「これひとつ。それでいい。」一台で完結する「PowerShot V1」の身軽さは、撮ることの本質と撮影の可能性をどこまでも広げてくれる。そして、洗練された性能とデザインは、映像クリエイターにどのような感性をもたらすのだろうか。
独自の色彩感覚で光を切り取る映像を生み出す映像監督の林さんに、PowerShot V1を使ってもらった。
公開日:2025年4月30日
「これひとつ。それでいい。」一台で完結する「PowerShot V1」の身軽さは、撮ることの本質と撮影の可能性をどこまでも広げてくれる。そして、洗練された性能とデザインは、映像クリエイターにどのような感性をもたらすのだろうか。
独自の色彩感覚で光を切り取る映像を生み出す映像監督の林さんに、PowerShot V1を使ってもらった。
ブータンには以前から行ってみたかったんです。今年6月に個展を開催するのですが、そこで披露する新作の撮影を兼ねて妻とふたりで行きました。
個展用の撮影にはEOS R5 Mark IIを使いましたが、せっかくなのでPowerShot V1も持って行くことで、どのようなものが撮れるのか試してみました。
PowerShot V1で撮り始めた感覚は、EOS R5 Mark IIなどのミラーレス一眼で撮る時のように何かを撮りたいと明確に思うというよりも、ホームビデオの感覚で「朝の光が気持ち良いな」とか「雲があるなあ」などと、目の前の出来事を自然体で記録する感じでした。
PowerShot V1のコンパクトなサイズもあって、カジュアルに撮るという感覚でしたね。普段の感じをそのままに撮れるカメラだなって、すぐそばにいる妻を撮っていて思いました。
とても素朴。それが素敵だと思いました。
もちろん近代化もされていて、みんなスマホを持っていたりもしますが、ブータンに暮らす人たちも動物たちも自然体なんです。ブータンでは、チベット仏教が生活に根付いていて無用な殺生を避けているからなのか、人間と牛などの動物たちとの距離が近いんですよ。放牧中の牛と人が、普通に橋を渡っていました。
子どもたちがキラキラしていて、カメラを向けると「わぁ〜!」って、かなりフレンドリーな感じがあって、すごく印象的でした。ブータンで撮ってきた映像や写真からも、そうした優しさ、温かさが伝わると嬉しいです。
PowerShot V1で撮れる画は高画質で綺麗に撮れました。
だけど、作品として撮るのであれば僕はやっぱりレンズを替えたくなる。このカメラはそういう目的ではなく、そこで起きたことを素直に記録するのに向いています。
今回の映像は、手軽に撮れることを活かして、自分の記憶をそのままに切り取った感じです。
綺麗に言えばそうかもしれませんね。記憶色という面もあるとは思うけど、それ以上に意識したのは「ブータンに吹く風の気持ち良さを込める」ということでした。国土の大半が標高2,000m以上の山地だけど、太陽が近いからか春のような温かさで、そこに吹いている風がすごく気持ち良かった。なんとなくそれを残したいと思いました。
この映像は作品と言われたら、そうなのかもしれない。だけど自分としては、「作品に仕上げる」という意思を強くもっていたわけではありません。
自然体で撮れたPowerShot V1の画に残されている、ありのままの記録をまとめた感じです。「この風の良さを映像に残すぞ!」ではなく、「気持ちの良い風が吹いてるから撮っておくか〜」的な(笑)。
だから、ねらった構図でしっかり撮るのではなく、歩いているときとか移動中にPowerShot V1で撮っていたんだと、編集していて気づきました。
シンプルにチベットの良い景色を記録した感じです。
僕と妻が民族衣装を着た姿をガイドさんが撮ってくれたときに、素朴な記念写真の良さに気づきました。ガイドさんにPowerShot V1を渡して、ただ撮ってくれた写真がすごく良かった。「この人、ワイドの使い方が俺よりも上手い!」と思ったぐらい。
川のほとりに立っている妻を映像で撮った理由は、その場所の思い出を残したかったからです。
最初はワイドで撮ってたけど、50mmの標準で撮ることの方が多かったかもしれません。
使っていて気づいたんですが、RECした状態でズームするとすごく滑らかに変化していくんですよね。それが面白かったので、ズームさせながら撮ったりもしました。
歩きながら撮ることが多かったけど、手ブレ補正がしっかりと効いていました。カメラを縦にして撮ったカットは、最近の僕のクセです(笑)。
この1年ぐらい、個展のために映像だけでなく写真も撮り続けています。映像と写真を行き来するうちに、縦の構図で撮ることに「写真らしさ」を見出して、映像でも縦で構えることが増えているんです。
最初から「M」で撮らず、「Av」や「Tv」などのモードで、気楽に撮り始めました。シャッタースピードは50〜100の間で、シチュエーションに合わせてISOやF値をマニュアルで設定していました。あと、自分としては珍しくシャッタースピードで遊んでましたね。
このサイズだからこそ入り込める感じはありましたね。
飛行機の窓から見える雪山のカットなんかは、PowerShot V1だから撮れたかもしれない。
起動が早いとか、写真と映像をすぐに切り替えて撮れるといった操作性は、普段使っているEOS R5 Mark IIにも当てはまるけど、PowerShot V1の良さはそこだけではなく、オンオフでの速度が早いのがシンプルに機能としてはいいなと。
今回初めて使ったのに、すっと手に馴染んだ印象があります。
多分、自分の映像制作が、作品として仕上げることを目的にしたもの中心だからこそ、記録する映像に魅力を感じるのかもしれません。
ニュース報道系の映像制作が中心の人たちからすると「何を言ってるんだ?」とか思われるかもしれないけど、僕自身は日常のなんてことない景色を残す大切さを感じることがあります。
