このページの本文へ

RF28-70mm F2.8 IS STM |開発者インタビュー
最新技術が凝縮された小型・軽量のズームレンズ

キヤノンが新たな映像表現の拡張を目指し発表したのが「EOS R システム」だ。
EFマウントの伝統を継承しつつ、「ショートバックフォーカス」の利点を活かした多彩なレンズ群が、RFレンズとして発売されている。
今回、そこに新レンズ「RF28-70mm F2.8 IS STM」が加わった。開放F2.8の明るさを持ち、小型軽量で「快速・快適・高画質」を実現している。

Lレンズに匹敵するような光学性能をいかに実現したのか。
「沈胴式」というアイデアを含め、開発者がどのような思いで挑んだのかを、4人の担当者に聞いた。
また後半では、開発者自身がこのレンズで「どのような写真を撮りたいのか」も尋ねた。

構成・インタビュー:坂田大作(SHOOTING編集長)
出演者(左から):
イメージング事業本部/商品企画 野々村一起
イメージング事業本部/開発 萩原泰明
イメージング事業本部/開発チーフ・メカ設計 小川敏弘
イメージング事業本部/商品企画 福田恭平

開発者インタビュー #01

明るいF2.8固定で、手が届きやすいズームレンズを作りたい

まずお一人ずつ、担当されている仕事を含めた自己紹介をお願いします。

福田 商品企画の福田です。私はRFレンズのラインアップや商品のコンセプト、ターゲットユーザー設定など、商品開発上は上流に当たる企画業務を担当しています。

もともと入社した時はレンズの開発部署に在籍し、電気設計を担当していました。基板設計や、ファームウェア(プログラム)の開発ですね。仕事を続ける中で、私自身の趣味がカメラであったこともあり、商品全体を見る業務に興味が出て、商品企画へ異動して現在の仕事をしています。

福田恭平さん

ありがとうございます。野々村さんはいかがですか。

野々村 私も商品企画部に所属しています。部署としては福田の隣になります。主にレンズの採算性の管理や仕様(スペック)の管理、価格決定、レンズの名称を決めるのも私の部署でやっています。

私は入社が2019年なのですが、もともとカメラが大好きで(笑)、カメラメーカーしか就活しませんでした。入社後は、ものづくりの会社に入ったので「工場で仕事がしたい」という希望を出しました。それで3年間、カメラを製造している「大分キヤノン」で仕事をして、その後もともとの希望だった商品企画へ移りました。

野々村一起さん

大分で製品を作られていたのですね。

野々村 そうです。カメラを作る現場で生産管理などの仕事をしていて、本社に戻って今の仕事に就きました。

商品の仕様や価格ということは、技術を結集した製品を最終的にどのように売っていくのか、重要な部署ですね。

野々村 はい、そう思います。採算性を見ている課なので、ユーザーのことを考えますと「この機能は入れた方がいい」とか、「あの機能も外せない」となるのですが、仕様と価格のバランスをとらないと商品化ができないので、そういったところをチェックしています。

ユーザーにも喜ばれ、商品の利益や採算性も成り立たせないといけない。その両方をバランスをとりながら商品化をしていく仕事です。

ありがとうございます。小川さん、お願いします。

小川 僕は「RFレンズの開発チーフ」と「メカ設計者」の、二足の草鞋で仕事をしています。

今回この「RF 28-70mm」の開発チーフを担当しました。それと同時に実装部品の設計もやっています。現役の野球選手が監督も兼ねている、という感じでしょうか(笑)。

もともと入社したときから交換レンズを担当しているわけではないんですね。キヤノンはカメラとプリンターというイメージがあると思いますが、僕は最初プリンターのメカ機構を設計する部署に配属されました。その後、コンパクトデジタルカメラの設計部署へ移り、「EOS R システム」のプロジェクトが立ち上がる前までは、コンパクトデジカメの本体、レンズ鏡筒の両方を担当していました。

「EOS R システム」のプロジェクトは、30年ぶりにEFからRFという新マウントを作るということで、かなり大がかりな計画だったのです。その時にメンバーの一人として召集されて、今の交換レンズの設計を始めました。

