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国宝・中空土偶カックウと“縄文愛”でつながる函館の人々EOS R6 Mark II×JOMON Culture(函館市)

公開日:2023年12月15日

TEXT:itoshino編集部 PHOTO:中西敏貴

仕事や趣味、遊びのボーダーを軽やかに飛び越え、人生を愛(いと)しんでいる人を紹介する「itoshino」。この企画では、全国各地で「好き」をかたちにしている人のもとへitoshino編集部が訪問。その活動やライフスタイルをお伝えします。
今回登場するのは、縄文時代後期(約3500年前)につくられ、2007年に北海道初の国宝指定を受けた中空土偶(愛称:カックウ)をめぐる函館の人々です。「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコの世界文化遺産に登録されたのが2021年。いま、縄文文化への注目度が急上昇中です。知っているようで知らない縄文の魅力とは? まずは、カックウを常設展示している縄文文化交流センター(北海道・函館)の学芸員・平野千枝さんを訪ねて、フォトグラファー・中西敏貴さんと旅に出発しました。EOS R6 Mark IIで撮影した写真とともにご覧ください。

PROFILE

平野千枝(ひらの・ちえ)

北海道せたな町出身。東北芸術工科大学大学院芸術文化専攻保存修復領域修了後、一般企業に就職。函館市南茅部の発掘調査補助員、函館市内のイベント会社勤務などを経て、2011年7月、縄文文化交流センターのオープニングより現職。函館市在住、一児の母。

国宝・中空土偶カックウに出会える函館の博物館へ

愛嬌のある丸顔に、肩幅ガッチリで細腰のボディ。モデル体型の造形が目を引くスタイリッシュな国宝・中空土偶カックウに会いたくて、初秋の函館を訪れました。函館市縄文文化交流センターは、世界文化遺産「北海道・北東北の縄文遺跡郡」の構成資産の一つ、垣ノ島遺跡に隣接する博物館です。函館市内の縄文遺跡から出土した遺物を数多く展示しています。学芸員・平野千枝さんに、中空土偶カックウや縄文文化の魅力についてうかがいました。

EOS R6 Mark II・RF70-200mm F4 L IS USM(焦点距離124mm)・F5.6・1/5秒・ISO3200

中空土偶カックウは高さ41.5cm。全身が空洞になっていることから中空土偶と呼ばれ、南茅部(みなみかやべ)で見つかった中空土偶なので、ニックネームは茅+空=カックウとなりました。

出土したのは1975年。旧南茅部町のジャガイモ畑でイモを掘ろうと地元の主婦がクワを入れるとガチンと何かが当たる感触があり、掘り返してみるとヒト型の焼き物でした。それほど浅い地層から3500年前の土偶が姿を現すとは驚きです。

1979年には国の重要文化財に指定され、2007年に北海道初の国宝に指定されました。カックウは縄文時代から現代に登場した、土偶のスーパースターなのです。

EOS R6 Mark II・RF15-35mm F2.8 L IS USM(焦点距離15mm)・F16・20秒・ISO100

カックウが常設展示されている函館市縄文文化交流センターは2011年に開館。煮炊きに使われた縄文土器、狩猟採集に使われた道具類、子どもの足形や手形を写し取った粘土板など、地域で出土した遺物を約1500点展示しています。

EOS R6 Mark II・RF28-70mm F2 L USM(焦点距離49mm)・F2.8・1/125秒・ISO1600

学芸員・平野さんによると、縄文文化や土偶には解き明かされていない謎が多いのだとか。

「土偶は壊れた状態で見つかるものが多く、胴体の一部を壊すことで病気やケガの治癒を願っていたのかもしれません。カックウも壊れた状態で見つかりました。粘土の継ぎ目の部分で壊しやすいように作られていて、取り外したい部分をきれいに取り外しやすく作られていた可能性もあります。足の部分には注ぎ口のような穴があり、液体を入れる用途があったのかも。また、カックウに顔がよく似た土器が、東京・町田市で見つかっているので、遠く離れた場所から運ばれてきたのかもしれません」(平野さん)

