片渕ゆりがインスタ リールに挑戦〈もっと、エモーショナル〉vol.4
公開日:2024年4月30日
フォトグラファーの片渕ゆりさんが最近出会った“残したい”と感じたシーンを撮影し、毎回1本のエモーショナルなInstagramのリール(Reels)として発表してきた当連載。当初、「私の撮影スタイルは、“被写体を探す”というよりは“情景に出会う”ことです。琴線に触れるエモーショナルな体験がまずあって、それを忘れたくないから撮っているのだと思います」と話していた片渕さんですが、これまで3回の動画制作をしてきて実感したのは、「“出会う”ではなく“探す”。まず作りたい動画をイメージし、そのための演出をし、作り上げること」でした。vol.3の最後、「最終回となる次回はポートレート動画を撮ってみたい」と語った言葉通り、今回は「人」をメインに入れたシネマチックな作品にチャレンジ。その描写力に感銘を受けたというCanon EOS R8を手に、連載の集大成とも言えるエモーショナルなリールを完成させました。その動画制作の詳細、そして片渕さんが4回にわたる連載から得た動画撮影の魅力を、紹介します。
PROFILE
佐賀県出身・東京在住。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いからフリーランスに。2019年から旅暮らしをはじめ、XやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。2021年、『旅するために生きている』を上梓。
1.片渕ゆりの〈もっと、エモーショナル〉——たどり着いた動画撮影の在り方
「ソフィア・コッポラ監督の映画で、コマーシャル撮影のために来日した主人公たちの淡い恋を描いた『ロスト・イン・トランスレーション』があります。異国として日本が描かれているのが面白く、そこから着想を得て作ったのが今回の動画です。初めて日本に来た女の子と、その子の目に映る渋谷を、1本の動画にまとめることを目指しました」。
「女の子がAロール、その子の目に映る渋谷をBロールとして動画を構成しようと決めた時、空を飛ぶ飛行機の動画からはじめよう!と咄嗟に思い浮かびました。実際に撮って編集していく中でも、その気持ちは変わりませんでした」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
2.ポートレート動画を撮るには——“写真集になるかどうか”
「動画撮影の一つのステップアップとして、漠然と“人物を撮りたい”と思っていました。どうやったら素敵な人物動画を作れるのか調べていたら、『ポートレート動画を短尺で撮る時は、写真集になるかどうかを意識する』という言葉が目に留まりました。各シーンをサムネイルで切り出した時に、1冊の写真集として成り立つかどうか」。
「渋谷にある橋の上で、後ろから女の子を撮影。動画撮影の基本に則り、基本的には今回もカメラ位置は固定で、動きのある被写体を選んだり、被写体に動いてもらったりして撮りましたが、この時だけは印象がよくなる気がして、近づきながら撮影をしました」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
「これまでは起承転結で考えてしまっていたのですが、写真集に置き換えてみたら、引きで空まで写し込んだ写真や後ろ姿、体の一部だけの写真も入れたいなど、違う視点から考えられるようになったんです。実際、その頭で改めて映画やドラマを見ると、一つのシーンを作り上げるのに何十テイクも撮っている。これはすごく大きな発見でした。これまで1ショットで満足していたのを、分解する作業に入りました」。
「一つ前のパーツ動画と同じ場所で、今度は寄りで撮影しています。“シーンをサムネイルで切り出した時に、1冊の写真集になるかどうか”を意識し、1シーンでもバリエーションをつけて何カットも撮ることが大事だと、調べていく中で気づきました」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USMゲがたゆたう水槽の外側に、一定周期で水が流れてくる。細かいたくさんの水泡とそこに反射する光がいかにも美しく、撮影をしました」。
レンズ:RF35mm F1.8 MACRO IS STM
3.実際の撮影に向けて——綿密な撮影リストを作成!