小川敏弘さん

カメラボディとレンズ、両方の気持ちがわかるプレイングマネージャーですね。

小川 そうですね。レンズだけに関わっていると「カメラ側は何をやっているのか?」とか、カメラ側からすると「レンズのラインアップはどうなっているんだ?」とか、気持ちの齟齬が生じがちです。僕はどちら側の開発の大変さもわかるので、開発チーフとして、そういうバランス感覚は活かされているのかなとは思いますね。

ありがとうございます。萩原さん、お願いいたします。

萩原 光学設計を担当しています。光学設計というのは説明が難しい仕事なんです。一般の方の中には、この筒の中にレンズが1〜2枚だけ入っていると思っていらっしゃる方も多いんですよね。

小川 ほんとに?(笑)。

萩原 そう。虫メガネみたいなレンズが1枚だけ入っていると思っている方がけっこういらっしゃいます。社外で「レンズ設計をしている」という話をすると、「えっ、なにそれ?」と、よく聞かれます。

萩原泰明さん

レンズの構造に興味のない方にとっては、覗いても透明度が高すぎてわからないですね。

萩原 平均的なRFレンズは、内部にレンズが12〜13枚入っていて、その形や並び順、移動方法を決める仕事をしています。

5つや6つのグループになったレンズが鏡筒内部で動くのですが、まさかレンズが鏡筒の中でばらばらに動いているとはほとんどの方は知らないと思います。そこの関係性を決めています。

もともとカメラとか写真が好きでキヤノンに入社しました。当時はフィルムのコンパクトカメラのレンズ設計から始めて、デジタル化した後はコンパクトデジカメ、その後ビデオに移り、ネットワークカメラなどを経て、「EF-Mレンズ」というミラーレスカメラ用レンズシリーズを手掛けました。

その後、EFレンズの開発を経て「EOS R システム」のレンズ開発が始まり現在に至っています。

RF28-70mm F2.8 IS STM

「RFレンズ」も単焦点、ズーム等多数あります。焦点距離の近いところで言うと「RF24-70mm F2.8 L IS USM」や「RF24-105mm F4 L IS USM」等のレンズがありますが、Lレンズとも違うこのズームレンズの開発意図やターゲットについて教えてください。

福田 いまお話があったように、24-70mmには F2.8固定のLレンズがあります。このレンズはLレンズとして市場から高い評価をいただいている一方、お値段やサイズ・重さへのハードルが高いという声も聞こえていました。本商品は「F2.8固定のレンズが欲しいが、Lレンズには手が届かないというユーザーがいるのではないか」と考えたことが発案のきっかけです。

キヤノン以外のメーカーも、F2.8固定でコンパクトなズームレンズを発売されています。またミラーレス時代になりカメラボディがコンパクト化する中で、相性の良いコンパクトなF2.8固定のズームレンズを出すことによって、今まで「F2.8固定はいいけれど、大きくて重いよね」と、躊躇されていた方々に使っていただきたいとの思いでスタートしました。

野々村 この時点ではまだざっくりですが、最初に商品コンセプトの企画をする福田の部署で「こんな感じの商品が欲しいよね」という意向があって、私が受け取って具体的に商品化の目標を立てます。

まずは「小型・軽量で、F2.8固定を達成する」というのが前提なのですが、それをいかにお客様が購入しやすい価格で出すか、というところも重要なポイントです。できるだけ手が届きやすい価格を実現するために、開発部門がコストダウンを進め、同時に様々な技術的な工夫をしていったことで、魅力的なレンズにできたのではと思っています。

先に大枠の仕様や想定価格を設定してから、開発部署に流れていくのでしょうか。

福田 コンセプトと予算、ターゲットイメージを伝えて、開発部署の方でざっくりと設計したものが、「イメージと合っているのか」を擦り合わせていきます。それで、よい方向でまとまりそうなら、本格的に開発のGOを出す、という流れですね。

企画が行き詰まる中から生まれた「沈胴式ズーム案」

小川 僕の記憶では、最初はなかなかスムーズにはいきませんでした。「標準ズームでF2.8固定、小さく、軽く、安く」と、希望だけは商品企画部門から開発部門へおりてきましたが…。

