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開発・生産 開発・生産

開発・生産

高い理想と、現実の壁。Lレンズへの期待は、時代と共に一層高まっていきました。
EOSの高画質化により、解像力やコントラストを極限まで突き詰めた光学設計が求められます。
開発者たちは、この時代の要請に挑み続け、目標達成のためには、優れた設計を行うだけでなく、
製品化につなげる生産プロセスの確立も不可欠です。
ここではキヤノンの開発・生産現場についてご紹介します。

  • 解像力とコントラストの向上

    キャプション

    デジタルカメラの高画素化に伴い、レンズにはより優れた光学性能が期待されるようになりました。このような時代の変化に対応し、RFレンズも目標光学性能を従来以上に高く設定。Lレンズにおいては、今まで以上に拡大して観賞や利用する場合においても高画質を実感できるよう、解像力とコントラストの両方を高めた光学設計を行っています。画質に寄与するさまざまなファクターの中で、拡大時においても高画質を維持するために、特に高周波成分の解像力、およびコントラスト を向上させるよう設計・評価を行っています。

  • 最適解のさらなる探求

    キャプション

    高度な光学理論と独自の光学設計ツール(ソフトウエア)を駆使して設計されます。このとき使用するコンピューターの高速化は著しく、最適化(各種収差を極小化するレンズ構成計算)の時間を大幅に短縮できるようになりました。その恩恵を活かして妥協なく最適解を探索するほか、最新の画像シミュレーションや公差解析シミュレーションなどの評価ツールも導入することで、光学性能のさらなる向上を実現しています。

  • 妥協なき信頼性の追求

    キャプション

    品質・精度・強度・耐衝撃・耐振動・耐環境・作動耐久性能。RFレンズが、たしかな信頼性をもった製品として撮影者の元に届くまでには、幾多のテストに合格する必要があります。総合的な信頼性を個々のレンズに応じて高いレベルで実現するためには、これらは不可欠な工程。だからこそ設計段階からそのレンズの使用状況に十分に配慮した作り込みが行なわれているのです。その後試作段階で、各種の厳しいテストの合格を経て、ようやく量産段階に移行。量産品では、さらにキヤノン独自の規格であるCS(Canon Standard)に基づく徹底した品質管理を実施します。そしてLレンズには、光学設計から機構設計までの生産管理部門の分野で一段と厳しい厳しい基準が設けられています。配置される各レンズの間隔、傾き、偏心など誤差は100分の1mm単位で排除。必要に応じ一本一本、精密調整を行うことで、その高い性能を維持。数十年にわたり妥協なく積み重ねてきた実績が、Lレンズの信頼性に直結しています。

  • 生産技術の進化

    キャプション

    Lレンズの開発、特に光学性能を向上させる拠り所となるのが、進化したレンズ加工技術と光学素子、コーティング技術です。高精度研削非球面レンズや蛍石レンズの生産技術の発展と積極的な採用、SWC (Subwavelength Structure Coating)やASC(Air Sphere Coating)の採用、UD(Ultra Low Dispersion)レンズ/スーパーUDレンズの開発などにより、高画質を実現しています。

  • 熟練工による超精密加工・組み立て

    キャプション

    超高画質・高性能なLレンズの生産にあたっては、極めて高い加工・組み立て精度が要求されます。それに応えるのが最先端の生産設備と計測機器、そして熟練工です。熟練工は卓越した技能を有し、サブミクロンレベルでガラスを加工したり、高精度で組み立てるなど、Lレンズ生産の最もデリケートな部分を担ってきました。キヤノンでは、レンズの種類ごとに自動化と熟練工による作業工程を最適化することで、生産性と品質を両立させています。さらに、彼らの知見や高度な技術を生産設備に反映すべく研究・開発に着手。レンズ生産のプロセス改革にも挑戦をはじめています。

開発者インタビュー

RF100mm F2.8 L MACRO IS USM 商品企画インタビュー

商品企画担当 家塚 賢吾

商品企画担当 家塚 賢吾

本レンズの企画背景

将来お客様が、この進化した機能と性能を手にしたとき、新しい撮影表現に挑戦できるレンズにしたいと思いながら企画を進めました。
最大撮影倍率1.4倍、ボケ表現を自由に調整できるSAコントロールリング、強力な手ブレ補正によって、撮れなかった写真や動画の作品が撮れるレンズ、撮影者の創造性を刺激するレンズにしたいと思いました。

