PRO-G1 Special Interview 立木義浩 目が散る
公開日:2023年10月2日
公開日:2023年10月2日
コロナウイルス感染拡大によって、自由に撮影をすることができない状況にありますが、
まずはこの点について、何か思うことやメッセージなどがあれば、教えてください。
立木 自由はないかもしれないけれども、コロナじゃなくても、自由がないと思っている人はいるわけじゃない。自由があってもなくても写真は撮れちゃうわけでしょう。自分でそう決めればいいんだから。それはエクスキューズだよね。撮りたくないから言っているんじゃないの。どうしても撮りたいものがあるならば、100年に1度の疫病だとしても、そこが戦場だとしても、撮るやつは撮るでしょう。それが周りの人に迷惑をかけるような行為だったらダメだけど、常識の範囲内で考えてシャッターを切るわけじゃない。池澤夏樹という作家が「写真というものは意味がなくても面白いんだよ」と言っていたけど、それが本質だと思ったね。山がその形をしているだけで見るに値する。上手いとか下手とかで悩んでいる人たちにとって最高のエールだと思うんだよね。
これまでは写真を撮って、プリントをして見せることが、1つの写真のスタイルだったと思いますが、昨今はSNSを中心に画面で見ることが最終目的となっています。そのような状況をどのように感じていますか?
立木 渋谷ヒカリエで上位入選者にプリントをプレゼントしたときに、「うわぁ、こんなに写真ってキレイなんですね」と言っているのを聞いて、ちょっと驚いたね。多分、その人はプリントをした経験がないんだろうね。育ち方が違うって言えばそれまでだけど、手の中に入ってしまうようなスマートフォンの画面で見るのとは違う、プリントを反射光で見るという原始的な方法の良さも知ってもらいたいよね。写真をこうして手でさわってみると、やっぱり指先から写真の神様が入ってくるんだよ。大げさに言えばね。そうして全体を見て、興味のある部分を手前に引き寄せてじっくりと見ることが面白いんじゃないかな。
いわゆる銀塩のケミカルなプリントと、インクジェットによる表現はどこか違うところはありますか?
立木 銀塩は暗室作業によって露光をするわけじゃない。現像液の中に定着液をどのような温度で混ぜるのか、さらに定着液を水洗する必要もある。そういう過程を経て、やっと1枚できあがるわけじゃない。つまり、すごく不確定な要素が集まっているんだよね。オンリーワンという意味では価値があるけど、それをいい写真だねと言っていたわけじゃない。インクジェットになると、決まりモノだよね。ご提供いただいたドットで全部を作ってくれる。だから、同じプリントを複数枚、作るときは圧倒的に便利だよね。アナログとデジタルであって、同じものじゃないんだから、フィルムに近づいたとか、フィルムを超えるとかじゃなくて、別物だと思って、それぞれを味わえばいいんじゃないのかな。
今回、ギャラリーとして選んでいただいた5枚の中には、フチなしとフチありの両方がありますが、フチのありなしによる効果をどのように考えていますか?
立木 銀塩のときはノートリミングというか黒いフチまでプリントしていたわけじゃない。その流れが残っているっていうこともあるね。それとは別に商品化するならば白フチがある方が分かりやすいということもあるね。だけど、個人的にはフチなしの方が写真の匂いが濃いよね。
立木さんは現在、メインとしてimagePROGRAF PRO-1000を使われていますが、今回のPRO-G1はどのような印象を持ちました?
立木 PRO-1000は12色だから、それに比べると2色少ないじゃない。広告のポスターで特色を2色使ったよ、といったら「うわぁー、すごいですね」といわれるわけよ。CMYKに特色2色だから、6色しかないわけでしょ。だったら、10色もあったら十分なんじゃないの。この雑誌(デジタルカメラマガジン)だって、普通に4色なんだから。ごちゃごちゃいう前にプリントしてみた方がいいよね。今回の新製品(PRO-G1)はPRO-1000と遜色ないクオリティーだと思うよ。2色の差はあまり感じないぐらいにキレイだから。
最後に、これからインクジェットプリンターでプリントを楽しんでみたいと思っている人にアドバイスがあれば、お願いします。
立木 撮ってきたもの(写真)を再び見返してみる機会だと考えてみたらいいんじゃないの。まずはサムネイルでいいから小さくプリントする。このときは特段、高い紙である必要はないよ。お金が余っ ている人だったら別だけど。そこから、いいと思ったものを2Lぐらいに出して、最後にA4とかA3ノビで大きくプリントしてみる。そうすれば、パソコンやスマートフォンの画面の中だけじゃなく、手に持てる写真の魅力を感じてもらえるんじゃないかな。
立木義浩
Yoshihiro Tatsuki
1937年、徳島県・徳島市の写真館に生まれる。母・立木香都子は、NHK朝の連続テレビ小説『なっちゃんの写真館』(1980年)のモデルとしてその半生を描かれたことで知られる。1958年、東京写真短期大学(現・東京工芸大学)技術科卒業。その後、広告制作会社アドセンター設立時にカメラマンとして参加。1965年『カメラ毎日』で掲載された『舌出し天使』が話題となり、一躍世間の注目を集める。1969年、フリーランスに転身。女性写真の分野を中心に、多く著名人を撮影。同時に世界中でスナップ写真を日常的に撮り続け、多くの作品を世に送り出す。その一方、広告・雑誌・出版など幅広い分野で活動し、現在も現役カメラマンとしてシャッターを切る。主な受領歴に、日本写真批評家協会新人賞(1965年)、日本写真協会賞年度賞(1997年)、日本写真協会賞作家賞(2010年)、文化庁長官表彰(2014年)などがある。