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EOS R5 宇宙へ|超小型衛星CE-SAT-IE×ミラーレスカメラEOS R5開発者インタビュー

イメージングビジネスの市場規模は非常に大きく、大きな可能性を秘めている。
キヤノンは、光学分野における撮影・画像処理関連で世界トップクラス。
その中核となるレンズ交換式デジタルカメラEOSシステムを活用することで、新たなビジネス領域が広がっている。人工衛星にEOS R5を搭載するプロジェクトもそのひとつ。
キヤノンとキヤノン電子の連携プロジェクトに携わった7人の開発陣に、宇宙への事業進出について語ってもらった。

出演者(右から):
IMG開発統括部門/福田浩一
IMG開発統括部門/渡辺義之
IMG開発統括部門/内田峰雄
IMG開発統括部門/浦上俊史
衛星システム研究所/稲川智也
衛星システム研究所/丹羽佳人
光学技術研究所/豆白優太

プロローグ 宇宙という新しい領域を開拓

EOSを人工衛星に搭載する計画はどのように始まったのでしょうか。

渡辺:人工衛星ビジネスを手掛けるキヤノン電子から、衛星に搭載する宇宙望遠鏡に「高画素のEOSを搭載したい」という要望を受けました。これは、反射望遠鏡という光学系でオートフォーカスを実現する、という難易度の高いものです。
そこで、キヤノンのカメラ開発部門として、組織を横断したプロジェクトを立ち上げたのです。
そして、完成したEOS R5搭載の超小型衛星CE-SAT-IEは、2024年2月17日にJAXA種子島宇宙センターからH3ロケット試験機2号機によって打ち上げられ、軌道投入および交信に成功して運用を開始しました。

渡辺義之さん

光学衛星の概要とEOS R5が選ばれた理由

CE-SAT-IEはどのような人工衛星なのですか。

稲川:主に地表を撮影することを目的にした光学衛星です。大きさは50×50×80cm、重さは約70kgの超小型衛星になります。
高度約670kmの周回軌道に乗っており、地球上の様々な場所を上空から撮影する機会があります。

搭載カメラにEOS R5が選ばれました。どのような点が評価されたのでしょうか。

稲川:EOS R5は、約4500万画素の高精細画像が得られます。そのため、地表の細かい様子を撮影でき、災害地の被災状況の確認、地図の撮影などに役立ちます。また、8K動画の撮影が可能であることも大きなポイントです。

稲川智也さん

EOS R5の優れた点 CMOSセンサー

EOS R5が選ばれた理由に高画素CMOSセンサーがあるとうかがいました。

内田:撮像素子であるCMOSセンサーは、一眼レフカメラのデジタル化が始まったころから自社開発で育ててきたキヤノンのキー技術の1つです。
現在、カメラにおけるキヤノンの高画素CMOSセンサーは約4500万画素です。これだけの画素数があれば、高解像度の静止画像が得られますし、8K/30P動画撮影に必要な画素数が確保されています。

内田峰雄さん

豆白:カメラ内でJPEG画像を生成できる点もEOS R5を使用するメリットです。従来の光学衛星に搭載されたカメラはRAW(現像処理前の画像データ)での撮影が一般的でした。そして、撮影画像はデータサイズの大きいRAWのまま地上に送られ、オペレーターが1枚1枚現像処理を行います。一方、EOS R5は映像エンジンDIGIC Xを搭載し、非圧縮のRAWに加え、圧縮方式のC-RAW(データサイズがRAWの約半分)、JPEGの3種類の画像データ記録に対応しています。C-RAWとJPEGは、データサイズが小さくなるため、限られた通信時間で、より多くの画像データを地上へ送ることができます。これは光学衛星を運用するうえで大きなメリットになります。

豆白優太さん

EOS R5の優れた点 デュアルピクセルCMOS AF

EOS R5のオートフォーカス機構はどのようなものですか。

福田:撮影用のCMOSセンサーに位相差方式と呼ばれる視差を用いたピント検出機能を持たせ、オートフォーカスを行う仕組みで、画面の広い範囲で測距できます。EOS R5では、新世代のデュアルピクセルCMOS AFⅡが採用され、画面のどこででも位相差測距を行えるように進化しました。