「クラウド型のメモアプリである『Notion』に、1シーンのポートレート撮影時に撮るべきテイクのチェックリストを作ることにしました。まだ動画に慣れていないのもあり、まずは思いつく限りの選択肢を上げ、最終的に『前』『後ろ』『斜め』『横』『引き』『寄り』『パーツの手』『パーツの足元』『パーツの足元スロー』『パーツの目元と口元』『小物として服・持ち物・アクセサリー』『角度違いで俯瞰とあおり』『アクションとして走る・振り向く・髪をかき上げる・小物を手に持つ』の項目が並ぶチェックリストに。また項目それぞれに、参考にしていた動画のキャプチャをスクショして添付。実際の撮影で、取りこぼしがないかどうか、撮りたいイメージで撮れているかどうかを確認するためのリストです」。
チェックリストの『パーツの目元』の撮影。スローモーションにし、より印象的に見せている。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
渋谷スクランブル交差点にて、チェックリストの「アクションとして走る」の撮影にて撮った動画。
レンズ:RF85mm F2 MACRO IS STM
4.よりシネマチックな動画を目指して——撮影時間を決める
「シネマチックな動画というものにずっと憧れがあって、最終回となる今回は、どうやったらよりエモーショナルでシネマチックな動画にできるか、さまざまな文献を読み調べました。多く書かれていたのが、“斜めに差し込む光がシネマチックな演出を強めてくれる”というもの。それで、撮影の時間帯は、斜陽が差し込む夕方に決めました」。
「夕日の時間帯で背景に映る玉ボケがドラマチックできれい。そっちをメインにするべく、背面モニターのタッチ操作で常にフェンスにピントを合わせ、一定時間撮り続けました。編集の時に、よさそうな部分を切り出しています」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
「背景の写真は1週間くらいかけて撮りためていきました。この時も夕方の時間帯を狙って、動画撮影に適した動くものはないかなと探していました」。ビルにできた陰影、夕暮れ時の最後に残る空の青がシネマチックの印象を強めている。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
「駅のホームで電車を待つ人たちの背景には、渋谷らしくビルが並ぶ。ふだん見慣れたシーンも光の印象が違うだけでとてもドラマチックになると実感した1シーンです」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
5.撮影テーマに合う&自分の動きやすさを考えて——撮影場所を決める
「場所は、動画のイメージを決めた段階から渋谷一択。ふだんよくいく場所なので、撮りたい動画に対するロケーションにもあたりがつけやすく、何より今回の設定として、アイコニックな観光地にぴったりだと思ったためです。撮影当日に偶然目に留まり撮影したシーンもありますが、ほとんどは事前に“ここでこの画を撮る”と決めていたものです」。
「渋谷のスクランブル交差点は、アイコニックな観光地として今回の動画に適していると、計画段階からここでの撮影は予定していました」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
「トランクを引く動画は、今回の動画テーマからも入れたいと思っていたものです。ここで待っていれば、誰かしらトランクを引いた人が通るだろうなとあたりをつけて、“待ち”のスタイルで撮影」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
「予め想定していた場所以外にも、偶然目に留まって撮影した場所もあります。この時はアシンメトリーな構図に惹かれ、撮影をしました。編集時、見事採用に!(笑)」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
6.ポートレート動画撮影——何度も何度も演じてもらう!
「ここまで準備を進めると、あとはもう実践するだけ!お願いしたモデルさんに何度も何度も同じ動きをしてもらって、バリエーションをつけて撮っていく。一つの場所でひと通り撮影が済んだら、その場でチェックリストと付け合わせ、撮れていないカットがないかどうか、また被写体の距離感や角度などが目指すイメージから離れてしまっていないかどうかを確認します。不足していれば、もちろんリテイク(笑)」。
渋谷スクランブル交差点にて、チェックリストの「横(から撮る)」の撮影。EOS R8のハイフレームレート機能を使いスローモーションに。「肉眼では些細なシーンも、ゆっくり見るとよりドラマチックな演出になると思う」。
レンズ:RF85mm F2 MACRO IS STM
