第14回 RF14-35mm F4 L IS USM
公開日:2021年9月27日
「RFレンズってどうなのかな?」「いい評判は聞くけど、なかなか手が出ないよね……」と気になっている皆さんのための連載です。フォトグラファー・中西祐介さんが、毎回1本のRFレンズを本気で試し撮り。〈買い〉かどうかを率直に判定します!
今回は、RFレンズの「F4 L IS」シリーズ3本を試す伊豆大島ロケ第3弾。お待たせしました! 超広角ズームの新製品「RF14-35mm F4 L IS USM」の登場です。これを待っていたカメラファンも多いことでしょう。大島の自然風景がどのような作品に昇華するのでしょうか。中西さん、いかがでしたか?
このRFレンズ〈買い〉ですか?
写真と語り:中西祐介(フォトグラファー)
今回のロケで初めて触れたRF14-35mm F4 L IS USM。まず注目したいのがWIDE端14mmの焦点距離です。EFレンズのEF16-35mm F4L IS USMではWIDE端16mmでしたから「2mm」の広がり。超広角の2mmは本当に大きな進化です。わずか2mmが見える世界を大きく変えてくれるはず。
意気込んで撮影に出発したものの、この日は朝からあいにくの雨と濃霧。全身とカメラに雨具を装着して撮影開始です。こんな天候では機材がコンパクト&軽量だと助かります。RF14-35mm F4 L IS USMの質量は540g。EF16-35mm F4L IS USMよりも75gも軽量化されています。わずかな差と思われるかもしれませんが、機材を携えて山道を歩き回るロケでは体力の消耗度が違うだけでなく撮影の集中力維持にも役立ちます。
森の中で雨に降られながらふと見上げると、天に向かって伸びる樹木が神秘的でした。超広角がもたらすパースペクティブを生かすためにWIDE端14mmで撮影。これが16mmだったらダイナミックな遠近感が出せなかったでしょう。雨雲から森に降り注ぐ柔らかい光をレンズがしっかりと受け止め、ハイライトからシャドウに向かう光のトーンを再現できました。
森を歩くと噴火で流れ出た溶岩が冷えて固まった壁を見ることができます。岩の隙間からはシダなどの植物が根を張っていました。雨で濡れた緑と岩のしっとりとした質感と反射する光の美しさを丸ごと写したいと思いました。
しかし、雨の日の森には想像以上に光が届かず暗い状況でした。こんなときは手ブレ補正機構を全面的に信頼して撮影します。RF14-35mm F4 L IS USMとEOS R6を組み合わせると協調ISにより最大7.0段分の手ブレ補正効果が得られます。今回は絞り開放F4、シャッタースピード1/25秒でシャッターを切りました。風があったので右側の葉は被写体ブレを起こしていますが、手ブレは抑制されています。
手持ちなので短時間にさまざまなアングルを探ることができました。三脚を使った撮影ではこうはいきません。さらにRF14-35mm F4 L IS USMの最短撮影距離は、なんと20cmになりました。これは本当にすごい。撮影時にできることの幅が格段に広がりましたね。
森を抜けると次第に天候は回復、昼頃には気温も上昇してきました。着ていた雨具とカメラ用のレインカバーをバッグにしまって歩行を再開。たくさん汗をかき、雨具で動きづらかっせいか、この時点で体力の消耗を感じていました。こんなときはコンパクトなレンズのありがたみを感じます。RF14-35mm F4 L IS USMは、取り回しが非常にラクでした。
ここは三原山山腹に広がる名所「裏砂漠」。日本で唯一の砂漠なのだとか。歩いている左端の人物にフォーカスを合わせてシャッターを切りました。ここにフォーカスポイントを持っていけるのはミラーレスEOS R6のメリットですね。フォーカススピードは快速で、スパッと合わせてくれました。
裏砂漠の上空を流れる雲を動画撮影してみました。ダイナミックなランドスケープの広がりを感じてみてください。
RF14-35mm F4 L IS USMのWIDE側14mmで撮影。EOS R6なら4K/60P動画のクオリティーでタイムラプス撮影も手軽に。
三原山の山頂付近に到着。歩いてきた道のりを振り返りながら火口を入れてWIDE端14mmで撮影しました。空が近くて雲の表情がよく見えます。
これまで超広角ズームレンズといえば、WIDE側の周辺画質に満足できないケースがありましたが、RF14-35mm F4 L IS USMは正直に言って期待以上の出来栄えでした。風景をはじめさまざまなジャンルで安心して超広角撮影を楽しめます。
RF14-35mm F4 L IS USMの特徴として、デジタルレンズオプティマイザ※は常時〈ON〉に設定されます。カメラボディーとレンズをセットとして考えることで、小型・軽量と高画質を高いレベルで同居させるキヤノンの意図が感じられます。色収差や周辺画質の低下を抑えた仕上がりを求める私にとってはメリットです。
