審査員メッセージ 第59回キヤノンフォトコンテスト


審査員紹介・メッセージ(敬称略)
伊奈 英次(いな えいじ)

愛知県名古屋市出身。(1957年4月3日)
1977年、中部工業大学工学部工業物理学科中退。
1984年、東京綜合写真専門学校研究科卒業。
現在 東京綜合写真専門学校校長
1984年、東京の都市景観を 8×10 の大型カメラで精緻に捉えたモノクロ写真を発表。以後、日本各地の在日米軍基地の通信アンテナ、産業廃棄物、都市に点在する監視カメラ、天皇陵などといった、都市、環境、軍事、歴史など日本の近現代をテーマに撮影している。
2019年よりCrystal of Debris「残滓の結晶」シリーズにおいて、デジタルバグの可能性を追求している。
写真は広大な宇宙に輝く銀河からミクロの細胞やウイルスの世界まで、さまざまな景色を映し出すことができます。しかしあなたの視点は、世界にたったひとつのもの。カメラの技術や機材も大切ですが、それ以上に「何を撮りたいか」「どう感じたか」が写真には表れます。うまく撮れなくても、それは新しい発見のチャンス。試行錯誤を重ねるほど、自分らしい一枚に近づいていきます。最近のSNSでは、刺激的な写真が多く、ほんの数秒で流されてしまうのが現状です。視覚的なインパクトを狙うだけでは、本当に心に残る写真にはならないかもしれません。スマホの小さな画面では伝えきれない写真の魅力があります。じっくりと撮影し、しっかり見てもらうことで、写真はもっと奥深いものになります。シャッターを切るたびに、新しい視点が生まれ、世界はより新鮮で面白く感じられるはずです。
小澤 太一(こざわ たいち)

1975年名古屋生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、アシスタントを経て独立。雑誌や広告を中心に、幅広い人物撮影をメインに活動している。執筆や撮影会講師・講演など、活動の範囲は多岐に渡る。ライフワークは「世界中の子どもたちの撮影」で、写真展も多数開催している。身長156㎝ 体重39kgの小さな写真家である。ただいま北海道と東京で二拠点生活をしながら作品制作中。キヤノンEOS学園東京校講師、日本写真家協会会員。
フォトコンテストはチャレンジの場としては絶好の舞台と言えるでしょう。自分とは違う感性の人が、自分の写真をどう評価するのかを知ることができるわけですから。主観的だったはずの写真が客観的に評価される……このことを意識するだけでも、きっと写真との向き合い方が変わっていくでしょう。
応募することを決めると、どのような写真を撮ったらいいのかあれこれ考えるだろうし、撮った後も、どれを応募したらいいのかセレクトに思い悩むでしょう。その積み重ねは時につらく感じることもあるかもしれませんが、写真がうまくなるためには必要なこととも言えます。
入賞したらどれほどうれしいことか……それはひたむきにがんばった人であればあるほど、喜びも倍増するはずです。それを多くの人に体験してもらいたいです。そのためには、まず最初の関門は「応募してみる!」と決めることです。多くのみなさんのチャレンジ、じっくり拝見できることを楽しみにしています。
櫻井 寛(さくらい かん)

鉄道フォトジャーナリスト 東京交通短期大学客員教授
1954 年長野県生まれ。昭和鉄道高校、日本大学芸術学部写真学科卒。
初の写真集は学生時代に冬の北海道を走る蒸気機関車を撮影した『凍煙』。
出版社写真部勤務の後90年に独立。93年航空機を使わずに88日間世界一周。
94 年『交通図書賞』受賞。現在『日本経済新聞』『毎日小学生新聞』
『はれ予報』『ロケーションジャパン』『漫画アクション』『ホステリング』など連載中。
著書は代表作に『オリエント急行の旅』『ななつ星 in 九州の旅』。
写真展と近著に『列車で行こう!The Railway World』『列車で行こう! 鉄道王国スイスの旅』。
著書は112冊。95ヵ国取材。渡航回数は 250 回以上。
好物は駅弁で漫画『駅弁ひとり旅』の監修を務め「6000個の駅弁を食べた男」として各メディアに多数出演。
天気予報は快晴! よし、明日は前から行きたかった海山渓谷に撮影に行こう!
海山駅までは電車で行って、その先は海山渓谷まで山道を歩くこと1時間余。
なので機材はコンパクトに、ボデー1台にワイドズーム1本と望遠ズーム1本。
まてよ、渓谷でカワセミが撮れるかも知れないから、超望遠も持って行こうか?
メディアは? バッテリーは? 忘れ物はないかな?
撮影旅行の前日はあれこれ考えながら機材を準備するものですが、いつしか頭の中は一足先に現地に飛んでしまい、ワクワクしてくるものです。まるで、遠足の前の日の小学生のようですが、ぜひ、心は子どもに戻って撮影を楽しんでください。その理由は、子どもは、大人の常識にとらわれずに、感受性豊かな眼と心を持っているからです。そこに大人の撮影テクニックが加われば傑作写真間違いなしですね。では、皆様の傑作写真をお待ちしております!
長島 有里枝(ながしま ゆりえ)

