日本髪の神様に惑わされ、髪結いとして生きる琴音さんの深い愛を聞く
公開日:2022年9月2日
最終更新日:2022年9月26日
日本髪に魅入られて数年のうちに仕事を辞め、髪結いとなるための人生を歩み出した「日本髪と着物の人」こと、琴音さん。「日本髪の神様に手招きされて、惑わされた」とおっしゃる一方で、日本髪を結うため、結われるための行動力と実行力は驚くほどの深い情熱と愛情に突き動かされています。彼女の人生そのものを大きく変えてしまった日本髪の魅力とは。日本髪の被写体としても活躍する彼女に、美しく艶やかな日本髪の魅せ方も教わります。
プロフィール
日本髪と着物を着こなし、大人のドレスコードを楽しむ。
現代日本ではもはや絶滅危惧種となりつつある日本髪。日常的に結い上げている方は舞妓さんくらいしかいませんが、個人的にはファッショントレンドになりうるほどのポテンシャルを秘めていると思っています。
日本髪の魅力とは、ずばり特別になれること。洋服を着て過ごす日々ではしっかりとヘアセットをしたり、簪(かんざし)などの髪飾りで自分を飾ったりすることはなかなかありませんが、日本髪を結い上げ、それにふさわしい着物で着飾ることで、まるで自分が芸術作品の一部になったかのような気分になれるんです。まさに大人のドレスコード。子供の頃はかしこまった格好をすることって面倒臭いし苦痛だったと思うんですけれども、成人した女性にとって、そういう大人の楽しみ方もある。日本髪はその楽しみを教えてくれるきっかけになるかもしれません。
今では仕事として人様の髪を結い上げ、休みの日などには自分で日本髪を結って過ごすほど公私ともに日本髪に人生を捧げていますが(笑)、育った家はごく普通の家庭で、特に日本文化に造詣深く育ったわけではありませんでした。
そもそも日本髪を意識したのも大人になってからのことで、「琴音さん、着物好きなんだから日本髪も好きなんじゃない?」と言われたことから一気に気になり始めたんです。髪の長さが十分であればすぐにでも結いたかったのですが、調べたら鼻下までの前髪と鎖骨下まで後ろ髪が必要とのこと。前髪が足りなかったので3ヶ月かけてじりじりと髪の毛を伸ばして、目標の長さになった時点ですぐに髪を結いに行きました。
そうして初めて結ってもらった時、とても不思議な感覚を覚えたんです。今まで生きてきた自分ではない、「本当の自分に出会えた!」という衝撃。ずっとこれを求めてきた……と感慨深さを覚えて。それからは何かと機会を見つけては結いに行くようになりました。
それからさらなる運命の巡り合わせが。それまで特定の髪結いさんにこだわらず、いろんな方に結っていただいていたのですが、たまたま今の日本髪の師匠である山中先生に結っていただくことがあって、その技術に感動してしまって。ただの一本結びの緩くもなく、つる感じもない絶妙な結びにはっとして。神業やなと。そこから生まれる髪のプロポーションも私が求めていた絶妙なかわいらしさ! あっという間に惚れ込みました。
東京転勤の間にも、髪結いのためわざわざ京都へ何度も戻りました。いくら新幹線代をかけてでも先生に結ってもらいたくて。「えらい遠いところからよう来はるわ」と先生にも笑われましたが、もう彼女の髪結いじゃないと満足できませんでしたね。先生のところには飛行機で結いに飛んで来はる方もいるとのことで。でもすごくその方の気持ちがわかってしまいます。
そんなこんなのうちに考える様になったのは自分の人生のこと。「なんかこのまま平凡に生きていくのは嫌やな」と考えてふと「日本髪と関わって生きていきたい」と思ったんです。それはすなわち美容師になるということ。それまでは全く違う職種の仕事だったにも関わらず、美容室に転職。それと同時に3年間かけて通信の美容学校へ通い美容師免許を取得しました。合格発表の翌日には先生に電話をかけて「私に日本髪を教えてください」と志願のご連絡を。
京都美容文化クラブへ入会し、日本髪を学ぶことになりました。初めて勉強会に出た日、先生が結い方を見せてくださったときはこっそり泣きました。やっとここまで来たなあと。美容師への転職は、決して楽なものではなかったものですから。
もうね、思い切ったと思います。若かったなあと。思うに、日本髪の神様がいるならばその人に導かれるように惑わされてきたのかもしれません。手招きをされた方に全力で走っていってしまったのかなって(笑)。
成人式に結いたい、少女から大人に移ろった証の日本髪
かつて日本髪は年齢や身分によって結う髪型が明確に決められていました。髪型ひとつ見ればその人の素性がわかる身分証明書のようになっていたんです。
そのなかで日本髪の代表格と言ってもいい島田髷(しまだまげ)は一般的な髪型で、主に未婚女性が結ったもののひとつ。これは成人式にぜひ結ってほしいなと思います。つまるところ成人式とは少女が大人になる儀式。その成長過程において、お嬢様な雰囲気を醸し出すのにふさわしいものなんです(島田髷を結うまでは小さくてまるい、可愛らしい髪型を結っていた分、なおのこと……)。結婚すると島田髷は結わなくなり、丸髷にするのが一般的でした。だからこそ成人式のフレッシュなタイミングで……と思わずにはいられません。それに是非、古典柄の着物を合わせたら二重丸だと思います。
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髪飾りの名称
私自身、この自由な時代に生まれたことを生かして、身分や年齢という制限に縛られることなく(笑)、気分で結い変えています。日本髪の種類は全盛期だと180種類もあったと言われていますからもう遊び放題ですよね。「今日は若奥様やで」と大人の色っぽさを演出する日があれば「今日は娘やね」とうぶな少女になってみたり。そんなふうに自分に設定をつけて楽しんでいます(寝る時も「箱枕」という日本髪のまま寝られる、高台の枕を使って寝ることもあります)。
日本髪を結った時には写真に納めたくなるもの。おすすめは横向きもしくは斜め横。耳側の部位にあたる鬢(びん)の形の美しさと髷の形がよく写ります。記録写真でしたら後ろからも外せません。被写体として写るのであれば、鼻の位置は重要で、鼻の先が写っていることがポイントになります。正面から横向き、鼻の先が写るギリギリまで。黒目もちゃんと写るような位置に向けるのも大切です。
何かをしている途中の仕草で写るのもおすすめです。ふとした瞬間というものですね。歩いている途中とか、何かに手を伸ばしているところとか、傘を開く瞬間だったりとか。日本画も西洋画も、そういう一瞬を切り取って描いたものかと思っているので、雰囲気が出ます。ふとした瞬間で写るって、実際は結構難しいんですけどね。
私が被写体になるときは日本画を参考にすることもあります。個人的には女性の日本画家・上村松園が描く女性が好きですね。髪の描写が美しいというのもありますが、男性が描いたものよりも雰囲気がやわらかく、変な俗っぽさがないんです。松園自身「一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香り高い珠玉のような絵こそ、私の念願とするものなのです」と語ったそうですが、絵を見てはっとさせられるのはその想いが宿っているからなのかもしれません。写真を撮る一瞬、その瞬間だけでも私もそうなれたらいいなと常々思っています。
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