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自宅で小さな森を愛でる。苔テラリウムで見立てる、大自然の雄大さ。

公開日:2021年1月25日

最終更新日:2021年11月25日

Text : Tsuyoshi Kawamoto
Photo : Tsuyoshi Kawamoto,Shuhei Miyanaga

家庭菜園や観葉植物、お花を飾るなど今あらためて注目される「自宅緑化」。Feel The Garden代表の川本さんが手がける苔テラリウムもその手段のひとつ。聞けば、その作り方やメンテナンスはとてもシンプルなもの。気軽さと癒しを併せもつ、いわば「自分だけのオアシス」。今回はアカデミックなその歴史含め、川本さんが苔テラリウムにのめりこんだ理由や、忙しい日々の憩いになるその魅力についてたっぷりとお伺いしました。

PROFILE

川本毅(かわもと・つよし)

Feel The Garden代表。「苔テラリウム」のある暮らしを提案。

忙しない日常に瑞々しさを

テラリウムを作りそれを楽しむことは、植物や石に触れ、それらを包む土を感じることとも言えます。たとえ些細な石や植物でもその配置や組み合わせによってたちまち光彩を放つ瞬間があります。その瞬間を見た時の喜びはまさに無類のものです。

ひとすじの砂は清涼な渓流の流れを現し、一塊の岩はガラス容器の中に潮風の通う入江を作り出し、苔は岩肌に歳月を感じさせます。

小さな苗木や平凡な石でも、ガラス容器の中でその魅力を最大限に引き出せる場所に配置すれば、その風景に必要不可欠な存在感を示すものです。小さな苗木も大木の姿を現し、小石も霧立ち込める山の奥の巨石となります。ひと盛の土は観る人の心に雄大な山を感じさせ、一握りの砂は渓谷の流れを思わせます。苔もまた木の根に千年の歴史を感じさせ、山肌に這って大森林の風景を作り出します。

それはまさしく自然の成せる技であり、その自然のたたずまいの真理を汲み取ることが出来たとき、それは忙しい現代に暮らす人々にとってこの上ない心の幸せだと思います。

道端の花が密かに咲いて、やがては色あせて萎びていくように、私達の生活もいつかは終わりが来るのですが、その限りある日々の暮らしの中にこそ身近な楽しみ、喜びをもち心豊かな生活を送りたいと考えています。

せわしなくそして緊張の続く現代の暮しの中に情緒豊かな、心のなごむ感覚の世界を実感させられることがあるとすれば、それは慌ただしい日々に追われている身にはまさしく楽しい憩いのひとときとなります。

そもそもテラリウムとは密閉したガラス容器の中で植物を育てることを指します。さらにここに自然の風景の縮図として表現する技法をFeel The Gardenではランドスケープテラリウムとして日々その表現に研鑽をつんでいます。

テラリウムという言葉を最近初めて耳にしたという方も多いかもしれませんが、この園芸手法の歴史は1800年代からと200年以上の歴史があります。

その起点となるのがイギリスの医師であり園芸家のナサニエル・ウォードによる発見 (ウォードの箱)。これにより、ガラスで密閉した容器の中では何日も水を与えなくても植物が育つことがわかったのです。

当時世界各地から植物をヨーロッパまで運ぶ為には船で何か月もかかるため、甲板の上で雨風にさらされる植物を生きたまま運ぶことは難しかったのですが、テラリウムに入れることによってそれが可能に。このことにより植物の研究が一気に盛んになり、ヨーロッパではテラリウムに入れて植物を室内に飾る流行が生まれました。

苔テラリウムが都会暮らしにもってこいな理由

振り返ること2013年頃、私はサラリーマンで毎日の業務に忙殺される毎日をおくっていました。毎月の目標数字に追われる営業職であった私の日々の心の安らぎと言えば趣味で育てている盆栽やバラなどの鉢植え。休みの日には朝からベランダで土いじりをしていたのですが都心への通勤が便利な場所に住んでいるとベランダがそれほど広いわけでもなく植物好きが植物を飾る場所は室内になるのですが、室内での園芸は採光の面等で難易度が高く、簡単に育てられるインテリアグリーンを探していました。その時に出会ったのが苔のテラリウムです。

苔のテラリウムであれば観葉植物よりも暗い場所でも対応出来て、水遣りも月に1度程度に抑えられるので時間の余裕が無い当時の私にうってつけでした。作り始めてみるとビンの中で様々な表現が出来るテラリウムの魅力に夢中に。次々に作っているうち作品を販売するようになっていったことが苔テラリウムにのめりこむきっかけになります。

テラリウムの語源は「テラterra=大地、リウムarium=場所」を組み合わせたものだと言われ、まさに植物を簡単に世話出来る生態系としての命そのもの。室内に植物を置きたいと考えた時に、観葉植物等ではある程度の明るさが必要であったり、数日に1度の水やり等の手入れの手間が発生します。

園芸の観点でこの手入れの手間は植物との生活を楽しむリズムとして欠かせないものですが、忙しく働く人にとっては時に煩わしく感じてしまうものです。

ではドライフラワーやプリザーブドフラワーなどを飾るとそれは一つの植物の取り入れ方として素敵なのですが、やはり成長しないために味気なく感じてしまうこともあるかもしれません。

テラリウムはその中間、「手間が無いけど成長する」そのような植物は都会で暮らす人々にとってこれ以上ない相棒になってくれます。

この相棒はガラス容器の中に植物を植えるという構造上、使用する素材から気を配る必要があり、慣れてしまえば難しいものではありませんが一般的とはまだ言えません。しかしながら最近では「植物育成用LEDの進化」と「用土の進化」によってより簡単にテラリウムを楽しめるようになっています。

そうしたことを通じて、『都会で暮らす人々に植物のある生活を提案し人生をより心豊かに充実させる』。これがFeel The Gardenの使命であり私の努力目標です。

好きをかたちにするヒント

マクロの世界をのぞいてみよう

好きなものを飾ったり、写真に残したり、アルバムにしたり。あなたの「好き」をかたちにするアイデアをご紹介します。

お菓子の世界

カラフルなマカロンのラスクをマクロレンズを使って撮影したかわいらしい1枚。

タンポポの綿毛

タンポポの綿毛の一本一本がはっきりとわかるような写真が撮れるのもマクロレンズならでは。

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自宅で小さな森を愛でる。苔テラリウムで見立てる、大自然の雄大さ。
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2021-01-25