渋谷スクランブル交差点にて、チェックリストの「アクションとして振り向く」の撮影。信号が青に変わるたびに、何度もモデルに交差点や歩道を歩いてもらい、準備した撮影リストの内容を完遂していった。
レンズ:RF85mm F2 MACRO IS STM
7.登場人物の女の子が見たであろう風景の撮影——ふだんと違う視点を考えた
「渋谷って、自分にとって超日常。コンビニのおにぎりをはしゃいで食べていたり、すごく粘ってスクランブル交差点の撮影をしていたりする観光客たちを見ている側でした。でも今回の動画では、そういう人達の目で渋谷を見たいと思いました。ふだんは人であふれていて、ごちゃごちゃしていて汚くて…というイメージの渋谷を、新鮮な目でどう撮れるか考えた時、昨年地上波で放送していたドラマ『silent』が頭に浮かびました」。
「地平線に凸凹と並ぶビルの印象も好きだし、遠景に見る渋谷の街はやっぱり美しい。そんなことを想像し、撮影場所に選びました」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
「同じ場所を長回しで撮影したのですが、次々に通り過ぎていく人々を、EOS R8はしっかりピントを合わせ続けてくれました。また、ふだんごちゃごちゃしているだけに感じる渋谷も、初めて見る人にとっては新鮮なのだろうなと想像。その点でも、EOS R8はとても雰囲気のよい、やわらかな描写がよかったです」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
「『silent』は大事なシーンが渋谷で撮影されていて、当時から映像へのこだわりが話題になっていて。確かにドラマで見る渋谷は、すごくきれいな場所に見えました。観光客の視点も想像し、ドラマで印象に残ったシーンを思い浮かべながらロケ地を考えていきました。また、自分が渋谷をよく知っているというのは大きくて。撮りたいイメージを渋谷のどこなら撮れそうか、知っている街だからこそできたことかもしれません」。
「動画最後の締めは、高いところから女の子が渋谷の街をスマホで撮影するシーンと決めていました。本当は“カシャ”っていう音で終わりたかったのだけれど、操作場面がなかなかいい動画にならず(笑)、撮った写真を液晶に表示することで落着しました」。
レンズ:RF135mm F1.8 L IS USM
8.Canon EOS R8とRF135mm F1.8 L IS USMの組み合わせは最高でした!
ドラマチックで、よりシネマチックな動画を撮る上で、EOS R8と望遠レンズRF135mm F1.8 L IS USMの組み合わせは最強でした! 135mmは、ポートレートを撮るために適した焦点距離だと思い使わせてもらったのですが、人物だけでなく、近影も遠景も、何を撮ってもやわらかくてきれいな空気感を勝手に演出してくれるんです。その描写が本当に素晴らしくて、今回の動画のテーマにもぴったりで、撮っているのは私だけれど、まさに他人の目を借りるような、ふだん見えているけれど見えていない世界を写し出してくれました。もう1本使った、RF85mm F2 MACRO IS STMも落ち着いた描写がとても素晴らしかったです。また、EOS R8も安定の素晴らしさ!フルサイズでありながらボディがとても軽いので、とくに鍛えているわけでもない私の腕でも、望遠レンズをつけて十分に歩き回りながら、撮影を続けることができました。交換レンズなど他にも荷物を持った状態でそれができるのは本当にすごい!と感激しました。ちなみに、RF135mm F1.8 L IS USM とRF85mm F2 MACRO IS STMはともに明るいレンズなので、白トビしないようNDフィルターを装着して使っていました。
9.動画撮影にチャレンジする連載を終えて
vo.1の時から、一番変わったのは私自身の心の持ちようです。写真はノンフィクション的な楽しみ方があるけれど、動画は違うんだなって。納得のいく動画を作るためには、事前に撮りたいイメージを持って、それに向けて香盤表など計画を立ててから撮影に入ったほうが、近道なんだなっていうのが、4回目でわかりました。それは同時に、動画ならではの “自分で作る”という感覚の体感でもありました。計画や撮影段階だけでなく、編集段階でも同じ。自分の視点がより強く深く反映されていくのが動画だと思いました。どんな音楽をつけるかでも、印象はガラッと変わりますしね。自分の演出や工夫の分岐点がたくさんある。これはまさに、4回という積み重ね、試行錯誤の中で知った感覚。そして今回やっと、上がってきた動画への手応えや、納得という部分を得ることができました。これまで、記録やメモ代わりに撮っていた旅の動画では、1回の旅をどうまとめたらいいのか想像がつかなかった。でも今は、どう撮っておけば短い旅の作品動画を作れるか想像がつくようになりました。その視野を持って、次の旅では動画にも挑戦してみようかなと思います。
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