RF100-300mm F2.8 L IS USM インプレッションー写真家・奥井隆史
公開日:2023年5月18日
記録写真も、作品撮りもこれ一本
我々にとって軽さは重要。とにかく軽いほうがいいので、これまではRF24-105mm F4 L IS USM(約700g)に、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM(約1,570g)やRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM(約1,370g)など、いわゆる“便利ズーム”を組み合わせていました。でも、すごくいいシーンに出会ったときに「RF400mm F2.8 L IS USM(約2,890g)を持ってくればよかった」と思うことも少なくありません。選手が置かれた状況や心情を浮き立たせるために背景をぼかしたいんですよね。とはいえ“400mm F2.8 L”だけだと、レンズを変えないと引きの記録写真が撮れない。そんなときRF100-300mm F2.8 L IS USMなら、“400mm F2.8 L”より300g軽くなる上に、100mmのワイド側を使って記録も撮れる。そして、ここぞというときは背景をぼかした作品も撮れるので、機動力や取り回しという意味ですごく便利だなと感じます。
一脚なしで一日いける
実際、今日はずっと手持ちで撮りましたけど疲れませんでした。一脚がなくても全然いける。陸上競技は一脚がないほうがいいんです。カメラを自在に振れるし、ローアングルで撮ろうと咄嗟に寝っ転がったときも一脚を上に向ける必要がないので、構図の選択肢も広がりますね。
今後の組み合わせとしては、RF100-300mm F2.8 L IS USMをメインにして、RF24-105mm F4 L IS USMをバッグの中。大きな大会など、3本体制でいくならRF400mm F2.8 L IS USMかRF600mm F4 L IS USMを持っていこうかなと考えています。
驚きのAFスピード
今回使ってみて一番驚いたのは、AFのスピードですね。ものすごく速い。ズームでこの速さなのが本当にすごいと思います。連写時も最初からずっと安定していて、途中でAFが迷ってピントが抜ける感がない。ストレスなく撮れました。逆光時にピントが迷わなかったのも驚きでしたね。失敗カットが減らせます。ゴーストも目立ちにくいし、フレアもすごく改善されていると感じました。
手ブレ補正が(協調制御で6.0段分)効いているので、1/30秒の手持ちでもブレなく撮影できる。選手が引き上げていく姿を撮るときなどに可能性があるなと。スタジアムって、中央は光が当たって明るいけど、選手が出ていく隅のほうは暗い。中央なら1/2000秒でよかったのに、いきなり1/60秒で撮る必要があるんです。そんなときにブレなく撮影できるのはいい。いつも一気に連写して何枚か当たりを狙うのですが、その確率が絶対に上がるので。
この画質は使える。
エクステンダーのイメージが変わった
陸上にはハンマー投など、危なくて近づけない種目があるので焦点距離を稼ぎたいのですが、エクステンダーを使うとどうしても画質が落ちてしまう。だから今まで、たとえばRF400mm F2.8 L IS USMの距離を伸ばしたいときは、EOS R5につけてクロップしてきたんです。そのほうがキレイ。でも今回、エクステンダー RF2×を使ってみて、「いける」と感じました。RF100-300mm F2.8 L IS USMそもそもの画質が、EF300mm F2.8L IS II USMと比較にならないくらいよくなっている、というのもありますが、エクステンダーをつけても画質が相当いい。しかも、ピントも抜けないし、逆光時も迷わないし、エクステンダーのイメージが変わりましたね。“100-300mm F2.8 L”に2倍をつけると200-600mmのF5.6。これはかなり使えると思います。
撮りたいイメージが湧いてくる
初めての焦点距離でワクワクします。体操やスポーツクライミングに持っていこうとか、あれ撮ってみようとか、イメージがどんどん湧いてくる。僕はあまり撮影しませんが、野球の報道写真なんかぴったりじゃないですかね。陸上なら100mのゴールシーンを、内側からバシッと撮ってみたい。日本選手権の100mは画角的にドンピシャなんです。今はEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMやRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMで撮っていますが、やっぱり暗くて背景が写りすぎてしまう。このレンズなら、かつてないほど印象的なシーンが撮れると思います。
奥井隆史 (Takashi Okui)
1968年東京生まれ。1992年日本写真芸術専門学校卒業後、スポーツフォトエージェンシー「フォート・キシモト」に在籍。1996年よりフリーランス。陸上競技を中心にアウトドアスポーツやスポーツフィッシングを含め、さまざまなスポーツを撮影。「think TANK photo」「Angelbirdmedia」のAmbassador photographer。AJPS(日本スポーツプレス協会)・AIPS(国際スポーツプレス協会)会員。
2003年の日本選手権。
末續選手は200mで20秒03の日本記録を樹立。
同年の世界陸上では、
日本人初となる銅メダルを獲得。
その一部始終を撮影していたのが、奥井氏だった。
20年の歳月を経て、初めて顔を合わせた二人。
撮る側と撮られる側。
立場は違えど陸上を愛する二人に、
陸上と写真について尋ねた。
—末續選手が現役を続ける理由は?