最大撮影倍率を1.4xにした理由

マクロレンズを使う主な目的が被写体に寄ったマクロ撮影ですから、これまで常識的だった「等倍」という最大撮影倍率を超えていくことが、このレンズの一番の魅力になると思いました。最大撮影倍率が1.4倍を実現すれば、これまでの等倍マクロレンズとは違う写真・動画の作品ができるはずです。しかも高画質で。そのことがお客様にとって大きな価値になるだろうと考えました。

マクロ撮影が効果的なシーン

花や小さな生物、小物など、マクロ撮影の被写体は幅広いですね。撮影者が狙った被写体を前にして、光を見る、寄る、引く、フォーカス、露出、フレーミングを決めてシャッターを切る。その流れの中で、等倍をもう少し超えた倍率が欲しくなるときがあります。1.4倍まで寄れる余裕があると気持ちいいですね。そしてマクロ撮影ではこのレンズの強力なISが手ブレを抑えてくれるので安心して撮影に集中できます。

1.4倍で被写体を捉えるメリット

最近のデジタルカメラは高画素ですので、オリジナル撮影画像を1.4倍相当にトリミングしても、十分高画質なことも多いでしょうね。
ただ、ファインダーをのぞきながら被写体に集中して撮影すると、気持ちが高まります。その気持ちの高まりが、撮影しているという実感と満足度の高い撮影結果につながると思います。

1.4倍のマクロ撮影が、もたらす効果

このマクロレンズでは最大撮影倍率が等倍を超えた1.4倍です。撮影倍率が上がると被写界深度が浅くなります。この撮影倍率の高さと被写界深度の浅さを使いこなすと、新しい被写体や表現を発見することができます。
眼で見て被写体を探すのではなく、レンズを通して被写体を探す楽しさがあります。
目の前にある被写体に、こんな美しさが隠れていたのか。と驚くかもしれません。
今までレンズを向けたことがなかったものが、素敵な被写体になることもあると思います。

従来のマクロレンズより拡がる表現力

このレンズなら、これまでにない抽象的な世界を表現できると思います。
もちろん、シャープでリアリスティックな表現もできます。表現の幅が広いレンズです。

新たに搭載されたSAコントロールリング

球面収差を変化させて、ボケ表現を調整する機能です。本体にあるSAコントロールリングをプラスマイナス方向に回転させると、撮影表現に応じて前ボケか後ボケを柔らかくする、逆に硬くすることが自由にできます。回転量によって、ピントの合った部分の描写のやわらかさも調整できるため、花などのマクロ撮影だけでなく、ポートレート撮影にもいい機能です。

ユーザーのみなさまへ

このマクロレンズを使うと、1.4倍の最大撮影倍率や強力な手ブレ補正などで、創造性の高い撮影を快適に行えます。さらにSAコントロールリングでボケ表現のコントロールをすると、表現の幅は無限に広がります。
世界中で、まだ誰も見つけていなかった写真や動画の表現を、このマクロレンズで見つけていってもらえるとうれしいです。

RF100mm F2.8 L MACRO IS USM開発者インタビュー

光学設計担当 森 丈大

光学設計担当 森 丈大

マクロレンズが必要な理由

例えば小さな花などを大きく迫力のあるように写したい時に、近くに寄ろうとしますよね?一般的なレンズは、大きく写そうと近くに寄っても、ピントが合わないものが多いです。
さらに、ピントが合ったとしても、近くに寄るほど画質が悪くなるという現象が発生してしまいます。マクロレンズはそのような課題を解決するために、近くに寄ってもピントが合い、きれいに写るように設計されたレンズなんです。

マクロレンズの設計

マクロレンズの設計はズームレンズの設計と似ています。
マクロレンズの設計は、撮影倍率を大きくするために、ズームレンズのように各レンズを大きく移動させます。しかし、手動で動かすズームとは違い、素早さと正確さが求められるオートフォーカスには、特別な設計が必要となります。
そこで、オートフォーカスに対応したマクロレンズは、動かすレンズの重さや移動軌跡はもちろん、レンズの保持方法や制御方法含めて、素早さと正確さを実現するための技術をたくさん盛り込んで設計しています。