土偶を作る技術や発想をもつ集団が縄文時代に交流していたかもしれない。そう考えると、縄文人へのイメージが変わってきそうです。

EOS R6 Mark II・RF28-70mm F2 L USM(焦点距離41mm)・F2・1/200秒・ISO6400

「豊かな森と海に囲まれた南茅部地域では、縄文時代早期〜後期にかけて長期にわたり縄文文化が栄えました。自然と共生しながら長く定住していたことがわかっています。その間に大きな争いが起きた痕跡がないので、縄文人は何世代にもわたり平和に暮らしていたのでしょう」(平野さん)

遺跡からは人を傷つける武器は見つかっていないそうです。大きな争いが起きず、自然の恵みをいただいて暮らしていた縄文人は、究極的にサステナブルの実践者たちだったのかもしれません。

EOS R6 Mark II・RF28-70mm F2 L USM(焦点距離57mm)・F2.5・1/320秒・ISO400

垣ノ島遺跡の敷地内を歩くと、栗の木があちこちに。縄文時代の気候は現代よりも温暖な時期もあり、シカや魚介類のほか、豊富に育っていたクリやクルミの実を食べていたそうです。多くの遺物が出土している垣ノ島遺跡ですが、発掘調査は全体の2%しか完了していません。98%はいまだミステリー。第2、第3のカックウが出土するかもしれません。

「私たち学芸員の仕事は、数千年後の社会にもカックウを継承していくことです。貴重な文化財を未来に伝えていくためにも、いまの子どもたち世代に縄文文化の魅力を伝えていきたいです」(平野さん)

“カックウ愛”と“縄文愛”にあふれる人物との出会い

今回訪れた垣ノ島遺跡や近隣の大船遺跡は、太平洋に面した海岸から100mほど内陸の小高い丘の上にあります。背後の森ではシカなどの野生動物が生息し、近隣を流れる川にはシャケが遡上します。縄文人たちは海と森に近い環境が気に入って、この地に定住したはず。このパートでは、生まれも育ちも南茅部で、縄文文化に惚れ込んでしまったもう一人の女性にもご登場いただきます。

EOS R6 Mark II・RF28-70mm F2 L USM(焦点距離35mm)・F5.6・5秒・ISO800

巨大な遺構が残る垣ノ島遺跡や縄文人の竪穴住居が再現された大船遺跡では、縄文文化の痕跡に直接触れることができます。遺跡から夜明けの海と空を眺めていると、縄文時代と現代の風景がレイヤー(層)のように重なり溶け合っているような気がしてきます。

EOS R6 Mark II・RF28-70mm F2 L USM(焦点距離28mm)・F7.1・1/200秒・ISO640

垣ノ島遺跡から車で5分ほどの場所にある大船遺跡。こちらも世界遺産に登録されています。床を深く掘り込んだ竪穴住居が特徴的で、なかには深さ2mを超える巨大なものも。スケール感は想像以上!

EOS R6 Mark II・RF28-70mm F2 L USM(焦点距離51mm)・F3.2・1/2500秒・ISO400
EOS R6 Mark II・RF28-70mm F2 L USM(焦点距離70mm)・F5.6・1/1000秒・ISO400 

“カックウ&縄文愛”にあふれる垣ノ島遺跡の解説員・坪井睦美さん。生まれも育ちも遺跡がある南茅部。もともと近所の主婦でしたが、1989年、発掘調査のパート経験をきっかけに縄文文化にハマりました。その後も発掘調査の仕事を続け、ついには現場を監督・指揮する調査員となり、10年かけて学芸員の資格も取得しました。

新年の仕事初めにはカックウに会いに行くことを欠かさず、カックウがロンドンの大英博物館やパリの日本文化会館に貸し出されると、現地までプライベートで「おっかけ」をしたそうです。素晴らしい縄文愛!

「土器に触れて観察していると、これを作った人は繊細な人、こっちはちょっと雑な人などとわかるようになってきます。“縄文”に触れたくて土器作りにも挑戦しています(写真右)。以前は、そんな石ころを集めてどうするのと言われましたが、カックウが国宝になって地域の人々の関心も高まりました。うれしいですね」(坪井さん)

縄文ブームの函館を盛り上げる老舗の菓子職人

世界文化遺産への登録を契機に“縄文ブーム”に沸く函館では、中空土偶カックウをモチーフにした新しい函館みやげも誕生。函館市縄文文化交流センターに隣接する道の駅「縄文ロマン南かやべ」で見つけた「国宝・土偶最中」を作っている函館の老舗和菓子店・龍栄堂さんを訪ねました。