末續:「続けられるから続けている」ですね。自分の大好きなことが、自分の人生を切り拓いていけるのなら続けようと。そこに理由をつけるなら、コーヒー屋さんがコーヒーを生み出すように、僕らアスリートもプロダクトを生み出すことができる。それが「人の心を動かす表現」で、その手段が肉体に既存しているんです。一生懸命な姿に感動するとか、単純に速くてスゴいとか、走る姿がキレイとか。その価値は時代とともに変化しますが、自分のために取り組んで、結果、誰かが喜んでくれる。それがアスリートの本質だと思うんです。この先は誰も価値をつけたことのない領域なので、自分で楽しんで志して、いずれ誰かに価値を感じてもらえたらと思っています。
—奥井さんが陸上の撮影にこだわる理由は?
奥井:体ひとつで、ひとりで、敵と、自分自身と戦っているところが好きなんです。競技中はもちろんですが、その前後の競技に向かっていく姿や、終わった後の表情を撮りたい。そこにアスリートの本質が現れる。スポーツというより、人を撮っている感じです。末續選手は日本記録を出したときと、銅メダルを獲ったときの勇姿を撮影していますが、そこから20年も経って、まだ現役で続けているのが本当にすごい。今日は、続ける努力とかすごさみたいなところを撮りたいなと思っていました。
—選手の内面はどう捉えるのか?
奥井:選手の情報は当然頭に入れて現場に向かいますが、アスリートはその日、その日でコンディションが変わるので、当日の体調や気分を理解できるように、とにかくよく観察します。同時に、太陽の動きや角度を計算したり、風がいいから準決でも本気出してきそうだとか、状況も把握して、何をどう狙うか考えます。そうしないと、形にはできても、上っ面な写真になってしまうので。
—撮られる側にとって写真とは?
末續:この仕事をしていると、写真は切り離せない存在です。僕はカメラマン任せではなく、一緒に写真を創り上げたいと思っていて。被写体が写真を理解すると、真剣なときでも、撮っていいよという部分が出せるんです。カメラを変に意識はしませんが、人に見られて初めて締まる動きもあって。そういう部分をあえて出していく感じ。そこを捉えてもらうと、お互いにいいと思える写真になりますね。さらに僕が気づかなかった瞬間を抜かれると「上手いな」と思う。自分でも走りながら、カメラでいう何百、何万コマを頭の中で描いて客観的に見てるので、それでも捉えられなかったものを、こう見てたんだって。今日も「あの高さから撮るんだ」とか、新鮮でした。
奥井:これが、そのときの写真です。
末續:ああ、こう見えるんですね。
この感じいいですね。孤独感というか。
奥井:そうそう。孤独感を出したくて。
末續:これは自分の体の善し悪しを
孤独に人間ドッグしている瞬間(笑)。
こういうのがいいんです。
—写真を通してこれから見てほしいものは?
末續:今日初めて、撮った写真を見せてもらう経験をしたんですけど、僕自身でさえ、あの角度、この角度って、まだ全然知らない自分がいて。それと同じようにスポーツも、人それぞれいろんな角度で見ていいと思うんです。僕は、僕という被写体の生き方を見せるので、皆さんには、それを勝利至上主義としてでも、表現者としてでも、人間としてでも、もっと気軽にでも、いろんな角度から自由に見てもらえたらと思います。
末續慎吾 (Shingo Suetsugu)
現役陸上選手。1980年生まれ。熊本県出身。五輪、世界選手権を通じ、短距離種目で日本人初のメダリスト。九州学院高等学校から東海大学、ミズノ、熊本陸上競技協会を経て、現在は自身のチーム「EAGLERUN」所属。星槎大学特任准教授。2003年世界陸上パリ大会で200m銅メダル。2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京の五輪代表。北京五輪では4×100mリレーで銀メダル獲得。2017年に9年ぶりに日本選手権に復帰。2018年に「EAGLERUN」を立ち上げる。最年長現役短距離選手として、多岐にわたって活躍を続けている。