけではなく、実際に自然に触れることで、「人間も自然の一部なんだ」と感じてもらえたらうれしい。たとえば水中眼鏡をつけて海を覗けば、そこにはカニやナマコ、うつぼがいて、海の生き物の世界が広がっています。水の冷たさ、差し込む光を感じながら体感する海の世界から、動画や水族館では得られないものを大切にしたいと常々思っています。
ーー自然を体感すると物事への見方・考え方変わってきそうです。
そうなんです。地域の田畑を荒らすイノシシを僕たちスタッフが罠猟で捕獲しているんですが、そのイノシシを食べる体験プログラムもあります。イノシシを解体する映像を見せた後で、その肉を食べるんです。最初は「かわいそう」という声が上がります。それが肉を焼いていい匂いがしてくるとみんな集まり出して、いざ食べると美味しくて「おかわり!」となるんですよ。それが、人間なんですよね。学校で海洋プラスチック問題を習って動物たちへの影響を知ると「かわいそう」「動物に優しくしよう」となりますが、実は「かわいそう」と「おいしい」どちらも自分の中にあること。人間は他の動物の生命をいただいて生きている。綺麗ごとでは済まない僕たちの矛盾や生命のリアル、教科書や知識の向こう側にあるものを体験してほしいんです。何を感じるかはそれぞれですが、必ず感じるものがあるはずですから。
ーーどんな時にやりがいを感じますか?
一番の活力は、子どもたちの成長を見守らせてもらえることですね。スクールのクラスは未就学児から高校生までありますから、長い子だと付き合いは10年以上になります。幼児だった子が自分とも変わらない背丈になり、発言も行動もしっかりしていく姿をずっとそばで見続けられることが幸せです。昨年は、中学3年生を対象に3,000m級の北アルプスを5日間かけて歩くプログラムを開催したのですが、僕らの心配をよそに、彼らは大きな荷物を背に数十キロもの道のりをしっかりと歩き通しました。その逞しい姿に小さかった頃の姿が重なって、本当にうれしかったですね。
子どもたちに直感的に伝わるように
ーー壁には子どもたちの写真がたくさん貼られていますね。
保護者への活動報告用に写真をたくさん撮りますので、そこからピックアップしてプリントしています。子どもって自分の姿を見るのが好きなんですよね。「あっ、俺だ!」なんて(笑)。参加しなかったプログラムの写真を見て「今度はこれに行きたい」と興味を持ってくれることもあります。
写真以外には、各プログラムの告知用・配布用のチラシや、説明会で渡す資料や参加者用のしおりなども自作です。だいたいは手元で見るのでA4サイズですが、説明会で掲示して使う資料などは離れていても見やすいようA3サイズにプリントすることもありますね。
ーーデジタル画面等ではなく紙に出力するのですね。
子どもたちって、紙の方がリアクションが良いんです。画面を見せるよりも内容への関心が強くなる印象がありますね。実際に手に取れたり、見たり触れたりできる“手触り感”が大事なのかもしれないですね。
ーー子どもたちに伝えるために工夫していることはありますか?
文字で説明するよりも、子どもたちになるべく直感的に伝わるよう、写真や図などビジュアルを多く掲載するようにしています。特に写真はたくさん素材がありますので、その中から子どもたちの興味を引きそうなものを選ぶようにしています。
人と、自然と、社会をつないでいきたい
ーーこの先どんな未来を思い描いていますか?
AIやテクノロジーがさらに発展していくこれからは、人間と自然の距離がどんどん離れていくと思います。だからこそ自然を身体で知っている人、自然と密に関わった経験を持つ人の存在が、これからますます大切になると思っています。オーシャンファミリーに来る子どもたちは、環境活動に興味がある子もいれば、アート系に進む子もいたり、関心の対象は幅広いです。それぞれの興味を持って進んでいくさまざまな場所で、ここでの経験を糧にしながらしっかりと生きていってくれること。それが、そのまま社会のためになるんじゃないかと思っています。
ーー海や山での経験が、社会へと広がっていくわけですね。
数年前にオーシャンファミリーのミッションも「人と自然をつなぐ」から、「人と自然と社会をつなぐ」にアップデートしました。海洋プラスチック問題を考えるワークショップを開催した時に、協力メーカーのご担当者に、うちのメンバーが自分の名刺を差し出しながら名刺交換をお願いする姿を見たんです。彼は高校で環境クラブを立ち上げて活動しているのでつながりを作るためだと思いますが、少し前までは子どもだったのに今は名刺を自分で作って社会にアプローチするステージにいるのだと。まさに自分たちのミッションが実現できているんだと、手応えを感じられてうれしかったですね。思わず「俺にも名刺ちょうだいよ」っ言っちゃいました(笑)。
ーーこれからの目標はありますか?
15年近く活動してきて、「人間も自然の一部である」との思いは深まるばかりです。だからこそ、頭ではなく身体で自然を感じる体験を提供していくことが、自分の一生の仕事。ビジターセンターもでき、以前よりも多くの人と触れ合う機会が広がり始めています。人と自然の距離が少しでも近づくように、これからも自分たちなりのやり方で続けていきたいと思っています。