「言いたいこと、全部言ってくる」、みたいな(笑)。

小川 そうです。もともとの構想では、沈胴式は想定せずに、「RF24-105mm F4 L IS USMや、RF24-70mm F2.8 L IS USMとほぼ変わらないサイズ感になりますよ」と伝えていました。「でもそれならすでにF2.8固定も、F4固定もあるじゃないか」と。そこに同じようなものを追加するのはどうなのだろうと…。

福田 価格以外のポイントで差別化が図られないのでは商品化は難しいかなと、少しモヤモヤしていた時期でした。

小川 僕は「企画がなくなるのかな」と思っていたので、開発として「沈胴式はどうか」という提案をしたんです。キットレンズには沈胴式もありますが、F2.8固定のハイアマチュアを想定した製品に導入するという発想自体がなかったのです。

そこで、サイズが大きいほうのプランAの商品化が難しい場合、沈胴式で小型化するプランBで、「こういうのもありますよ」と、モックを2種類作ってプレゼンしました。

左側の2本が、小川さんが社内プレゼン用に製作したモック。

すると、半ばやぶれかぶれだったプランBが、小型化のメリットも得られるということで、企画を担当する福田の部署からOKが出たんです! 

小川さんがダメ元で提案した「沈胴式」が採用されたのですね。

小川 そうです。このレンズは小型・軽量化を優先する、ということですね。それがこの製品の生命線だと思いました。そこが明確になったことで、その後の開発は方向性がブレずに進みましたね。

沈胴式にするかしないかで、画質の変化はあるのでしょうか。

小川 機構の違いだけで、画質自体に差は生まれないです。全長が縮むと、当たり前といえば当たり前ですが体積が減るので、軽くできます。当初は540g前後でシミュレーションしていたのですが、実際の製品では500gを切っていますので、想定より軽くなっています。

野々村 このインタビュー前に資料を見返していたのですが、最初は「590g」と言われていました。他社と比べて少し重くなっていて、「そんなところかな〜」と想像していたのですが、最終的には500gを切るところまで軽くなったので、ありがたかったです。

小川 どこで間違えたのかな(笑)。計算にだいぶ差があるね。

萩原 「ISがあるから重くなる」という思い込みもあるかもしれない(笑)。

小川 やはり過去に発売された製品よりも技術が進化していて、IS自体も軽くなっているのですよね。

萩原 光学設計の方では、この製品案が出る以前から検討はスタートしていました。F2.8固定のLレンズはプロ御用達なのですが、「F2.8固定だけれど、もう少し小さくて安いレンズはできないものか」という検討を進めていました。

ただ当時の技術では難しい部分もあり、企画を出しても様々な条件で折り合いがつかず「頓挫するのかな?」と思っていたところ、小川さんが各部署をうまくまとめた感じですね。

私は沈胴の話は途中まで聞いていなかったですよ(笑)。

沈胴案は途中から出てきたのですね。

小川 企画を通すための苦肉の策でしたから(笑)。

野々村 それが結果的に今の商品に繋がっているわけですよね。

萩原 「これ(沈胴式)で話が決まったからよろしく」って言われましたが、「ISも入れると、そんなにうまくいくわけないのでは?」と思いましたね。

小型化やF2.8固定、光学的な性能、レンズの枚数や構成など様々な課題がありますね。

萩原 小さい筐体の中に詰め込まないといけないので、できることの制限があるわけです。「その中でどうやって光学性能を出していくか」、ということになります。

社内だけならまだしも、他社の競合製品の光学性能とかも当然意識しますし、小さい筐体の中にISやフォーカスの光学系を詰め込み、画質もミラーレスらしい高画質が求められます。このレンズの立ち位置・バランスについて、難しい判断を迫られます。

前玉に贅沢な大口径「UDレンズ」を搭載

前玉にUDレンズを採用されたと伺いました。

萩原 そうですね。一番前側に「UDレンズ」という高価なレンズを使いました。普通は内側の方がレンズ径が小さくなるのでそこに配置します。大きければ大きいほど販売価格も高くなりますから。でもコンパクトで高い性能を出すために、思い切って大きなUDレンズを前玉に使いました。