1.4倍の撮影倍率

このレンズは安心してマクロ撮影ができることと、幅広い表現力を実現するために1.4倍を目指しました。
等倍までしか撮影できないレンズだと、等倍の位置から少しでも被写体が近づいてしまうだけで、ピントが合わず失敗した写真になりやすいです。そのため、等倍の写真を撮ることが意外と難しいです。
しかし、1.4倍まで撮影できるレンズにすることで、撮影できる距離に余裕が生まれ、ふと被写体が近づいたとしても、ピントがしっかり合い、安心して撮影することができます。
さらに、等倍以上で撮影すると、目で見ている世界とはまったく違う、幻想的な世界を描写することができます。美しいマクロの世界を是非このレンズを通して体感して頂きたいと思います。

AFと拡大倍率1.4倍の両立

このレンズは大口径と、ショートバックフォーカスを活かし、フォーカスレンズの可動域を最大限広げました。一般的なマクロレンズの光学系は長い歴史とともに洗練され、フォーカスタイプやISタイプ、絞り位置がある程度決まっています。
しかし、今回1.4倍を実現するためには既存タイプからの脱却が必要不可欠でした。
このレンズは、従来のマクロレンズとは違い、ISや絞りを前側に配置し、フォーカスとすみ分け、マウントぎりぎりまでフォーカスレンズを動かすことで1.4倍を実現しています。

設計上の工夫

まず最初に、常識にとらわれず、常にイチから考えることが大切です。
どの分野においても既存タイプからの脱却と、新しい価値の創出は困難だと思います。
実際に、このマクロレンズは、既存レンズを参考にした設計ではなく、1枚の凸レンズから設計を始めたことによって、今回の配置に辿り着きました。
このレンズの断面図を他のマクロレンズと比較してみると、全く違う構成になっていることを分かっていただけるかもしれませんね。

高画質の実現

このレンズは最前面に凹レンズを採用し、近い被写体からの光線を優しく受け入れ、少しずつ光を曲げることで球面収差の発生を抑えています。そこに凸レンズを1枚加え、色収差の補正も行うよう設計しました。レンズの枚数を増やし効果的に配置することで、特殊なレンズを使わずに高画質を実現しています。

撮影倍率等倍と1.4倍の違い

撮影倍率があがるとピントが合っている範囲がとても小さくなり、ボケのある範囲が大きくなるため、より幻想的な描写が可能となります。しかし、ちょっとした手ブレでピントが合っている範囲から外れてしまうため、合わせたいところにピントを合わせるのが難しくなります。
それから、被写体が大きく写るということは、カメラの手ブレの影響も大きいことになります。ですから、1.4倍の撮影になると高精度なオートフォーカスと強力な手ブレ補正機能が必要となるのです。

強力な手ブレ補正

このレンズは手ブレ補正レンズを動かしたときの収差変動をより小さく設計しました。
さらに、カメラのボディ内手ブレ補正と協調し、より強力な手ブレ補正も実現しています。

AF設計について

1.4倍を実現するためには複数のレンズを大きく移動させる必要がありました。
このレンズには「ナノUSM」というキヤノン独自の超音波モーターを搭載し、高速で高精度なオートフォーカスを実現しています。

本レンズの撮影ジャンル

マクロ撮影だけではなく、風景やポートレートなど、全ての撮影領域で高画質を維持できるよう設計しました。

動画撮影

このマクロレンズは「ナノUSM」を搭載しているので、静かで素早いオートフォーカスとなっているため快適な動画撮影も楽しめます。
さらに、動画撮影時にはフォーカス時の画角変化であるブリージングが気になるのですが、新しいフォーカスタイプを採用で、ブリージングも抑えられた設計となっております。

SAコントロールの開発

「ナノUSM」により自由にフォーカスの軌跡が変えられるようになったことで、「SA」と呼ばれる球面収差をコントロールすることを思いついたのがきっかけです。
画質を悪くするだけだった収差を、高精度にコントロールすることによって、ボケを柔らかく表現したり、逆に硬く表現したりといった、表現の自由度を上げられるようにしたのです。