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レンズの光学特性により生じる諸収差や、回折現象、ローパスフィルターに起因した解像劣化を補正する機能。
伊豆大島の東側に位置するパワースポット「泉津(せんづ)の切り通し」を訪ねました。圧倒的な存在感の2本の巨木がそびえ立っています。奥へと続く階段の道も印象的です。
WIDE側いっぱいの14mmで手持ち撮影。切り通しに入り、じっくり観察していくと巨木の根の迫力だけでなく、苔や土の質感、木漏れ日の美しさなどを全身で感じることができました。空から降り注ぐ光が土に反射して色が付き、それが空気に溶け込んでいく。現地で感じた要素を全てレンズを通して吸収したいと思いました。
RFレンズには空気中に漂う光、温度、湿度などまで含みながら結像してくれる印象を持っています。こんな神秘的なシーンではとても頼りになるレンズです。
泉津地域にある波治加麻神社(はじかまじんじゃ)。伊豆大島に三社ある旧郷社のうちの一つで、優しくもピリッとした空気が漂っていました。鳥居の前に立つと背筋が伸びるような気がします。
参道を歩くと杉の木が整然と並び、絨毯のような苔が一面に広がっています。そこに優しい陽光が降り注いでいました。WIDE端14mmのパースペクティブを生かして、まっすぐ天に向かって伸びていくような杉木立を撮影しました。シャッターを切るごとに、ゆったりとした時間の流れを切りとっていく感覚が芽生えます。
伊豆大島に来て感じたのは、森や山、海の風景から「島全体の呼吸」が聞こえてくるということ。その声に耳を傾けてみると都会では体感できない世界に触れられるような気がします。その感覚は、写真にも大きく影響するでしょう。RF14-35mm F4 L IS USMであれば余すことなく島の魅力を取り込めそうです。
伊豆大島の名産品といえば椿油。ヤブ椿の実から抽出される椿油はオレイン酸が豊富で、ヘアケアに利用されることで有名です。大正時代から続く高田製油所で、油を抽出する一連の作業を撮影させていただきました。製油所の四代目・高田義士さんに話をうかがうと、しぼりたての椿油はアヒージョなどの食用が特におすすめとのこと。
手間のかかる伝統製法で絞り出される上質な椿油の香りでいっぱいの作業所には、年季の入った機械や道具が並んでいました。撮影スペースが限られるので超広角ズームのRF14-35mm F4 L IS USMはとても便利。ISO感度を上げて絞り開放F4で撮影しています。
レンズを選択するとき私が最も重視しているのは、絞り開放から優れた描写をしてくれること。その観点からもRF14-35mm F4 L IS USMはとても満足のいくレンズです。フォーカス部分の自然なシャープさと緩やかにぼけていく雰囲気も気に入りました。
夕景撮影のために海岸線へ。ここで1時間ほど日が沈んでいく様子を撮影しました。少しずつ太陽が動いて光に色が付き、時間の流れを感じたのは久しぶりでした。特に印象的だったのは空が近く、雲の表情がよく見え、自然が発する声が聞こえたこと。ここでも雄大な自然を撮りたくてWIDE端14mmで撮影しました。
強い逆光でしたがRF14-35mm F4 L IS USMのおかげでフレアやゴーストが少なくシャープな写真に仕上がりました。画面周辺の画質も流れず満足いくものでした。
14mmから超WIDE域をカバーできるRFレンズの進化に感動したので〈買い〉です!
3回にわたりRFズームレンズの「F4 L」シリーズで撮影した伊豆大島の写真をご覧いただきました。レンズの魅力、伝わっていますか?
3本のなかでも密かに注目していたのは、今回のRF14-35mm F4 L IS USMでした。実際に使用する前は、「WIDE端14mmでIS搭載。それなのにコンパクトな設計なのは、どこか妥協しているのでは?」と心配していましたが、それは全くの杞憂でした。
いままで以上にWIDE、小型・軽量、しかも高画質。「欲しい!」と思っていた性能が全て詰め込まれていたのは驚きです。大三元こと「F2.8L」シリーズとはまた違う魅力があり、Rシステムのレンズ選択肢が大きく広がったのはうれしいニュース。ぜひ一度手にとっていただきたいレンズです。
その魅力を一言で表すなら、こういうことだと思います。
調布空港からわずか25分の空の旅で、伊豆大島の玄関口「東京大島かめりあ空港」こと都営大島空港に到着。この愛称は一般公募され2021年7月9日に決定しました。「かめりあ」とは大島を代表する花「椿」の英語名です。
写真提供:東京都港湾局
撮影協力:
一般社団法人大島観光協会