緑がUDレンズ。一番前側に大口径UDレンズを配置している。下はテレ側にズームしたところ。このUDレンズが収差を効果的に補正している。

小川 この一群(一番前側)に「大口径UDレンズ1枚だけ」というのは、非常に珍しいです。

通常は一群というのは、2枚か3枚構成になっていますが、ほんとに1枚だけなのです。これが光学性能を高めつつ、全体をコンパクトにするのに役立っています。この「光学の解」を導き出すまで、全体の枚数とか配置も時間をかけて光学とメカでやりとりしましたね。

萩原 正確に言うと、UDを前に持ってくるというのはRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM で初採用され、前玉1枚という構造はRF24-105mm F4-7.1 IS STM で採用された実績があります。RF28-70mm F2.8 IS STMはこの両方の良いところ取りをしたレンズです。

「RF24-70mm F2.8 L IS USM」という銘レンズがあります。そこから技術的にも進化してきていると思いますが、具体的にはどういうところでしょうか。

小川 メカ系は確実に進化しています。RFレンズは最初に4本発売したのが第一世代とすると、その後も進化は続き、このレンズでまた「新しい世代に入ったな」という感じはします。

ISを交換レンズに搭載すると、「大きく、重くなる」というのが常識なのですが、実際RF28-70mm F2.8 IS STMが大きくなっているかといえば、そうでもない。EF時代の大三元レンズ「EF24-70mm F2.8L II USM」はISが搭載されていませんが、このISを搭載した「RF28-70mm F2.8 IS STM」の方が、むしろ大幅に小さく、軽くできているのです。これはISユニットの進化が貢献しています。

技術的な話になりますが、ISのレンズを動かす際に、それを支えるメカの姿勢がどうしても乱れてしまいます。今回はそのISを構成する一つ一つの部品の重心を正確に計算して、その配置を最適化しています。重心がピッタリ一致するように配置し直しているので、理想的な設計になっています。

「RF28-70mm F2.8 IS STM」には小型化したISユニットを搭載している。

ISは、キヤノンの中でも長年引き継がれてきた技術ですが、ちょっとした革命的なことが起きています。理想的な設計で小型化が可能となり、このサイズで500gを切る重量に収めることができています。

光学設計部門の上長からは「ISが本当にそんなに小さくできるのか」と、何度も確認されました。「何か見落としがあるんじゃないか」と(笑)。でもそれは、ここまでに進めてきた様々な要素検討や下準備があって、「満を持して、この機種で搭載します!」ということの提案です。それが上手くいったのではないかと思います。

各部署で開発途中の情報が、社内で共有されるのは難しいですよね。小川さんのように縦と横を繋ぐ役割は重要だなと感じます。

萩原 光学側では確かに「ISが小さ過ぎるのではないか」という議論というか、疑問は出ていましたね(笑)。後ろ側のレンズ構造はこれまでの製品と似ているのですが、IS用のレンズは全然違うところに配置していてレンズ自体が軽くなっているんです。そこに小型化されたISのメカを入れることで、この製品外径は実現できています。

ISのメカが小型化されることで全体の設計に大きく貢献しているのですね。

萩原 そうです。それと「リードスクリュータイプのSTM(Stepping Motor)」というフォーカス機構も進化しています。このレンズに搭載しているフォーカス機構は、従来動かしていたレンズよりも重量的には倍くらい重いレンズも動かせるほどパワーアップしています。

上位機種のレンズにはUSMを採用してきました。これはパワフルではありますが大きくて高いんです。それを、小型なSTMで倍くらいの重さを動かせるように進化したというのが、このコンパクトさに貢献しています。

実は最初に「こういう仕様で作りたい」と考えていた時には、まだこの重さのレンズは動かせなかった。だから5年前に製造していたら、もう一回り大きな筐体になっていたはずです。今回は、様々なものの技術的進化が揃ったタイミングに設計のGOが出て、そこに沈胴式のアイデアも入り、全てが凝縮された結晶と言えるかもしれません。

STMとは、ステッピングモーター(Stepping Motor)の略称。
リードスクリュータイプとギアタイプがあり、リードスクリュータイプSTMは静止画撮影では静かで高速なオートフォーカス、動画撮影では静かで滑らかなオートフォーカスにより、快適な撮影を実現できる。

