萩のレトロ地区に新風! 港町に誕生した「本と美容室」EOS R6 Mark II×本と美容室(萩市)
公開日:2024年8月8日
仕事や趣味、遊びのボーダーを軽やかに飛び越え、人生を愛(いと)しむ人を紹介する「itoshino」。この企画では、全国各地で「好き」をかたちにしている人のもとへitoshino編集部が訪問。その活動やライフスタイルをお伝えします。
今回登場するのは、新刊書店×美容室のユニークな新業態「本と美容室」萩店を出店したミネシンゴさん。もともと神奈川県三浦市を拠点に出版社「アタシ社」を営むミネさんが萩に進出する立役者となったのは、萩市に新しい種をまくビジネスを支援する「はぎビズ」のセンター長・獅子野美沙子さんです。「萩を日本一の面白い街にしたい!」との野望を胸に秘め、萩で事業を立ち上げたい人の“伴走者”として活躍中。
今回は、ミネさん&獅子野さんを訪ねて、フォトグラファー・根本佳代子さんと、萩の旅に出発しました。EOS R6 Mark IIで撮り下ろした写真・動画とともにご覧ください。
プロフィール
ミネシンゴさん
獅子野美沙子(ししの・みさこ)さん
島根県益田市生まれ。大阪芸術大学プロダクトデザインコース卒業後、メーカーに勤務。マーケティング、商品企画、プロダクトデザイン、ブランド立ち上げなどを経験。その後、化粧品メーカーでヘアケア商品のブランドマネジャーを担当した経歴を持つ。2020年、萩市ビジネスチャレンジサポートセンター「はぎビズ」センター長に就任。
萩市のレトロ地区に「本と美容室」がやって来た!
吉田松陰をはじめ明治維新の原動力となった英傑を輩出した山口県萩市。萩城跡を中心とする城下町エリアは全国的に有名ですが、いま注目のスポットは、かつて港町として栄えた浜崎伝建地区(伝統的建造物群保存地区)。一度は衰退した地域でしたが、このまちでチャレンジを始めた人のまいた種が芽を吹き始め、新たな店や事業が続々誕生しています。「本と美容室」萩店オープンの知らせを受けて、一路、萩へ──。
萩の城下町エリアといえば、夏みかんと武家屋敷のイメージ。そんな城下町の東側に位置し、港を中心に発展した浜崎地区は、かつて海運で栄えた商人のまちです。水産業、商業で繁栄し、漁師、商人、職人たちが暮らすにぎやかな地域でした。
主な輸送手段が船から鉄道の時代になると、まちの経済が衰退。しかし、藩政時代の面影を残す美しいまち並みは、浜崎の誇りとして大切に保存されています。
浜崎地区の目抜き通りを歩くと、レトロな建物が並びます。ここには江戸から明治、大正期に造られた商家の町家や土蔵が残され、いまも人々の暮らしが営まれています。2001年には、全国で60番目となる「重要伝統的建造物群保存地区」(通称・伝建地区)に指定されました。タイムトラベラー気分でスナップ撮影しながら、まち歩きが楽しめます。
2024年6月末、浜崎地区の一角に、新刊書店と美容室の両機能を備える「本と美容室」萩店がオープンしました。店主は、アタシ社のミネシンゴさん。もともと美容師ですが、尽きない好奇心と、美容への思いを伝えるために出版業にも進出した経歴がユニークな人物です。これまで神奈川県三浦市や真鶴町で、美容室や蔵書室カフェ、雑貨店などを展開してきました。
「書店はいま全国的に減少の一途を辿っています。そんな書店をサステナブルな形で守り、育てていくために編み出した新業態が『本と美容室』です」とミネさんは語ります。
「利用者が限られ収益性が低い書店と、誰もが必要とし収益性が高い美容室を掛け合わせれば、書店は維持可能です。美容室はお客さんを呼び込む装置であり、そこで書籍を販売すれば文化発信基地にもなります。浜崎は港町で、中と外の人が自由に行き交う開かれた歴史があり、旅人が帰ってくる母港でもある。『本と美容室』萩店も、そんな港のような場所にしたいですね」(ミネさん)
「本と美容室」萩店の店舗は、萩市が所有する明治初期の伝統的建造物です。長く使われていなかった建物の外壁、屋根、建具、土間などを丁寧に造り直し、美観を維持したままリノベーション。ここから浜崎に新しい風が吹く──。そんな予感のする空間です(取材・撮影時は未完成)。
