カイノユウさんにとってのお茶。それは素の自分に戻るためのスイッチャー
公開日:2022年5月25日
最終更新日:2022年10月25日
お茶の産地・静岡に生まれ育ったモデルのカイノユウさん。自宅でも、学校でも、お茶に親しむ時間が多く、出回りはじめる新茶で新しい季節を感じたそう。最近では「美味しいお茶を飲み、心を落ち着かせる」機会になればと、様々な種類のお茶を展開する日本茶ブランド「SA THÉ SA THÉ」を新たに立ち上げ、美味しいお茶を入れるため時間を忘れて研究に没頭することも。そんなカイノユウさんに、あらためてお茶の魅力と美味しい入れ方(アレンジも!)をお聞きしました。
PROFILE
日本茶の香りに包まれて過ごした日々
朝、一杯のお茶を飲む。それが実家での当たり前でした。
部活の朝練がある日も、お茶だけは飲んで行きなさいと言われる家だったので「一刻も早く家を出たいのに」と思いながら、急いで煎茶を飲み干したのをよく覚えています。
春になれば、その一杯は新茶に変わります。せわしない朝なので、新茶をゆっくりと味わう時間はなかったですが、何となく「あぁ新しい季節が始まったんだな」という気持ちにさせてくれるとてもいい時間でした。
学校に持参する水筒の中身が日本茶だったり、風邪予防のためにお茶でうがいすることが推奨されたり、さらに私の祖父は日本茶の袋詰めや加工をする工場を経営していたりと、振り返ると、私の静岡での生活は、お茶の気配がいつでもどこかしらに漂っていたような気がします。
飲む人の気持ちに寄り添うお茶「SA THÉ SA THÉ」
上京後、しばらくお茶から縁遠い生活をおくっていましたが、2020年になって「SA THÉ SA THÉ」というお茶のブランドをいきなり立ち上げたのは、祖父の工場を継いだ父親からの一本の電話がきっかけです。お茶農家さんや販売店が廃業するなどの深刻な状況に追い込まれているのだと。
そんな電話を受け、自分が生まれ育った故郷の原風景である綺麗な茶畑が失われていくことや、こんなにも素敵な文化が変わっていくのはすごく寂しかったですし、せっかく私が東京という消費地にいるんだから、何かできることがあるんじゃないかと、すぐにアクションに移しました。右も左もわからないままでしたが、まずは動くことが大事だ、と。
それで、思い切ってブランドの立ち上げに踏み切ったんです。
モデルとして今のお仕事の延長で、SNSや取材等でお茶好きをアピールしたり、好きなお茶やお店を紹介したり、という事も出来ましたが、それではどこか納得いかず、自分が消費者の立場で今まで飲んできた美味しいお茶を「自分の言葉や表現で伝えていきたい!」という思いが強くあって……。
それに、モデルとして活動する私が地元を想い、本気で向き合ったお茶ブランドを立ち上げる。その背景からお茶への興味関心をもってくださる方もいるようにも思って。
実はそれまで、自分のルーツやバックボーンについて表立って発信することはあまりありませんでした。お茶に深く関わるようになって自分を見つめ直したと言いますか、自分が何を考えているのか、自分がどういう人なのかということを考え直す機会にもつながったんです。
美味しいお茶の入れ方、味わい方
「SA THÉ SA THÉ」の立ち上げ以降、より一層お茶が好きになり、その魅力が最大限に引き立てられる入れ方を見つけるまでひたすら一種類のお茶に向き合う時間が増えました。その日のうちに決定打となるものが見つからなければ、しばらく寝かせて飲むなど、そのお茶のベストな入れ方を何日もかけて探すときもあります。同居人からは「まだやっているの?」と驚かれることもしばしば(笑)。
渋み、甘み、苦み、旨みのバランスで美味しさが決まると言われるお茶は、湯温や収穫される時期、製造工程など様々な状況によって味や風味が大きく変わります。また種類によって清涼感のある青さがあるもの、フルーティーな香りのあるものなど様々で、知れば知るほどお茶の世界は深く、いくら勉強してもしたりません。
学ぶほどに生産者さんの工夫や挑戦が見えるようになり、飲み手としてもとても興味深く、この世界は「沼」だと実感しています。
そうしてお茶の美味しさをひたすら追求するのも良いですが、やはり家で飲むお茶はあまり難しく考えずに、気軽に楽しめるのがいいなとも思います。
たとえば70度程の低温で入れてみると、同じ茶葉でもこんなに味わいが変わるんだ、とその違いに驚きます。テアニンという成分が際立ち、お茶の旨みや甘みが一層ひき立つんです。
ちなみにお湯は、ひとつの容器から別の容器に移し替えることでおよそ5〜10度下がると言われます。何度か移し替えると目指す温度のお湯になると思うので、湯温を調整する際には、そのお茶にあった自分の好きな温度を探してみてください。
(脇道にそれますが、お茶とお酒の組み合わせも面白いです。冷茶とキンミヤ、レモン汁を組み合わせてみたり、和紅茶とブランデーを合わせてみたり……)
私はと言うと、リフレッシュしたい時はだいたい冷茶と決まっています。モデルの仕事は、テンションを意識的にあげる撮影が多くて、仕事が終わっても気持ちがふわふわしていることもしばしば。
そんな状態からクールダウンするために、自宅に帰り、冷蔵庫でよく冷えた水出しの冷茶を一杯飲む。その一杯がすごく美味しくて、気持ちがすっと自分の中におさまるような感覚を覚えます。
モデルとして活動する「光」の自分と、素顔のカイノユウとして過ごす「影」の自分があるならば、お茶を飲む時間は「影」の時間にあたるかも知れません。その時間は長くても短くても今の生活には、決して欠かすことはできません。
この「光」と「影」の対比のようなものを写真でも表現できればと、お茶を撮るときは窓から差し込む光などを少し気にして撮っています。ちょっとアートに寄った撮り方かもしれませんが、自分の意識やその時間の意味を投影できればと考えています。
お茶は、自分の原点に戻るスイッチャー
お茶は、自分にとってのホームのようなもの。
お茶を飲むと、ありのままの自分に戻ってこられるんです。
ほっとして、飾らない自分になる。気持ちの部分でもそう感じますし、お茶を飲むと実家や故郷など自分のルーツにつながる、自分の成長してきた場所がお茶とともにあったことを思い出します。
私の原動力のようなものでもありますし、自分と向き合うきっかけをくれた再スタートの象徴でもある。
ちょっと抽象的ですけれども、お茶が、素のカイノユウを取り戻してくれるスイッチになっている。そんな風にも思います。
思いのままにお茶を愛する毎日を
好きなものを飾ったり、写真に残したり、アルバムにしたり。あなたの「好き」をかたちにするアイデアをご紹介します。
逆光でガラスの器に入れたお茶を撮る
ほっと一息、自分に戻るお茶の時間。光を意識して、印象的なテーブルフォトを撮ってみませんか。ガラスのティーポットに入れたお茶を逆光で撮影すると、中身がきれいに写ります。
自分を満たす「暮らし」を写す
忙しなく過ぎてゆく毎日の暮らしを見つめ直すことで見つかる、大切なもの。写真家・鈴木さや香さんが写した、いつもの景色の新しい魅力をのぞいてみて。
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