ISやSTMの技術的進化が小型化のポイント

リードスクリュータイプのSTMは以前からある技術だと思いますが、数年前のものと今回では具体的に何が進化しているのでしょうか。

小川 通常のSTMはオープン制御なのです。簡単に言うと、モーターを決まった速度で回して、決まった位置で止めます。すごくシンプルな制御です。それが今回のSTMにはモーターの回転数を読み取るセンサーを入れています。

電気自動車もそうですが、モーターの回転数を読み取ることでより高度なフィードバック制御が可能です。キヤノンの交換レンズでも望遠ズームやマクロレンズでは稀に、こういう高度な制御をするフォーカス機構を入れていましたが、それを初めて標準ズームに搭載しています。「モーター制御の工夫で、今までできなかったことをできるようにした」ということですね。

萩原 光学系の設計は一番最初に始まるので、そこの計算を間違えると取り返しがつかないというか…。STMが倍の重さのレンズまで制御できると聞いて、「ほんとにそれで設計していいの?」って、何度も確認しながら進めましたね(笑)。

小川 当初は「ほんとに大丈夫か」って、色々な部署に疑われていました。そもそもこの大きさ(小ささ)で企画を通しているので、「大丈夫です。やります」しか言えなかったです(笑)。

少し戻りますが、沈胴式タイプのメリット、デメリットって、どういうところでしょうか。

福田 速写性を求めるかどうか、がポイントです。沈胴式でないレンズはスイッチを入れたらすぐに撮ることができますが、沈胴式では難しい。一方で沈胴式は小型・軽量で持ち運びが便利になります。そこをしっかりと差別化できたところが、このレンズの良い点だと思います。

プロフォトグラファーとして撮影を生業としている方でなくても、「できればいいレンズを使いたい」という方はたくさんいらっしゃいます。そういった方々にも使っていただきたいですね。

敢えてお聞きしますが、そこがF4ズームではダメなのでしょうか。

野々村 フルサイズの特長って、ボケが大きいことだと思うのです。それを活かせるのはF4よりF2.8なのです。ただF2.8シリーズのLレンズだと、子供と近くの公園に散歩へ出かけるのに持っていきづらいですよね。何気ない日常を素敵な瞬間として、ボケも活かしつつ記録できるのが、今回のレンズかなと思っています。

福田 先ほど動画の話も出ましたが、このF2.8開放で動画を撮ると背景ボケがキレイなんですよ。一般の人が撮っても、プロが撮る映画のようなシーンが撮影できます。そういうシネマティックな動画が撮れるのも、このF2.8レンズのよさだと思いますね。

野々村 スマホにも、このボケ表現はできないことだよね。

F2.8開放で撮ってほしいレンズなのですね。

萩原 最新設計のレンズですから、開放時の描写力含め本当に良いレンズですよ。設計者からしてみれば、赤いリング(※Lレンズを象徴するデザインの赤いリングのこと)を付けたいくらい。

前玉に大きなUDレンズを使うことで、色収差も抑えやすいですし、今はカメラ本体の画像処理も進化しています。デジタル的なマッチングもよくなっています。

大容量・高速通信の「RFマウント」ならではのメリット

萩原 EFマウントでは通信量が少なくてできなかったことが、RFマウントは大容量・高速通信により実現できるようになりました。例えば、収差の電子補正やIS協調制御などです。レンズ自体に書き込めるデータ容量も大きくなっており、以前のマウントからは、何十倍という容量になっています。それが「EOS R システム」のメリットなのです。

小川 どのレンズも1本1本の個性があるので、レンズ自身が「私はこういう性能です」という情報をカメラに送ることで、ボディとレンズの相性が最適化されています。

ボディとレンズが最適化されていることは、AFの速度や精度にもよい影響はあるのでしょうか。

小川 モーターとしての能力はナノUSMやVCMもかなり優秀ですが、このレンズはSTMの制御がすごく上手いので、それに引けをとらない速度と精度を実現できています。

それがカメラボディとレンズの両方を自社で開発していることの「総合的な強さ」だと思います。

野々村 キヤノン同士で通信した方がよい結果が出るという、純正のメリットはありますよね。

技術的なお話を伺ってきましたが、どんな方に購入してほしいというイメージはあるでしょうか。

福田 一番使っていただきたいのは、「Lレンズは高い」と思っていらっしゃるお客様ですね。このレンズはLレンズよりは手が届きやすいお値段なので、若手のフォトグラファー、ビデオグラファーさんなどにも使っていただきたいです。あと、EOS Rカメラを使っているけれど「重いレンズはちょっとなあ」と思っている方には、フィットする商品だと思います。