本レンズの楽しみ方

私は、小さなエビとメダカを撮っています。
実は最近、子供がメダカを飼ったことをきっかけに、家で水槽を作るようになりました。水槽作りは大人も楽しめて、数が4つに増えてしまいましたが、小さい魚やエビが元気に泳ぎまわっています。
このレンズを使うことで、生き生きと動く魚達の姿を、手持ちで気持良く撮影することができます。このレンズはすごく良くて、手振れしにくく、フォーカスも早く、1.4倍もとてもいいと感じました。ぜひ皆さんにも、このレンズを使って気軽にマクロ撮影を楽しんでほしいと思います。

RF70-200mm F2.8 L IS USM/RF70-200mm F4 L IS USM 開発ストーリー

(左)電気設計担当 本間 大貴(右)機構設計担当 佐々木 邦彦

(左)電気設計担当 本間 大貴
(右)機構設計担当 佐々木 邦彦

小型化の経緯

まずは光学タイプの検討から始めました。簡単に言うと「全長固定」か「全長が変わるタイプ」の2択ですね。全長が変わるタイプはミラーレスカメラの利点であるショートバックを活かした小型化に有利な光学タイプです。小型化には有利ですが、EF時代と大きく使い勝手が変わってきます。キヤノン内でも議論がありましたが、使い勝手が変わることで撮影の幅を拡げていただきたい、それによってEOS Rシステムを買っていただきたいという想いで今回のような提案をさせていただきました。

F4とF2.8

例えば、F4の方をF2.8の光学タイプから変えて、全長固定タイプにするとかエクステンダー対応機種にするとか、そういう選択肢もあるにはありました。ただ、それをしてしまうとサイズが大きくなってしまうのと、F4というスペックだからこそ、F2.8よりももっと小型化を狙えるといったところから、ここは絶対小型化に振り切った方が面白いよねという話になって、F2.8と同じ光学タイプにして、いけるところまで小型化するという方向性に決まりました。

エクステンダー非対応

やはりEFと違うということで、EOS Rの将来性を期待してほしいという思いがありました。エクステンダーに対して要望が強いことは分かっていました。ですが、実際に設計してみると、ワイド状態で短くならなくて思ったよりEF時代より小さくならなかったのです。EF70-200mm F2.8L IS III USMは非常に高い評価をいただいている一方、かさばるという意見も同時にいただいていました。今回のRF70-200mm F2.8 L IS USMは交換レンズシステムを活かして使い勝手が違うという利点を最大限発揮するため、エクステンダーについては、断腸の思いで非対応としました。ですが、その結果もあってEF時代と比べて、全長が約3/4と、圧倒的な小型化を達成することができました。私も最初F2.8を見たときは、こんなに小さくなるんだって驚きましたが、ただF4のほうも負けていなくて、ほぼF4標準ズームとサイズ感が変わらないというところまで小型化できています。あと、ズーム時に全長が変わるタイプは、どうしてもレンズが繰り出す構造上ズームリングを回すトルクが重かったり硬かったりなりがちですが、そういうところがストレスにならないように、軽く楽に回せるように工夫をして設計する必要がありました。このように小型化と両立することが難しかったことは本当にたくさんありました。

軽量化

軽いというのももちろん大事ですが、カメラとのバランスも大切だと思います。RFになってカメラ側も小型・軽量化が進んでいます。EOS R5/R6といったカメラと組み合わせた時に、どういったバランスになるかサイズ感になるかといったところも考えながら設計をしています。長時間持ち歩く時の疲れ方が変わってくるのではないかと思いますので、いろんな方に体感していただいて感想が聞けたら嬉しいです。

光学設計

F2.8/F4共に共通の技術を取り入れています。まずは先ほどお話しした光学タイプです。70-200mmといえば全長固定。そういう常識があると思います。ですが今回のRFレンズは、社内では多群ズームと呼ばれる変倍・フォーカス・収差補正といった旧来の役割に縛られない、各レンズ群がそれぞれの機能を持った新しい光学タイプを提案しています。モーターでフローティング群を制御することに挑戦したのもこのレンズが初めてでした。フローティング群というのは、主に収差を打ち消すための動きをするレンズになるんですけど、これがモーターで制御することによって、どのズーム位置で、どの距離にピントを合わせていても、収差の少ないキレイな画質で写真が撮ることができるというような、レンズの基本性能の向上につながる技術になっています。あと、電子フローティングをすることで最短撮影距離の短縮も可能になっています。F2.8ですとEF時代は1.2m、RFですと0.7mまで短縮できています。ワイド側だけ寄れるという設計もできなくないですが、やはりテレ側で寄って撮れないとダメだよね!ということで、こだわって設計しました。F4のほうも同じ理由で、最短撮影距離を60cmまで短縮できています。この小型化された70-200mmで、手を延ばせば触れる距離までピントが合って写真を撮れるということは、なかなか嬉しいことではないかと思っています。