写真家。1993年、現代美術の公募展URBANART#2でPARCO賞を受賞。1999年、カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻修了。2001年、写真集『PASTIME PARADISE』で第26回木村伊兵衛写真賞受賞。2010年、短編集『背中の記憶』(講談社文庫)で第23回三島由紀夫賞候補、第26回講談社エッセイ賞受賞。2020年、第36回写真の町東川賞国内作家賞受賞。2022年、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)で日本写真協会賞学芸賞受賞。著書に『Self-Portrais』『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)、『こんな大人になりました』(集英社)、『去年の今日』(講談社)などがある。
わたしが写真を始めた頃はまだ、写真の撮れるスマホがありませんでした。そもそも携帯電話どころか、子供時代はコードレスの電話もなかった。よく、祖母の壊れたコンパクトカメラにフィルムも入れず、家族や家のなか、ベランダから見える景色を撮って遊んだのを覚えています。
あ!と思う場面に遭遇したのにカメラを持っていなくて、仕方なく目で写真を撮った気持ちになって脳裏に焼きつけることもよくありました。でも、やっぱりシャッターを切らないと、撮ってかたちにして誰かに見せないと「写真」にはならないような気がします。
祖父母の残したアルバムはすべてわたしが引き取って、ときどき眺めています。写っているのが誰なのか、どこなのかわからなくても、撮った人が過ごしただろう良い時間が伝わってくる。そういう写真を見るのが大好きです。みなさんの手元にもきっとある、そんな写真に出会えますように。楽しみにしています!
秦 達夫(はた たつお)

長野県飯田市遠山郷出身。(1970年4月20日)自動車販売会社・バイクショップに勤務。後に家業を継ぐために写真の勉強を始め自分に可能性を感じ写真家を志す。写真家竹内敏信氏の助手を経て独立。故郷の湯立神楽「霜月祭」を取材した『あらびるでな』で第八回藤本四八写真賞受賞。同タイトルの写真集を信濃毎日新聞社から出版。写真集『山岳島_屋久島』『RainyDays 屋久島』『Traces of Yakushima』『風光の峰 雲上の渓 黒部源流の山々』エッセイ『雨のち雨ところによっても雨_屋久島物語』他多数。小説家・新田次郎氏『孤高の人』の加藤文太郎に共感し、『アラスカ物語』のフランク安田を尊敬している。
日本写真家協会会員・日本写真協会会員・日本風景写真家協会会員・Foxfire フィールドスタッフ・日本写真芸術専門学講師・Intel(r) Blue Carpet Project Member
歴史あるキヤノンフォトコンテストの審査員を務めさせていただくことを光栄に思っています。その一方で大きな責任を感じております。それは、このコンテストで人生が大きく変わる人が居るかもしれないと思うからです。それだけ影響力を持った権威あるコンテストだと認識しています。応募は大きな挑戦であり未来を切り開く剱。ジャンルも細分化されており応募しやすいと思います。そして私にとって応募作品は手紙。ラブレターなのか果し状なのかわかりませんけどね。作品から浮かび上がるメッセージを僕なりの言語で読み取って行こうと思います。想像するだけでワクワクしますね。全ての応募作品に返信はできませんが表彰の場に立つことができたならば受け取って欲しいと思います。皆さんは僕らに何を伝えたいと思いますか?最後に撮影テクニックがメッセージの強さに比例しません。ストレートで気持ちを込めた手紙をお待ちしております。
在本 彌生(ありもと やよい)

東京生まれ 大学卒業後、外資系航空会社の乗務員として勤務。各国を移動する中、乗客に勧められ写真を撮り始める。2006年よりフリーランスフォトグラファーとしての活動を開始。現在は雑誌、書籍、広告、展覧会などで写真、映像作品を発表。世界各地の衣食住の背景にある美を求め取材撮影している。写真集「MAGICAL TRANSIT DAYS」(abp)、「わたしの獣たち」(青幻舎)、「熊を彫る人」(小学館)、「リトアニア!(仮題)」(アノニマスタジオ)、書籍「CALICOのインド手仕事布案内」(小学館)、「中国手仕事紀行」(青幻舎)、雑誌「Madame FIGARO JAPON」にてフォトエッセイ「在本彌生の眼に翼」連載中。
Instagram:yoyomarch
写真は不思議です。目の前で起きていること、見ているものが、撮影者がレリーズを切った瞬間に写真として生まれ出て、歩みはじめます。よく考えてみればそれは大したことです、この世界に時が流れている以上、同じ写真は二度と撮れないし、すなわち誰もがその人しか撮れない写真を撮っているということなのですから。さらに写真には撮影環境や対象との関係性などが作用して、ハプニングやアクシデントがついてまわります。この部分が写真のままならなさであり、それをどう活かすか瞬時に対処しなければなりませんが、そこが写真の面白さで人々が撮るという行為に病みつきになってしまう理由のひとつなのでしょう。写真は非常にエモーショナルであり、それと同時に「感覚のスポーツ」のようだと思っています。だから対象が何であれ、撮影者と対象のその瞬間のセッションを感じられる写真は観るものに特別な印象を残すのです。この度のコンテストでは、みなさんからどんな写真表現が寄せられるのでしょう、今から大変楽しみにしております。