もっと言うと、映像や写真として記録に残すということを全人類がやればいいのになって思います。
自分の結婚式に流す映像を編集したことです。小さい頃の自分の姿を両親が撮ってくれたホームビデオを編集していて、「これって、すごいことだよな」と思いました。
残しておくことの大切さ。その瞬間にしかなかったものを、適当でもいいから残しておかないと段々と忘れ去られてしまうわけなので。
「上手く撮れないから……」とか思って撮らない人は、PowerShot V1みたいなカメラを使うといいかもしれない。
撮れるものなら何を使ってもいいと思います。残しておくことが大事なので。
記憶だけだと薄れてしまうけど、残しておくことで話題が生まれるかもしれないし、その映像を記録した人、そこに映っている人の記憶を遡っていくみたいなことができるはず。
その上で気軽に撮れる、かつ高画質で残せるPowerShot V1みたいなカメラがあると良いと思います。
試行錯誤を続けているところですが、編集をするときも「ブータンに吹く風の気持ちよさ」を意識しています。
父親が作ってくれた音楽をBGMに使っていますが、この映像用に作曲したわけではありません。1年ほど前から何曲か作ってくれたものを、撮ってきた映像を見ながら聴いてみて風の心地よさに一番合っていると思った曲を選びました。
映像自体は、ポケットに手を突っ込みながら撮ったものなんかもあったりと、僕としては本当にラフに撮ったものですが、編集によって、より風が感じられるようになれば良いなと。
ただし、編集しすぎることによって作品となることも避けようと思いました。作品って、何なんですかね(笑)。
一瞬、考えたけど僕はVlogを撮れる人ではないし、Vlogでもないので(笑)。
もし記録として残すなら、どうまとめるのが美しいか。「このカットの次は、こんな画がほしい」などと思いながら探して並べた感じです。
画の中の動きとか、カメラワークとか、色とか。あとは、音楽のテンポやメロディーのながれで、タイミングを合わせてみたりしながらひとつの映像にまとめました。
撮っているときは「風が気持ちいいな」ぐらいしか思っていませんでしたけどね。だから、編集作業でイメージに合った素材を探すのが意外と大変でした(笑)。
シノゴ(4×5)にしました。
映像作家だけでなく、写真家としても活動を続けていることもあって、この1〜2年は写真的な映像をやらせてもらうときは自分が今まで見てきた写真の魅力に対するリスペクトを込めて、シノゴ、ロクロク(6×6)やロクナナ(6×7)、エイトバイテン(8×10)といった画角で作るようにしています。
写真家としてのマインドを常に抱いて活動されていらっしゃる、クリエイターの方々へのリスペクトを表したいという気持ちもありますね。
写真の良さって、空間を1枚の画面に切り取ることでもあると思っています。
最近、映像を制作するときにすごく意識していることとして、ねらい過ぎないようにしたいというのがある。
グラフィカルに撮って、構図もトリミングして作り手としての意思を込めた映像も大好きだし格好良いと思っています。だけど、それとはまた別の思考で、一歩引いてワイドにして、水平にも垂直にも特別な意図は込めない。ティルトもパンもロールもしない状態で、カメラをスッと置いて良い情景が撮れるというのが一番すばらしいと思うので。
今年3月に母校(多摩美術大学)の卒業式に顔を出したときに、今年度で退官される教授の方が「アートは想い。デザインはおもてなし。」とおっしゃっていました。
アートは、作品。作った人の想いが込められている。それに対するデザインというのは、デザイナーやユーザーなど色々な人の想いが交わって成り立つものだと思います。
1人の作家が作ったものには、恐らくどのような形態であっても想いが込められていて、そうした想いが強く感じられるものの方が「作品」らしくなるんじゃないかと。
そう考えたとき、今回の映像は良い意味で強い想いを込めて作ったわけじゃないんですよね。「風だ!」ではなく、「風だ〜」なので(笑)。
だから、編集していると自分のありのままをさらけ出しているようで、少し恥ずかしくなります。もう少し突き詰めれば、撮ってきた映像から「想い」を抽出できる気がするので、そのバランスをもう少し考えるつもりです。
50mm 1/2,000 F5.0 ISO800
「自然って良いな」と。いや、ふざけているわけではなく(笑)。
ブータンには、『はなればなれの君へ』MV(2021)の撮影で行った高知県に相通じるものを感じたんですよ。どちらも自然が豊かで、そこに暮らしている人たちが素朴でやさしい感じがして、自然と共生するという人間本来の生き方みたいなものを感じました。
今回の旅から得たものが、多分、写真や映像に込められていると思います。
6月の個展は『ほがらかに。』というタイトルに決めました。僕の名前の一文字でもあります。
決めた瞬間に、朗らかな作品をけっこう撮ってきたことに気づいたんですよね。自分の名前に付随して生きているなあって。
そんな風に思った時に、個展のタイトルと写真や映像を照らし合わせると、僕の中での「朗らか」はこういうものだったんだなと思いました。ぜひ観に来てもらえると嬉しいです。
林響太朗作品展
「ほがらかに。」
○開催日程:
2025年6月27日(金)~2025年8月6日(水)
○開館時間:
10時~17時30分
○会場:
キヤノン S タワー1階 キヤノンギャラリー S
(住所:東京都港区港南2-16-6)
○URL:
https://personal.canon.jp/event/photographyexhibition/gallery/hayashi-melodious