AF性能

電子フローティングを採用することで苦労したこともありました。例えばモーターで制御するということは制御に遅れが生じると、逆に大きく収差が発生してピント精度があまくなる恐れがあります。こうならないように制御側でもいろいろ工夫をしてきましたが、それでも最初はなかなかうまく行かなかったですよね。実際試作品の第一号が出てきて、フィールドテストをしましたが、苦労の連続でした。最初はなかなかピントが合わなくて、夜遅くまで議論を重ねて、最終的にはこれならというところまで性能を上げることができました。それによって撮った写真も圧倒的に歩留まりが良くなりました。このレンズの制御は本当に難しくて、ピントを合わすためにフォーカス群を動かすのは当たり前ですが、それと同時にフローティング群の制御が必要です。AFすると目にも止まらぬ速さでピントが合いますが、あの一瞬の動きの中で、実は二つのレンズをそれぞれミクロン単位で同時に制御をしています。最終的に止まる位置ももちろんなのですが、動いている最中においても、その瞬間瞬間で二つのレンズがいるべき位置を正確に認識して、ミクロン単位で動きにズレが出ないように、というのを補正しながら動かすということまでやっています。ここまでしてあげないとピントを動かしている最中に収差が発生して、動いている被写体にピントが合いきらないということになってしまいます。ここは本当に苦労して何度も何度も試行錯誤を重ねて、ようやく激しい動きの被写体にもばっちりピントが合うという製品に仕上げることができました。動きものを撮っている時にしっかりピントが合う、止まっている被写体と同じ画質で写真が撮れる。ユーザーが求めていることに対して当然のごとく達成する。それが非常に苦労した点でした。

信頼性

全長が変わるタイプを提案したのですが、「前玉が動くズームレンズはレンズ先端をぶつけた時が心配」というユーザーの声があることは理解していました。そのため、F4の前玉を移動させる筒には通常の2倍の6個のカムフォロア(移動筒の保持部品)をF2.8の方はさらに倍となる12個のカムフォロアで移動筒を保持しています。社内試験も繰り返し行っており、「正にキヤノンの70-200mmだ」と言っていただけるような太鼓判が押せるレンズに仕上がっています。

高画質

画質が進化しているのは当然で、球面収差を抑制したことによる画面中心の抜けがよくなっているだけでなく、色収差や像面湾曲を抑制したことによって、周辺画質も圧倒的に高画質を達成しています。これは、先ほど説明した電子フローティングの効果ももちろんありますが、光学タイプを全長が変わるタイプを選択することによって広角側で無理に全長を長くする必要が無くなって自然な設計ができるようになったというのも理由のひとつです。広角側で無理に全長を長くする必要が無くなって自然な設計ができるようになったというのも理由のひとつです。他にもRF70-200mm F2.8 L IS USMは逆光耐性を非常に良くしています。例えば、鉄道写真を撮る場面を想像していただきたいのですが、電車の強烈なライトが入るようなシチュエーションでもクリアな写真が撮れることを約束いたします。これもガラスのコーティングの進化や、シミュレーションの進化による賜物です。他にも光学素子も年々進化しています。例えば、非球面UDレンズをキヤノンで初めて搭載したのもRF70-200mm F2.8 L IS USMです。明確には言いづらいのですが、これによって全長短縮を数ミリ程度達成することに貢献できています。他にもレンズ枚数の削減も行っており、軽量化にも多大な貢献をしています。