EOS R6 Mark II・RF28-70mm F2 L USM(焦点距離70mm)・F2.8・1/320秒・ISO1000
EOS R6 Mark II・RF28-70mm F2 L USM(焦点距離28mm)・F2.8・1/640秒・ISO6400

縄文文化交流センターの売店でインパクト大だった「国宝・土偶最中」は、カックウの頭部を再現した最中の皮で、栗の実をたっぷり混ぜ込んだ粒あんを包んだお菓子です。製造元、創業1826年の老舗和菓子店「龍栄堂」の店主・田中孝明さんを訪ねました。

「国宝・土偶最中ができたのは2021年9月。工芸菓子の材料で粘土細工のように原型を作りました。注文にもよりますが1日に100〜250個ぐらい作っています」(田中さん)

田中さんの手からテンポよく生まれる愛嬌のあるカックウ顔の最中。地元でのほっこりしたカックウ人気ぶりがうかがえます。

EOS R6 Mark II・RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(焦点距離500mm)・F11・1/500秒・ISO400

中空土偶カックウや縄文文化を愛する方々に出会う函館の旅を振り返ると、遠い過去だと思っていた縄文時代がグッと身近に感じられるようになりました。

縄文人とつながる扉は、縄文の遺跡や土器だけではありません。たとえば、函館のダルマ太陽。太平洋から昇る朝日を縄文人も見ていたことでしょう。神々しい自然風景に畏敬の念を感じるのは、私たちの中で眠っている縄文人の魂が共振しているからなのかもしれません。

EOS R6 Mark IIで切りとる旅の終わりに。

今回旅の撮影を担当してくれたフォトグラファー・中西敏貴さんに、EOS R6 Mark IIの印象を聞きました。

「結論としてはEOS R6 Mark IIは、作品づくりにも積極的に活用したいカメラです。有効画素数2420万画素なのでEOS R5に比べると足りないかなと不安でしたが、映像エンジンDIGIC Xが出してくる絵が優れていて、しっかり解像感と切れ味のある画像が得られます。

液晶ビューファインダー(EVF)の向上もうれしいですね。私はピクチャースタイルやホワイトバランスを調整し、EVF液晶ビューファインダーの中で絵づくりを完成させ、後処理は最低限で済ませます。保険としてRAWでも撮りますが、EOS R6 Mark IIが出してくるJPEG画像の完成度には十分に満足できます。

撮影現場で見た光や色の印象そのままの写真ができあがるので、撮影時の光を読む、色を見るなどフィルムカメラのような感覚で撮れます。EOS R6 Mark IIのおかげで、風景写真の撮影が改めて面白いと感じられるようになりました」

中西敏貴「地と記憶」ギャラリー

中西敏貴さんの写真展「地と記憶」は、北海道北部に残されているオホーツク人の遺跡と民族の痕跡にフォーカスした作品です。オホーツク人は5〜9世紀に北海道北部の沿岸部分に暮らしていた海洋漁猟民族。その遺跡と自然環境に着目し、自然から得た恵みを糧にしていた彼らの姿を現代の風景の中に見いだそうとする試みです。写真展の開催情報はプロフィール欄をご覧ください。

中西敏貴(なかにし・としき)

1971年、大阪府生まれ。2012年に撮影拠点である美瑛町へ移住。大雪山系の原生風景をメインフィールドに、北海道で生きてきた人々と自然との関わり方を探る旅を続けている。2022年、オホーツク人の遺跡とその周辺環境をモチーフにした作品でHOKKAIDO PHOTO FESTA2022ポートフォリオレビューグランプリを受賞。2023年12月には、同賞をベースにした写真展「地と記憶」(IG Photo Gallery)を開催。2024年1月、名古屋のPHOTO GALLERY FLOWに巡回。
日本写真家協会会員、日本風景写真家協会会員、日本風景写真協会指導会員、Mind Shift GEARアンバサダー

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国宝・中空土偶カックウと“縄文愛”でつながる函館の人々
https://personal.canon.jp/articles/life-style/itoshino/list/jomon
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https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/life-style/itoshino/list/jomon/image/r6mk2-jomon-mainvisual.jpg?la=ja-JP&hash=004EC607711EC4FA00E3DB151BBFABB5
2023-12-15