萩原 スマホは便利ですが、一方でスマホだけで活動されるフォトグラファーは少ないと思います。これは撮影機材としての完成度の高さや、カメラで撮る事の楽しさが求められているからでしょう。

この商品を企画したのは「ハイアマチュアの方はもちろん、まだスマホしか使っていない方にも、F2.8固定というプロ御用達の仕様のレンズをLレンズよりも手の届く価格帯で提供したい」という思いが根底にあります。

スマホで撮ってインスタに上げている若い層にも、今までと違う表現ができるカメラやレンズを使って欲しいですね。

福田 カメラを使う第一歩としてLレンズはハードルが高いので、ラインアップとしてこのレンズがあることで、初心者~中級者層に受け入れられるのではと期待しています。

萩原 これ1本で済まされてしまうと会社としては困っちゃいます(笑)。でもそのくらい性能の高いレンズです。

小川 キットレンズで満足されているお客様も多いと思うのですが、それだと写真の楽しみを半分しか味わって頂けていない気がするので、単焦点も含めて「交換レンズのシステム」を楽しんで頂きたいです。

野々村 キットレンズから一歩ステップアップする時に、ちょうど選びやすいレンズとしてこの商品があります。表現的にもかなり向上できるレンズになっていると思います。

福田 このレンズは静止画、動画問わず使えます。InstagramなどのSNSに写真や動画を上げている方や、YouTube等でライブ配信をされているようなクリエイターさんも、このレンズが1本あれば様々な被写体を撮ることができます。いいレンズでもあり、「使えるレンズ」だと思います!

小川 1群が1枚レンズなのは構えた時の重量バランス的にも、動画の撮りやすさに貢献していますね。

萩原 ガラスの枚数で重心の位置が決まります。このレンズは重心が後ろ側にあるので、ジンバル等を使う際にズーミングしてもバランスがそれほど変わらないので、撮りやすいと思います。

開発者インタビュー #02

私が撮ってみたいもの

ここまでキヤノンの新型レンズ「RF28-70mm F2.8 IS STM 」のことを中心に尋ねた。では開発者の方々は、自身がこのレンズを使うならどういったシーン、被写体を撮りたいのだろうか。レンズの開発に携わっている皆さん「個人の思い」に焦点をあてる。

では福田さんからパネルをお願いします。

「旅先の動画」ということですが、映像を撮られているのですか。

福田 はい、普段は「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」というズームレンズを使っているので、あまりボケないんですね。サイズ感は本商品と同じくらいなのですが、「ボケ感が少ないのがちょっとなあ」と思うことがあるので(苦笑)。このF2.8で背景のボケを活かした、ちょっと映画っぽい動画が撮れたらいいなと思っています。

編集作業も自分でやっています。グレーディングや色のことはまだ勉強中ですが…。

youtube等には上げられていらっしゃるのですか。

福田 youtubeに公開しています。

野々村 いやいや、教えてもらってないし(驚)。

小川 初めて聞きました(笑)。

野々村 チャンネル登録するので(笑)。

小川 社内の人がどんな動画を撮っているのか、すごく気になりますね。

福田 人ではなく、風景とかが多いですね。旅行が好きなので、その時に動画を撮ります。

少し前に徳島で法事があったんです。その時の流れをドキュメンタリーとして記録しました。あの時は、「RF14-35mm F4 L IS USM」で撮りましたね。

野々村 法事の様子も撮られたのですか。

福田 そうです。私のようなプロではないけれど“作品制作したい方”にも、このF2.8ズームなら手にしやすいと思います。

映像作品は、カット割りで引きと寄りが必要になってきますよね。

福田 動画は演出やストーリー性を盛り込めるところが面白いです。F値が変わらないズームレンズは引きと寄りがスムーズに撮れるので扱いやすいです。

小川 F2.8だと、昼間の撮影ではNDフィルターが必要になってくるかも。そうするとジンバルも買いたくなって、どんどん投資していきそうですね。

福田 そうですね。絞りを開けたい時は、NDフィルターは必須ですね。楽しみが増えます(笑)。

野々村さんは「家族」ということで、ストレートど真ん中ですね!