手ブレ補正

あと、RFになってカメラとのIS協調制御に対応したところも大きなメリットになるのではないかと思っています。F4だとF2.8に比べて明るさが足りない分、シャッタースピードを遅くしなければならない場面があると思います。例えば手持ちでの夜景撮影といった場面で、シャッタースピードが遅くなってしまうと、きれいに撮影するのが難しいが、IS協調制御への対応で最大7.5段分の補正効果が得られて、手持ちでの撮影を強力にサポートしてくれます。こういった技術の進歩があるからこそ、RFではEF時代とは違った観点からレンズの選択を考えてみても良いと思っています。

ユーザーの皆様へ

従来からキヤノンの70-200mmは非常に高い評価をいただいています。そのリニューアルにあたって叩かれると怖いから無難にまとめようではなくて、恐れ知らずなくらいのチャレンジ精神をもって開発しています。これが言えるところがキヤノンの良いところだと思っています。コンセプトを変えたこともあって賛否あるとは思いますが、このレンズを使うことによって撮影の幅が拡がったという声を頂けると非常に嬉しいです。お客様の声をこれからの製品開発においても、どんどんフィードバックしていきたいと思います。お声をきかせてください。RFレンズ開発者には、「RFではEFと同じことをやるだけじゃダメだよね」という暗黙の共通認識というか、空気感みたいなものがあります。開発するレンズ一つ一つで、何かやってやろうという想いをもって、日々開発に取り組んでいます。今回紹介したレンズも70-200というスペックのレンズを、このサイズ感で持ち出せるというのはRFにしないと得られない大きな喜びになると思います。一人でも多くの方が良いレンズを使って撮影する楽しさというものを気軽に味わってもらえたら嬉しいと思ってます。

RF15-35mm F2.8 L IS USM 開発ストーリー スペック篇

この製品は、“プロの方に常用で使っていただける、メインストリームとなる広角ズームレンズを作りたい”という思いのもとに生まれています。大三元レンズの中でも、広角レンズは各社スペックが違うため、こういったコンセプトのもと検討を始めました。
まず、テレ側です。当初、競合製品など市場のトレンドから、テレ端を30mmにするという案がありました。たとえば24-70mmのラインナップがあり、つながりだけを考えれば、15-24mmという選択肢もありました。しかしながらEF16-35mm F2.8L III USMの使用頻度を分析してみると、テレ端35mmの使用頻度も高く、プロ常用のメインストリーム広角レンズとしてはテレ端35mmは譲れない、という結論になりました。大三元レンズの最大のポイントである、高い光学性能を15-35mmの焦点距離幅で使用できるというのは、大きなメリットだと思います。このおかげで風景・星空だけでなく、ウェディング・報道・スナップ・ポートレートなど、幅広いジャンルで表現できるレンズになったと考えています。
次にワイド側です。実はEFレンズのF2.8広角ズームレンズの歴史は、20-35mm、17-35mm、16-35mmと、技術の進歩とともに広角化し、16-35mmで頭打ちになっていました。
今回、R Systemになったことで、さらなる広角化の可能性が広がりました。
そのうえで、ワイド側は、主に3つの案がありました。
1つ目が小型化優先の16-35mm
2つ目がバランス重視の15-35mm
3つ目がワイド側にふった、14-35mmです。
検討当初は、案1番“16-35mm、小型化”も有力でした。しかしながら、R Systemのショートバックが広角レンズの設計に非常に有利であるということは周知の事実でした。そのため、さらなる広角化への挑戦は譲れませんでした。正直なところ、案3の”14-35mm”もやりたかったです。というのも1mm違うだけで、写真が与える印象は全然違うからです。しかしながら、82mmのフィルター径では、どうしても14-35mmの設計は難しくEF16-35mm F2.8L USM IIIよりも大型化してしまいました。魅力的な広角写真が撮影できる15mmそして撮影時の機動力を損なわないサイズ感。これらを総合的に判断して、案2番”15-35mm”としました
光学性能だけでなく、絞りがF2.8通しであることも、このレンズの大きなポイントです。強力なISと組み合わせることで、光量が少ない環境でも、対応できるスペックになっています。15mmでF2.8の明るさがあれば、星が流れずに撮影することができます。たとえば星景写真を撮りに行ったときに、昼間のスナップから、夜の星撮影までこのレンズ1本でこなすことができます。“風景は基本絞る”という考え方があるかもしれません。明るい開放でピントを合わせて背景をぼかす。広角でやると、背景がぼけつつ、被写体が浮かび上がってくる。F値が明るいレンズだからこそできる撮影です。