福田浩一さん

反射望遠鏡はピント合わせが難しいのではありませんか。

福田:反射望遠鏡は、中心に穴が開いたドーナツ状の主鏡と呼ばれるミラーで反射した光を、副鏡で反射させて、カメラの撮像素子に導きます。この主鏡がドーナツ状の形をしているために、反射望遠鏡の開口中央を光が通ってこず、ピントの検出が難しいとされています。また、反射望遠鏡は全般的に絞り値が暗いため、ピント合わせに必要な光束が限られるという問題があります。CMOSセンサーの受光素子を利用するデュアルピクセルCMOS AFⅡは、高密度に配置された全ての画素をオートフォーカスに利用でき、ごくわずかな視差を見分ける分解能が高いため、このように条件が厳しい場合にも素早く、正確にピントの検出ができるのです。

EOS R5の優れた点 堅牢性

EOS R5を宇宙空間で使用するために、どのようなことを検討されましたか。

浦上:使用条件が地上と大きく違うのは、まず、真空であること。それに伴い、放熱が難しいこと。放射線などの宇宙線への対応が必要であること。打ち上げ時の衝撃や振動に耐えることなどがありました。

浦上俊史さん

豆白:地上のように熱を空気中に逃がすことができないので、熱伝導を利用します。EOS R5のマグネシウム合金のボディーも熱伝導により、外部に熱を逃がしてくれます。CMOSセンサーブロックは固定し、センサーの裏に金属板を付けて外に熱を逃がす改造をキヤノン電子で行いました。

宇宙線への対策にはどのようなものがありますか。

豆白:EOS R5に放射線を照射する試験のデータを元に厚さ数mmのケース状のシールドを製作し、衛星に取り付けました。運用開始から1年以上経ちますが、カメラは正常に機能しています。

衝撃や振動への対策はいかがでしょうか。

豆白:振動試験機を使い、打ち上げ時にかかる大きな加速度や強い振動に耐えうるか実験を行いました。特別な対策は行っていませんが、実験では目標をクリアし、実際のH3ロケット試験機2号機の打ち上げにも耐えることができています。

浦上:もともとEOS製品はさまざまな撮影条件に対応するため、強い振動や低い気圧にも耐えられるように設計されているので、特別な対策を行わなくても、打ち上げ時に受ける加速度や振動に耐えられたのだと考えています。

CE-SAT-IEの優れた点

地球だけでなく、他の天体も撮影できるそうですね。

稲川:CE-SAT-IEは、姿勢情報を自らセンサーで把握し、高速で回転するコマ(リアクションホイール)の速度を調整して衛星の向きをコントロールします。月や星雲などに衛星を向ける際にも、この姿勢制御が使われます。細かな姿勢制御を行え、1ショットで広い範囲を撮影できる「エリアセンサ」方式を採用しているからこそ、他の天体の撮影も可能なのです。

CE-SAT-IEの反射望遠鏡

反射望遠鏡はどのようなものですか。

豆白:この衛星に搭載した望遠鏡はカセグレンタイプと呼ばれるもので、長い焦点距離を持ちながら、全長を短くできる特徴があります。ここに補正用の光学系を加えた、オリジナルの設計のレンズとなっています。
望遠鏡の性能を決める主鏡(いちばん大きなミラー)は口径40cmと大きなものです。キヤノン電子で設計し、キヤノン宇都宮事業所の工場で研磨してもらいました。
キヤノンはガラスレンズの研磨はもちろん、湾曲した鏡面の研磨に対しても高い技術を持っています。難しい鏡面加工を経て組み上がった反射望遠鏡は、EOS R5による高画素撮影が可能な高い光学性能を実現しています。

エピローグ


丹羽:現在、宇宙事業に地上の民生技術を活かせる機会はまだまだ少なく、参入すること自体ハードルが高いというのが実情です。キヤノンが民生用として育ててきたEOSの技術を、そのまま宇宙事業に使い、その性能を実証できた点は大いに評価されるべきだと考えます。

丹羽佳人さん

渡辺:キヤノンにはたくさんの事業部、ビジネスユニットがあり、各部門に分かれて日々研究開発を行っています。
今回の衛星プロジェクトは、キヤノンのイメージング事業本部のCMOSセンサー、オートフォーカス、メカといった部門を横断して協力をすることで初めて成功しました。
1つの大きな目標に向けて、部門の壁を越えて協力しあうことができる風土こそ、キヤノンの強みであり、技術を磨くことと同じように大切にしてゆきたいと思います。

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EOS R5 宇宙へ|超小型衛星CE-SAT-IE×ミラーレスカメラEOS R5開発者インタビュー
https://personal.canon.jp/ja-JP/articles/interview/developer-r5-inspace
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https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/interview/developer-r5-inspace/image/inspace720x444.jpg?la=ja-JP&hash=98FA99308D52B942D7045C97574C34D9
2025-06-30