萩や浜崎に縁もゆかりもなかったミネさんが、なぜこの地に出店したのか。「本と美容室」の業態に深い関心を寄せ、「萩の浜崎にこそ、こういう場所がほしい!」とアピールした人物がいました。
萩でチャレンジする人を心から支援する“伴走者”
「萩に必要なのは、『本と美容室』のような場所。ぜひ浜崎地区に出店を」と、熱量の高いメールを送って、ミネさんたちアタシ社の心を揺さぶった人物こそ、萩市ビジネスチャレンジサポートセンター「はぎビズ」のセンター長・獅子野美沙子さん。
はぎビズは、静岡県富士市発祥の「ビズモデル」型の経営相談所です。相談者の強みを見つけ、地元企業の売上アップや、創業支援に取り組み、地域と事業者をつなぎゴールに向かっていく伴走者。獅子野さんに会いに行った日は、いつもは静かな浜崎地区が、年に一度にぎわうイベントの日でした。
人通りの少ない浜崎地区に、県内外から多くの人々がやってくる特別な日。それが浜崎を舞台に繰り広げられる祭り「浜崎伝建おたから博物館」。各家に伝わるお宝の展示や、蚤の市、地元特産品の販売などが楽しめるほか、国指定史跡「旧萩藩御船倉」も公開されます(通常は非公開)。
写真左が、25回目を数えるイベントを主催する浜崎しっちょる会・事務局の岩崎政尚さん。岩崎さんは地元・浜崎で祖父が創業した印刷会社の3代目。まちなみの保護とにぎわいづくりに取り組んできました。その岩崎さんが、まちの若手として信頼しているのが、前出・獅子野さん(写真右)なのです。
獅子野さんとお祭り会場を歩いていると、「あっ、獅子野さん!」と声を掛けてくる方が多勢います。まさに萩市浜崎地区の活性化に取り組んできた、このまちのキーパーソンの一人なのです。
「私は島根県益田市出身で、東京の企業に就職し、企画やプロモーションの仕事をしてきました。でも、出産を機に人生を見つめ直したとき、自分のスキルを生かして地域のために働きたいと考えました。そこで巡り合ったのが、萩市とその周辺地域の事業者を支援する現在の仕事でした」(獅子野さん)
2020年にはぎビズのセンター長に就任、萩市に移住。萩のビジネスに伴走し、まちの活性化につなげてきました。浜崎地区での創業支援は「本と美容室」のプロジェクトで、4つめの事業となります。
「約5年間、このまちの方々と未来の浜崎について対話を深めるなかで、人々が前向きな気持ちになれる場所がほしいと考えました。美容室で外面から美しく、選ばれた本が並ぶ書店で内面も充実する。どうすれば地域をよくすることができるだろうと、いつも考え、まちの人とコミュニケーションしてくれるミネさんたちだからこそ、『本と美容室』に来てもらいたかったのです」(獅子野さん)
獅子野さんとの会話の途中ですが、祭りでにぎわうストリートで、なんと「お侍さん」に出会いました。萩市内のお好み焼き店「萩侍」店主・中元義詮さんです。前額部の髪を剃った月代(さかやき)は、カツラではなく本物。普段のライフスタイルから侍なので、特に変わったことをしている感覚はないそうです。もちろん萩の有名人。面白い人に次々出会える浜崎です。
お侍さんの背景は、浜崎の建物らしい町家の格子です。この建物は、築200年の町屋を再生した「舸子176(かこいちななろく)」。シェフの料理と、職人が作る和菓子とお茶が楽しめ、ギャラリーも併設する複合施設です。神奈川・鎌倉でモダンスパニッシュ・レストラン「古我邸」の経営者・新井達夫さんが、浜崎の古いまちなみを気に入り、2018年以降、宿泊施設やイベントスペースなどの新事業を興しています。
しっちょる会の岩崎政尚さんによると、10年ほど前に新井さんが浜崎に来てから、人通りが少なかった浜崎の“潮目”が変わったといいます。
左から「本と美容室」を運営するアタシ社の編集者/ライターの瀬木広哉さん、「はぎビズ」獅子野美沙子さん、同じくアタシ社のミネシンゴさん。
四半世紀以上、まちの保存と活性化に取り組んできた前出・岩崎さんたち地元住民の活動が、浜崎の土壌を少しずつ豊かにし、そこに新しいビジネスの風が吹き込む。そこに「はぎビズ」獅子野さんや「本と美容室」ミネさんらの力が結集して、次の時代をつくっていく。浜崎地区には理想的なまちづくりのダイナミズムがあふれています。
萩のポテンシャルを引き出して、かかわる人を幸福に!