RF15-35mm F2.8 L IS USM 開発ストーリー サイズ篇

R Systemに変わったことで、フランジバックが短くなりました。そのため、同じ光学系で設計すると、後ろ側が短くなった分、レンズの前側が伸びることになり、レンズの全長が長くなってしまいます。だからといって、ショートバックだから製品全長を伸ばすという妥協はしたくありません。EF16-35mm F2.8L III USMより絶対に小さくしたかったです。
通常、広角ズームレンズの1群は、ズーム時に往復する軌跡を描く。つまりズームの途中で、全長が最短になる設計でした。RF15-35mm F2.8 L IS USMでは、テレ端で最短になるようなレンズの配置です。またRF15-35mm F2.8 L IS USMでは、メカ全長を可変としたことで収納時にレンズ全長が最短になりました。フィルター枠と1群が独立したカムで動くことで、落下などでフィルター枠が衝撃を受けた際に1群の光学系に影響がでないよう、工夫しております。これらの工夫により、携帯性と堅牢性を両立した設計をしております。
RF70-200mm F2.8 L IS USMのような圧倒的な小型化はできませんでしたがEF16-35㎜ F2.8L III USMより1mm小さくすることができました。重さはEF16-35mm F2.8L III USMより約50g重くなっています。これは大体、卵1個分です。
日中だけでなく、暗闇にも強いレンズにしたくて、15mm始まりであること、また画質、IS AFなど、とにかくスペックにこだわりました。レンズ単体では重くなってしまいましたが、これ1本で幅広いジャンルの撮影ができることを最優先とした設計にしています。さらにレンズ単体だけでなく、システムとしての機動力にもこだわりました。RF15-35mm F 2.8L IS USMの高画質を追い求めながらも、アウトドアで使用されるシーンが多いからこそ、カメラ装着時の長さ、重さ、さらに持った感覚、ホールド感にもこだわりました。EOS 5D Mark IVとEF 16-35mm F2.8L III USMとの組み合わせと比較すると長さで8%、重さ6%の小型軽量にできました。

RF15-35mm F2.8 L IS USM 開発ストーリー 光学補正篇

このレンズは 色収差補正・歪曲収差補正・手振れ補正 これらすべてを光学的に補正しています。歪曲収差補正に関しては 1群内のレンズで補正しています。そのため 1群内のガラスモールド非球面レンズの成形難易度が非常に上がっています。
宇都宮事業所の開発チームと製造チームは、道路を隔てて反対側という位置関係もあり、量産立ち上げ当初は、よく工場の製造部隊から呼び出されました。これはズームレンズ全般にいえることですが、至近距離から無限遠まで、画質を安定させることが難しく、設計する上での性能バランスがとても重要になります。広角レンズはワイド側ですと遠景側、つまり遠くの風景、広角かつ無限遠になるものを撮影する機会が多いことから、EF16-35mm F2.8L III USMよりも、ワイド側での遠くの画質を安定させるような性能バランスにしています。また風景撮影の時は、小絞りも、よく使われますので、絞った時の画質向上も意図した光学設計になっています。
ガラスモールド非球面レンズやUDレンズを使っていることに加えて各レンズ群が光線を曲げる力、いわゆる屈折力が高い設計になっていて、製造難易度はとても高くなっております。特に第1レンズ群、第5レンズ群の製造難易度が高く、日々の光学性能のチェックを行っています。
キヤノンは75年以上もの間、レンズを製造しており、累計生産本数は1億6000万本以上になります。レンズの開発・製造を通し、安定した品質精度を可能にするデジタル化技術、ゴーストなどを抑えるコーティング技術、そして高度な光学調整を可能にする組み立て技術など、さまざまな技術を研究・開発し、製造に役立ててきました。本製品も製造難易度が高く、立ち上げ当初は非常に苦労しました。しかしながら、このレンズで得た技術は、現在そして未来のRFレンズの画質向上に確実につながると確信しております。