野々村 はい。いま娘が2歳半です。だんだん自分で歩けるようになって、一緒に散歩に出かける機会も多いです。ただ子供と一緒だと時には抱っこしないといけないし、まだまだ手が掛かるのであまり大きな機材を一緒に持っていくのは物理的に厳しいです。

でも「いい写真、いい表情を残したい」となった時に、今回のレンズは気軽に持ち運べる小型軽量のレンズなので、マイ標準レンズとして子供の成長を記録していきたいなと思っています。カメラで言うとR8とセットにすると重量は1kg未満なので、どこへでも持っていけそうです。

野々村さんがめちゃくちゃいい「理想のお父さん像」になっていますが、皆さん大丈夫ですか(笑)。

小川 見た目と違う(笑)。

野々村 いえいえ、家族LOVEです(笑)。世のお父様方にもこのレンズを買って頂きたいです。

小川 僕は「自分の子供を自分の製品で」撮りたいです。

自分が携わった製品というのは我が子のような感じがしていて、これは開発者本人でないと味わえない経験です。

僕にも小学一年生の子供がいまして、その子が生まれる頃に「RF24-240mm F4-6.3 IS USM」というレンズをちょうど設計していました。僕はそのレンズを使って自分の子供を撮っています。F4からなので、ボケをしっかりだそうとすると、ズームで100mm以上にしなければいけません。周囲の親御さんはスマホで写真を撮られていますが、皆さん広角なのでどんどん近づいて撮ろうとしている中で、僕だけずんずん遠ざかって撮る(笑)。

前ボケ、後ボケで被写体が浮き上がったすごくキレイな写真が撮れます。でも周りからは「変な人だな」と思われていたはず(笑)。今回のRF28-70mm F2.8 IS STMを使えば、同じようなボケ味を2〜3mの近い距離でも十分に得られます。これで周りからは「普通のお父さん」に見られると思います(笑)。

萩原さんの「ハレの日」、気になります。

萩原 会社には秘密にしているのですが、実はカメラやレンズをたくさん持っているんです。

一同 秘密なんですか(笑)。

萩原 その中で、この質問を事前に頂いて「自分ならどういう時に使うのかな」と考えた時に、こういう表現にしてみました。

めでたいことやイベントですね。子供の入学式とか卒業式、あとは知人の結婚式とか。そういう時に使うかなと思っています。なぜかと言えば、そういう時は過去の経験上、機材の選び方が難しくて、「やっぱりズームにすればよかった」とか、「暗めのレンズだとつまらなかったかな」と反省することもある中で、「このレンズだと一番間違いがないだろう」ということなんです。

撮り直しがきかない。事故がない撮影をしなければいけない時に選ぶんじゃないかなと思って「ハレの日」という言葉にしました。

日本語らしくていいかなと思ったのですが、英訳されたらどうなるか考えていなかった(笑)。

最後にメッセージをお願いします。

小川 今回の「RF28-70mm F2.8 IS STM」は、チームキヤノンの技術が「今出せる!」というタイミングで凝縮された「開発者本人たちも使って満足できる製品」になりました。

静止画、動画問わず是非多くの方に使って頂きたいです。我々には「EOS R システムのパフォーマンスをベストにしていく」という使命があるので、その選択肢を広げられるようこれからも努力していきます。

  • 本インタビューの画像は全て「RF28-70mm F2.8 IS STM」で撮影しています。
82A4E41D10964FF29E1443D4FE1273A9
RF28-70mm F2.8 IS STM |開発者インタビュー
https://personal.canon.jp/articles/interview/developer-f28-70-f28
2
https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/interview/developer-f28-70-f28/images/720-444.jpg?la=ja-JP&hash=D89B497F05F27F85485B803C73C6003F
2024-09-12