萩市中心部は約4km四方のコンパクトな市街地に都市機能が集約されていて、鉄道やバスの交通の便もよく、どこへ行くにも自転車で移動が可能。通勤ラッシュとも無縁です。気候は温暖で、大きな自然災害や戦災被害にもあっていないので、江戸時代の町割りそのままの姿をいまに伝えています。
萩の武家屋敷が残る地区には、いまも鍵曲(かいまがり)と呼ばれる左右を高い土塀で囲み、道を直角に曲げた道筋が昔のままの姿で残されています。見通しがきかないようにして、敵から防御する工夫でした。この土塀は、夏みかんの木を風から守る効果もあるそうです。
幕末の志士たちを育てた吉田松陰ゆかりの地として、とくに歴史ファンには人気の萩。松陰神社の敷地内には、松下村塾や旧宅などの史跡が点在します。和傘タイプのおみくじが木々に揺れていました。
獅子野さんお気に入りのスポットは、オフィスから徒歩5分の菊ヶ浜。きれいな円錐形の指月山を一望できる白砂青松の海岸です。
「仕事で疲れた日の帰り道に、クラフトビールをテイクアウトして散策するのが最高です!」と獅子野さん。
獅子野さんの仕事ぶりを見て感じるのは、地域で暮らす人と人との出会いとつながりの先に、まちの発展やビジネスの可能性があるということ。都会から地方に成功モデルを持ってくるタイプの「地方創生」ではなく、地域の人の話を聞き、まちの人の気持ちに寄り添いながら、まちのために必要なものをまちの人々と共に探り当てる。そんな地道な作業の積み重ねです。
「1つ1つの点にすぎなかった事業が、地図上の面になって広がってきました。それが地域を元気にし、『萩って面白いよ』と聞きつけた外部の人と、地元の人がいっしょになって新しいことが始まる。それが地域の活性化につながると信じて、これまで走ってきました。やりたいことが次々に出てくるので、この仕事は奥が深いです」(獅子野さん)。
「本と美容室」に続く新たなプロジェクトも進行中だそうです。「私にかかわる人を幸福にしたい!」という信念と情熱で仕事に取り組む獅子野さんのまわりには、お互いの価値観を認め合う人たちが自然に集まってくるのでしょう。明治維新の先覚者たちを輩出した萩から、また劇的な変化が生まれるのかもしれません。
EOS R6 Mark IIで切りとる旅の終わりに。
今回撮影に使用したEOS R6 Mark IIは、AFの追従性が迅速かつ正確で驚きました。低照度の場面でも、対象にしっかりと追従してくれます。フルサイズCMOSセンサーの有効画素数は約2420万画素ですが、写真を見るともっと画素数があるのかと思うほど、細部までクリアな描写でした。これが技術の進化なのでしょうね。
今回の旅でメインに使ったレンズは、RF50mm F1.2 L USM。独特のボケ味が魅力的な一本です。手持ち撮影がほとんどなので、EOS R6 Mark IIのボディ内手ブレ補正機構には助けられました。特に効果を実感したのは、動画撮影時です。ご覧いただく動画も、一部手持ちで撮影していますが、安心感をもって撮影できました。
技術の進化によって撮影のハードルがぐんと下がるいっぽうで、撮影者の表現力や創造性が、より必要とされる時代になりました。EOSやRFレンズの進化に負けないように自分も進化しないといけない。身が引き締まる思いです。
根本佳代子(ねもと・かよこ)
福島県いわき市出身。会社勤務を経て、フリーのフォトグラファーに転身。ポートレート、スナップ撮影などで活動中。
写真展(個展)は、2022〜2023年、「光を紡ぐ」(キヤノンギャラリー銀座、キヤノンギャラリー大阪)、「光を紡ぐ/薄陽」(川風のガーデン)、「仄灯り」(CO-CO PHOTO SALON)を開催。身近にある微かな光を“希望”に見立て撮り続けている。
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