RF15-35mm F2.8 L IS USM 開発ストーリー IS NUSM篇

旧製品の改善要望としてISの搭載を望むユーザーの声は多かったです。EF16-35mm F2.8L III USMは ISを搭載していませんが、RF Lレンズの、“ISを入れて高画質を実現する”という思想のもと、CIPA基準で、防振効果5段を目標に設計を進めました。
IS搭載で最も苦労したことは、搭載する位置です。光学屋とメカ屋で意見が分かれました。光学屋は高画質化のために、センサー側、メカ屋は小型化のために、より被写体側にISを搭載したい、そういった思いがぶつかりました。センサー側に搭載すると、ISの補正精度を高めることができる一方、ISユニットからわずかに発生する電磁波により、撮影画像にノイズが発生してしまいます。被写体側に搭載すると、駆動レンズが重たくなってしまいます。結果として、両者痛み分けという形で現在の位置、4群に搭載するということになりました。設計の最終版は、0.1mmや0.1gの取り合いとなるので、光学屋さんとメカ屋さんとで口論になりましたが、結果的に良い製品を作り出すことができました。
カメラとの連動にもこだわりました。風景は三脚を使う前提という考えを少しでも変えたかったです。三脚による制約を少しでも軽減し、さまざまなアングルでブレずに撮影できるよう、レンズの光学手振れ補正とカメラのボディ内手振れ補正機能の協調を実現するためカメラチームと毎週のようにやり取りを行いました。ウェブ会議で、仕様のすり合わせを重ねましたし、実際に試作品ができたときは、Face to Faceでのやり取りのために、幾度も出張して一緒にシステム検討をしてきました。
レンズを開発する上で、こだわったポイントの1つが、ピントの精度です。ただ単に精度が良いだけではダメで、EF時代より、動画撮影への高まる需要に応えるため、動画親和性の高い、滑らかで、かつ高速なフォーカス群の開発が求められました。フォーカスを滑らかに動かすために、とにかくレンズを軽くしたかったです。RF15-35mm F2.8 L IS USMは、EF16-35mm F2.8L III USMと同じく、2群フォーカスであり、3枚のレンズでフォーカスしていますが、EF16-35mm F2.8L III USMのレンズ構成のままだと質量が大きすぎるので複雑なメカ構成が必要でした。そのため、RF15-35mm F2.8 L IS USMはレンズ群の構成を見直すことで、2群のレンズ径を小型化し、それにより軽量化することができました。これによりダイレクトなフォーカス群のコントロールが可能になり、高速かつ滑らかなフォーカス群が開発できました。

RF15-35mm F2.8 L IS USM 開発ストーリー ゴースト篇

一般的に広角ズームレンズは ゴースト対策の設計が難しいです。RF15-35mm F2.8 L IS USMも例外にもれずゴースト対策には苦労しました。ゴースト対策として、2種類の特殊反射防止コーティングが存在します。1つは入射角が大きい光に対しても反射防止効果を発揮するSWC。もう1つが入射角が垂直な光に対して高い反射防止効果を発揮するASCです。どの面にSWCを使って、どの面にASCを使うか、その組み合わせパターンが非常に多く、どれが最適かを考えるのが、光学設計としての難題でした。そのため金曜日の夜に、超高速処理のコンピューターにシミュレーションを流して、月曜日に会社に来たら全部結果がそろっている、というような感じで設計を進めました。いろいろシミュレーションした結果、RFでショートバックになったことにより、センサー寄りのレンズ群、いわゆる後玉のレンズ群に反射防止コーティングを配置したほうが、ゴーストに効果があるということがわかりました。これは後玉とセンサーとの物理的な距離が短く、後玉に絡むゴーストは、すぐセンサーに取り込まれてしまうため、レンズの曲率を多少いじったくらいでは、ゴーストの逃げ場がない、ということが理由でした。結果としてEF16-35mm F2.8L III USMではSWCもASCも前玉側に配置しておりますがRF15-35mm F2.8 L IS USMでは、SWCは前玉側、ASCは後玉側に配置することが最適だという結果が得らえました。
ただしSWCやASCの搭載面を決めても、ゴーストが無くなるわけではありません。光学系の1面1面のレンズの曲率をコントロールすることで、ゴーストを低減しています。たとえば、あるゴーストに関してはSWCやASCの力を使って弱める、あるゴーストに関してはセンサーの外側にゴーストを逃がす、そういった、ぎりぎりのところを狙って、光学設計をしました。