このページの本文へ

命さえ惜しくないと思える。美しい星々を写しとるためならば。

公開日:2021年11月25日

最終更新日:2021年12月24日

Photo : Tsubasa Mizoguchi

世界は美しい。星空を仰ぐと、そんな言葉がふと口をついて出ると話すのは「星空の人」として、日本各地で星空の絶景を撮影する溝口翼さん。普段は東京で忙しく働きながらも、金曜夜からは車に乗り、飛行機に乗り、フェリーに乗り継ぎ、さらに歩いて……と、星空の絶景を求めてどこまでも旅に出る。それを知る友人たちは口を揃えて「命を削ってるね」と言うほど。それほどまでに溝口さんが星に魅了される理由とは。そして星の美しさを風景との妙で写しとる「視点」についても教えていただきました。

PROFILE

溝口翼(みぞぐち・つばさ)

星空の人。平日は会社員、休日は星空を追いかけてどこまでも行く人。風景と絡めた印象的な星空写真が特徴。

命を削ってでも撮りたいものがある

1年で最も寒く、暗い北海道の2月。

気温は氷点下23度まで下がり、あまりの寒さのため深夜の雪原では雪だけでなく木も真っ白。いわゆる霧氷状態に。そこで1人カメラを立て、1本の木にピントを当て露光が終わるのを待つ。静かで長い時間が経ってからファインダーを覗くと、そこに写り込むのは、孤立する白い木と一面が真っ白な世界。そして、その奥にはこぼれ落ちそうな満点の星空……。

まるで別の惑星に彷徨い込んでしまったかのよう。ぐっとこみ上げる感動とともに、人生で一番印象深いこの星空写真を撮った日のことは今でも鮮明に思い出します。

撮影した場所は帯広(北海道)のハルニレの木。年に何回か行きたくなる場所のひとつです。

星を撮る人にとっては共通かも知れませんが、場合によってはどれだけ離れていたとしても撮影に行ってしまうんですよね。とは言っても、私は会社員ですから実質1ヶ月のうち土日のみ、およそ2週間しか星を撮りに行けません。ですから予定はひとまず空けておいて、どこに行くかを直前に決めています。晴れてさえいれば、そこへ星を撮りに行く、というように。流石に北海道や沖縄などの遠方撮影は即決できないのでもう少し前から天気予報と睨めっこしますが(笑)。

けれども「どうしても!」という時は仕事終わりに飛行機に飛び乗って、車に乗り換えて、そのままフェリーを乗り継いで、最終的に徒歩で目的地に向かう……ということも。最も無謀な旅をしたのは、確か三大流星群のひとつのペルセウス座流星群を撮りに行ったときでした。かねてより「撮りたい、見たい」と強く思っていたものの本州では天気が絶望的ということもあって……。2、3日前に思い切って北海道行きのチケットを買ったんです。

この一件もそうですが私の星空撮影への行動力について、友人からは「ちょっとやばい」とか「命削ってるよね」と言われることもありますし、流石に自分でもやりすぎだなと思うこともあります(笑)。

その一方で労力をかけた分、ちゃんと裏切らない結果があること、想像を超えてくる絶景が待っているとわかっているので頑張れるところがあります。だからか基本的にどんな遠くにまで星空を撮りに行くことは苦になりません。延々と続く道のりでもこれから向かう、今までに訪れたことのない場所の、見たことのない景色が頭の中に浮かんで……楽しみが勝るんです。

実際、撮影予定地に近づくにつれて天気が良好で、コンディションの良い星空が見られる予感がすればぐっと車のアクセルを踏み込みたくなります。危ないのでもちろん堪えますが(笑)。

それからどんな夜更けの撮影でも、どんなに疲れていても満点の星空が頭上に広がっていると眠気がどこかに行ってしまうんです。どれだけでもただ眺めていられて……。

春夏秋冬移りゆく、美しい星空を追いかけて

僕の撮る星空写真は風景と絡めて撮ることが多い分、撮影場所の選定で写真の良し悪しが大きく決まります。これから星空写真を撮ってみたいという方におすすめなのは、関東近辺だと南房総(千葉)か美ヶ原高原(長野)ですね。

地図を見るとわかる通り南房総から南を向くと何もなく、美ヶ原高原も標高が高い分障害物が少なく暗い。その分、星が撮りやすい条件が揃っています。車での行きやすさもポイントですね。

いざ写真を撮る段階で意識するのは構図。たとえば「手前にある道から奥に視線を動かしていくと天の川に行き着く」写真をイメージした時、星の位置はあらかじめよく確認しておきます。

すこし話はそれますが、星空写真を撮らない人たちと話すと「天の川って七夕の時にしか見えないの?」と聞かれることがあるのですが、実際そんなことはありません。春頃であれば横に伸びるようなかたちで、夏になると垂直に近い姿で、秋のはじめだと時計の1時の角度にあがって見えるなど、四季を通じて移ろっていきます。

季節の変化を考慮しながら、撮影場所の風景と星空を重ね合わせて画角をイメージするために携帯アプリを使うのも手です。僕は現地に着くとストリートビューと星の位置をアプリで見て、細かな最終チェックをしています。

そうして撮影した写真のうち、思い入れの強いものはカレンダーにします(自己満足かもしれませんが……)。それを見て、今年も「撮りに行きたいな」と思っては、また撮りに行く。その繰り返しです(笑)。

小さな自分と大きな星空と

飾った言葉になってしまいますが、星空を前にすると「世界って美しいな」と強く思います。

小さい頃から宇宙や惑星が漠然と好きで、想像のつかない未知なるものへの強い好奇心がありました。社会人になってカメラを買ったのも「星空を撮ってみたい」という気持ちから。

どうしてこんなに星空に魅了されるのか考えると、星空と自分だけの空間で美しい世界と繋がり、自分が開かれるような、広がるような気持ちにさせられるからなのかもしれません。同時に世界から切り離されて自分と星しかない、どこまでも遠くまで連れられるような心地にもなります。

よくある話かもしれませんが、東京で働く間「空が狭いな」と思ったり、なにかに悩んでいたりしても、星空の下ではそんなことがちっぽけに思えてくるんです。悩みが解けていき、明日からどんなふうに生きていこう、なにをしようと前向きな姿勢になっていく。

だから星空を撮りに行くと、宇宙や星が、自分を強くしてくれる。そんな気がします。

好きをかたちにするヒント

忘れられない星空を求めて

好きなものを飾ったり、写真に残したり、アルバムにしたり。あなたの「好き」をかたちにするアイデアをご紹介します。

被写体ごとにテクニックを知ろう

夜空に広がる星空には天の川や流星、星座などがありますが、被写体によって撮影のポイントも変わります。事前にチェックして撮影に臨みましょう!

天の川を撮ってみよう

星空撮影のときには事前の準備が何よりも大切です。天の川撮影では場所選びはもちろんですが、使用する機材も星空撮影に適しているものなのか確認してみましょう。

A4E02DD925F14F66875D01599133C12A
命さえ惜しくないと思える。美しい星々を写しとるためならば。
https://personal.canon.jp/articles/life-style/itoshino/list/hoshizora
2
https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/life-style/itoshino/list/hoshizora/image/thumbnail-main.jpg?la=ja-JP&hash=817BFE7C069EC2187C7E2B39492A1F8F
2021-11-25